転生した悪役令息は破滅エンドをなかなか回避できない

ハバーシャム

文字の大きさ
上 下
84 / 120
3年生

エチカに会わせて

しおりを挟む
 何時間経ったかわからないが、隣でアルの動く気配がする。もう夜が明けたのだろうか。

 僕は目を閉じて寝たふりをしていた。不意にアルが僕の髪に手を触れた。
 僕の体が反射でぴくりと反応してしまう。アルはすぐに手を離した。

「マリス……」

 アルがぽつりと呟く。

「ごめんなさい」

 数秒後、ドアの開閉する音が聞こえ、部屋から人の気配が無くなった。

 ゆっくりと瞼を開けると、寝る前と同じく薄暗い天井が視界に広がる。
 窓が無いので、今が朝なのか夜なのかもわからない。

「……」

 身体を起こしベッドの隅で膝を抱えた。鎖の擦れた手首が赤くなっている。

「帰りたい……」

 閉塞感に息が詰まりそうだ。

(今何時なんだろう)

 やることもないし、何もないこの部屋にいるのは気が狂いそうだ。

「アル、いる?」

 返事が返ってこない。ベッドからドアまでは少し距離が離れているが、ドアは薄いので聞こえているはずだ。

 本当にアルがいないか、無視されているかのどちらかなのだろう。

 
 それからしばらくぼうっと壁を眺めていると、突然ドアが開き赤い髪の若い青年が部屋に入ってきた。

「飯だ」

 男はベッドの上にパンを投げ、床の上に水の入ったコップを置いた。

「あ、あの、エチカに会わせてくれませんか?」

 男は何も言わずにじろりと僕を見た。

「あの……」
「毒や薬は入ってない。いいか、ちゃんと食えよ? 後でまた来るからな」

 それだけ言って、男は部屋から出て行った。
 そういえば、ここに連れて来られてから一度も水分をとっていない。

 自覚すると途端に喉がカラカラに乾いてくる。僕はベッドから立ち上がると、床に置かれたコップを取って半分ほど飲み干した。

 ぬるくて美味しくない。こんなに不味い水は初めて飲んだ。

 ベッドに腰掛けて、固いパンを手に持つ。ひと口サイズに千切って口に入れる。パンは何も味がしなかった。

 パンを口に入れる作業を終えて、コップの水を飲み干す。

 少しして、先ほどの男が部屋に入ってきた。

「お、ちゃんと食ったな」

 男は空のコップを回収し、部屋を出ていこうとした。僕は咄嗟に男の服を掴んだ。

「おい」
「今何時ですか? 時間がわからなくて狂いそうなんです。エチカに会わせてくれませんか」
「は?」

 寝不足と緊張と不安で頭が回らない。さっき食べたパンも吐き出しそうだった。
 体も熱くて、おそらく熱を出している。

「離せ」

 男が僕の手を剥がそうと僕の手に触れる。

「うわ、あっつ! お前もしかして熱出してる?」

 男が僕の額に手を当てる。

「あークソッ、なんでこんな病弱なんだよ!?」

 男がイライラした口調で言う。

「いや待て、丁度良いな。神子の治癒能力が本当なのかお前で実験しよう。お前はベッドで大人しくしてろ。拗らされても困るからな」

 そう言い男は部屋から出て行った。何だかよくわからないが、エチカに会えるみたいでよかった。

 僕はベッドに横になって、エチカが来るのを待った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。 現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。 最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 時々おまけのお話を更新しています。 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

処理中です...