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3年生
優しい子
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アルは、出会ったときよりも流暢にディクショニア語を喋った。
彼は静かにドアを閉め、僕の方まで近づいてくる。近くで見ると、アルは僕と同じくらいの背丈まで成長していた。
アルがいるということは、これは賊イベントで確定ということだろう。
アルは賊イベントではキーキャラクターで、エチカが攻略キャラ全員との友情ルートに入った際、脱出の手助けをしてくれるのだ。
「アル、無事でよかった……」
父がアルを奴隷市へ戻したと聞いてから、ずっと気がかりだった。
「マリス様」
アルは僕の腕を優しく引っ張り、ベッドの方まで歩いていった。
「あの、様とかつけなくていいよ」
「ではマリス、ベッドに横になってください」
「え? う、うん」
アルに言われた通り、ベッドに横になる。すると、アルも僕のベッドに足を入れてきた。
「ちょ、アル!?」
「眠れないのですよね? 一緒に寝ればきっと眠れます。少しつめていただけますか」
アルが無理矢理ベッドに入ってくるので、僕は仕方なく奥に体をつめる。
湿度の高い洞窟内で、狭いベッドに2人で並んでも寝苦しいだけだ。
(もしかして、前に一緒にベッドで寝ていたから今も一緒に寝たら寝られるって思ったのかな……?)
だとしたら、アルの優しさに少しだけ胸が温かくなる。アルは優しい子なのだ。
すぐに、隣から規則正しい寝息が聞こえてきた。
(よく寝れるな……)
アルの適応力に関心したが、逆に考えると、アルはこの環境に慣れてすぐに寝られるくらいずっとこのような生活をしていたんだ、と想像してしまう。
僕はアルのごわごわした赤毛をそっと撫でた。振動で鎖がジャラリと鳴る。
アルがいるこの賊は、もしかしたら父の運営する奴隷市から脱走した賊ではないだろうか。
(どうして僕たちを攫ったんだろう)
ゲームでは、賊たちはエチカ1人にターゲットを絞り誘拐していた。
それはエチカが神子であり、エチカを人質に教会から大金を要求するためだった気がする。
しかし、今回は僕も誘拐された。ゲームと違う、先の見えない展開に不安が押し寄せる。
「セオ……」
(助けに来てくれるかな……)
もしかしたら、セオリアスならループの中で賊イベントを経験しているかもしれない。そしたら、きっと僕たちが奴隷の賊に襲われたことに気づいてきれるはずだ。
淡い期待を胸に抱きながら、僕は目を閉じて長い夜が更けるのを待った。
彼は静かにドアを閉め、僕の方まで近づいてくる。近くで見ると、アルは僕と同じくらいの背丈まで成長していた。
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「アル、無事でよかった……」
父がアルを奴隷市へ戻したと聞いてから、ずっと気がかりだった。
「マリス様」
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「え? う、うん」
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「ちょ、アル!?」
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だとしたら、アルの優しさに少しだけ胸が温かくなる。アルは優しい子なのだ。
すぐに、隣から規則正しい寝息が聞こえてきた。
(よく寝れるな……)
アルの適応力に関心したが、逆に考えると、アルはこの環境に慣れてすぐに寝られるくらいずっとこのような生活をしていたんだ、と想像してしまう。
僕はアルのごわごわした赤毛をそっと撫でた。振動で鎖がジャラリと鳴る。
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ゲームでは、賊たちはエチカ1人にターゲットを絞り誘拐していた。
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しかし、今回は僕も誘拐された。ゲームと違う、先の見えない展開に不安が押し寄せる。
「セオ……」
(助けに来てくれるかな……)
もしかしたら、セオリアスならループの中で賊イベントを経験しているかもしれない。そしたら、きっと僕たちが奴隷の賊に襲われたことに気づいてきれるはずだ。
淡い期待を胸に抱きながら、僕は目を閉じて長い夜が更けるのを待った。
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