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3年生

エチカに会わせて

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 何時間経ったかわからないが、隣でアルの動く気配がする。もう夜が明けたのだろうか。

 僕は目を閉じて寝たふりをしていた。不意にアルが僕の髪に手を触れた。
 僕の体が反射でぴくりと反応してしまう。アルはすぐに手を離した。

「マリス……」

 アルがぽつりと呟く。

「ごめんなさい」

 数秒後、ドアの開閉する音が聞こえ、部屋から人の気配が無くなった。

 ゆっくりと瞼を開けると、寝る前と同じく薄暗い天井が視界に広がる。
 窓が無いので、今が朝なのか夜なのかもわからない。

「……」

 身体を起こしベッドの隅で膝を抱えた。鎖の擦れた手首が赤くなっている。

「帰りたい……」

 閉塞感に息が詰まりそうだ。

(今何時なんだろう)

 やることもないし、何もないこの部屋にいるのは気が狂いそうだ。

「アル、いる?」

 返事が返ってこない。ベッドからドアまでは少し距離が離れているが、ドアは薄いので聞こえているはずだ。

 本当にアルがいないか、無視されているかのどちらかなのだろう。

 
 それからしばらくぼうっと壁を眺めていると、突然ドアが開き赤い髪の若い青年が部屋に入ってきた。

「飯だ」

 男はベッドの上にパンを投げ、床の上に水の入ったコップを置いた。

「あ、あの、エチカに会わせてくれませんか?」

 男は何も言わずにじろりと僕を見た。

「あの……」
「毒や薬は入ってない。いいか、ちゃんと食えよ? 後でまた来るからな」

 それだけ言って、男は部屋から出て行った。
 そういえば、ここに連れて来られてから一度も水分をとっていない。

 自覚すると途端に喉がカラカラに乾いてくる。僕はベッドから立ち上がると、床に置かれたコップを取って半分ほど飲み干した。

 ぬるくて美味しくない。こんなに不味い水は初めて飲んだ。

 ベッドに腰掛けて、固いパンを手に持つ。ひと口サイズに千切って口に入れる。パンは何も味がしなかった。

 パンを口に入れる作業を終えて、コップの水を飲み干す。

 少しして、先ほどの男が部屋に入ってきた。

「お、ちゃんと食ったな」

 男は空のコップを回収し、部屋を出ていこうとした。僕は咄嗟に男の服を掴んだ。

「おい」
「今何時ですか? 時間がわからなくて狂いそうなんです。エチカに会わせてくれませんか」
「は?」

 寝不足と緊張と不安で頭が回らない。さっき食べたパンも吐き出しそうだった。
 体も熱くて、おそらく熱を出している。

「離せ」

 男が僕の手を剥がそうと僕の手に触れる。

「うわ、あっつ! お前もしかして熱出してる?」

 男が僕の額に手を当てる。

「あークソッ、なんでこんな病弱なんだよ!?」

 男がイライラした口調で言う。

「いや待て、丁度良いな。神子の治癒能力が本当なのかお前で実験しよう。お前はベッドで大人しくしてろ。拗らされても困るからな」

 そう言い男は部屋から出て行った。何だかよくわからないが、エチカに会えるみたいでよかった。

 僕はベッドに横になって、エチカが来るのを待った。
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