転生した悪役令息は破滅エンドをなかなか回避できない

ハバーシャム

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3年生

母の一面

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 1人になって少しだけ気分が落ち着いてきた頃、男がエチカを連れて部屋に入ってきた。

「マリス!」

 エチカの両手には手枷がつけられていて、手枷から出るチェーンが足枷に繋がれている。

男はエチカから離れると、ドアの横の壁に寄りかかった。

「さっさとやれ」
「……あの、人に見られてると集中できないんです。ドアの外に行ってくれませんか?」

 エチカが男に向かって言う。

「はぁ? いいからとっととやれよ」
「無理です。少しの間でいいので出て行ってください。お願いします」
「お前……。チッ、妙な事してもドアの外に筒抜けだからな」

 男は部屋から出て行き、大きな音を立ててドアを閉めた。

「マリス大丈夫?」
「うん、だいぶ落ち着いた」

 僕は体を起こし、エチカにベッドに座るよう促した。

「マリス」

 エチカは忍び声を出した。

「ぼく、本当は治癒能力なんて無いんだ。ごめん」
「それは全然大丈夫……でも、じゃあ本当は神子じゃないの?」

 僕も忍び声で答える。この会話は、外に聞こえてしまったらかなりまずい。

「ううん、神子ではあるんだ。詳しいことはまだ言えないけど……近いうちに話すよ。
 それにしても、かなりイレギュラーな状況になったね。どうやって脱出しようか」

 エチカは考えるときに顎を触る癖があるようで、手を腕に動かした際に鎖の音が鳴った。

「おい!! まだかよ!」

 ドンドンと激しいノックが聞こえる。そろそろドアが破壊されそうだ。

「すみません、マリスの熱が思ったより酷いみたいで!」

 エチカがすかさず返事をした。

「エチカってフィオーネのことが好きなんだよね? ゲームの通りならフィオーネが助けにきてくれるんじゃないのかな」

 小さな声でエチカに言う。

「あ、それなんだけどね……あれ、嘘なんだ。どうしても学園祭パーティーに出なきゃだったからさ。つい咄嗟に」
「う、嘘……?」
「だからさ、別にフィオーネとの好感度が高いわけでもないんだ……マリス、そろそろアイツが入ってくる。ぐったりしたふりしてて」
「う、うん」

 エチカはベッドから降りた。僕は、ベッドにうつ伏せになった。

 エチカの言った通り男が大きな音を立てて部屋に入ってくる。

「おい、長えよ!」
「すみません、でも過度なストレス状態によりマリスの体調が戻りません。しばらくマリスの側に居させてもらえませんか?」
「駄目だ。お前の治癒能力は本物なのかもわからねぇし、こっちに来い」

 男がエチカの鎖をぐいっと引っ張る。

「離して! このままマリスが死んじゃうかもしれません! マリスが死んでしまってもいいんですか!?」
「はぁ? この程度で死ぬかよ」
「マリスの母親、リリアン様をご存知ないのですか?」

(え……?)

 どうしてここで母の名前が出てくるのだろう。

「知ってるに決まってる」
「なら、わかりますよね? マリスはリリアン様にそっくりなんですよ?」
「っ……、わかった。1日だけやる。その代わり、1日で絶対に治せよ。死なれたら困るからな」

 男は渋々部屋から出て行った。

「どういうこと?」

 小声のままエチカに尋ねる。どうしてエチカと、それにあの男も僕の母のことを知っているんだろう。

「ぼくたちを攫った人たちは、アスムベルク伯爵のところの奴隷たちだ。彼らの髪の色……ほとんど赤毛だったでしょ? 赤毛は下層階級の人たちに多かったんだ」

 たしかに、思い返してみればみんな髪の色は赤だった。
 特にアルは、燃えるような綺麗な赤色をしていた。

「これは孤児院に居た時に聞いた話なんだけどね。リリアン様は昔からすごくお優しい方で、貴族にも関わらず平民と交流したり、時には支援もしてくれていたそうなんだ」
「初めて聞いた……」
「リリアン様は誰からも愛されていた。だからさ、彼らもリリアン様にお世話になったことがあるんじゃないかなって思って」

 たしかに、母の名前を聞いた瞬間、男の様子が変わった気がする。

「初めて肖像画を見たときは驚いたよ。マリスにそっくりでさ……
 リリアン様はとてもお身体の弱い方だったと聞いていたからさ、アイツがわかってくれてよかったよ。君の母を利用するような真似をしてごめん」

 エチカが申し訳なさそうに俯く。ジャリ、とエチカの鎖が音を出した。

「ううん、助かったよ。ありがとう。それに、エチカのお陰でお母様の知らなかった一面を知れてよかった」
「ほんと? なら良かった」

 エチカは小さく笑みを浮かべた後、真剣な表情に戻った。

「……それじゃあ、脱出の方法を考えよう」
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