82 / 120
3年生
実感
しおりを挟む
1時間ほど経ったと思う。馬車が止まったかと思うと、男は僕たちの目にタオルを巻き始めた。
「いいか、静かにしろ。暴れるんじゃねえぞ」
男が唸るような低い声で言う。視界が真っ暗になり、僕は再び不安と恐怖でいっぱいになった。
突然ふわりと浮遊感に襲われ、僕は反射的に手足をばたつかせた。
「おい、大人しくしねぇと落ちるぞ」
(そんなこと言われたって怖いよ。僕、今どうなってるの!?)
手足には空気が触れたまま、お腹に固い何かが当たっていた。
おそらく、米俵のように運ばれているのだろう。男が歩くたびに固いものがお腹に当たって痛い。
しばらく痛みに耐えていると、キイと扉を開ける音が聞こえた。
男は僕を地面に下ろすと目隠しを解き、部屋を後にした。
(ここは……)
どこかの部屋というより、洞窟に扉をつけた部屋のような場所だった。
仄暗くて湿気が多く、地面は岩でゴツゴツしている。天井の高さも、男がギリギリ立てるくらいの高さだ。
部屋には小さな簡易ベッドと簡易トイレが設置されている。ドアの横の横には松明が固定されていて、部屋を照らしていた。
一気に誘拐された実感が湧き、背筋が凍る。
(ベッドにトイレ……僕はいつまでここにいなければならないんだ……?)
あまり時間を置かずに男が戻ってきた。
男は、赤銅色の短髪に、ボロボロの服を身に纏っていた。筋肉がすごく発達していて、たしかに彼なら僕を軽々と持ち上げられそうだ。
彼の手にはチェーンのようなものが握られていた。
最初は何なのかよくわからなかったが、よく見るとリーチの長い枷のようだ。
「ん、んーーー!?」
「うるせえ、騒ぐな」
男は僕に構わず両手と右足に手枷と足枷をつけ、足枷に付いているチェーンの先をベッドの足に繋いだ。
その後、もともと縛っていた僕の手足の拘束を解く。これで僕は、ベッドからトイレまで自由に行き来できるようになった。
最後に男は僕の猿轡を解いた。猿轡を解くということは、叫んでも助けを求めても意味がないということだろうか。
「叫んで助けを呼んでも無駄だが、あんまり騒いでいたらまた口を塞ぐからな」
「あの……エチカは? エチカはどこにいるの?」
「あのガキは別の部屋にいる。とりあえずもう寝ろや。しばらくお前はここから出られねえんだからよ」
男はそれだけ言って部屋から出ていった。
薄い木製のドアの外から人の気配がする。見張りをつけられているのだろう。
寝ろと言われても、この状況で寝られるわけがない。とにかくエチカの顔を見たかった。
ドアの方まで近づくと、足の鎖がピンと真っ直ぐに張った。腹這いで手を伸ばせばギリギリドアまで届きそうだ。
「あの、すみません」
手を限界まで伸ばし、ノックをしながら呼びかける。5回ほどドアを叩いたところで、ドアの外から人の動く気配がした。
「何か用です?」
声変わり途中のような、少し低めの声が聞こえる。
「あの、眠れなくて……話し相手になってくれませんか?」
「……」
少しでも情報を聞き出せないかと思ったが、なかなか返事が返ってこなかった。
5分くらい経ち、もう諦めようと思い体を起こすと、扉が開いた。
「えっ」
扉を開けたのは、少年だった。おそらく僕よりも若い子供だ。髪は燃えるように赤く、ルビー色の瞳はまっすぐ僕を捉えていた。
「もしかして……アル?」
「はい。アルです。マリス様、お久しぶりです」
「いいか、静かにしろ。暴れるんじゃねえぞ」
男が唸るような低い声で言う。視界が真っ暗になり、僕は再び不安と恐怖でいっぱいになった。
突然ふわりと浮遊感に襲われ、僕は反射的に手足をばたつかせた。
「おい、大人しくしねぇと落ちるぞ」
(そんなこと言われたって怖いよ。僕、今どうなってるの!?)
手足には空気が触れたまま、お腹に固い何かが当たっていた。
おそらく、米俵のように運ばれているのだろう。男が歩くたびに固いものがお腹に当たって痛い。
しばらく痛みに耐えていると、キイと扉を開ける音が聞こえた。
男は僕を地面に下ろすと目隠しを解き、部屋を後にした。
(ここは……)
どこかの部屋というより、洞窟に扉をつけた部屋のような場所だった。
仄暗くて湿気が多く、地面は岩でゴツゴツしている。天井の高さも、男がギリギリ立てるくらいの高さだ。
部屋には小さな簡易ベッドと簡易トイレが設置されている。ドアの横の横には松明が固定されていて、部屋を照らしていた。
一気に誘拐された実感が湧き、背筋が凍る。
(ベッドにトイレ……僕はいつまでここにいなければならないんだ……?)
あまり時間を置かずに男が戻ってきた。
男は、赤銅色の短髪に、ボロボロの服を身に纏っていた。筋肉がすごく発達していて、たしかに彼なら僕を軽々と持ち上げられそうだ。
彼の手にはチェーンのようなものが握られていた。
最初は何なのかよくわからなかったが、よく見るとリーチの長い枷のようだ。
「ん、んーーー!?」
「うるせえ、騒ぐな」
男は僕に構わず両手と右足に手枷と足枷をつけ、足枷に付いているチェーンの先をベッドの足に繋いだ。
その後、もともと縛っていた僕の手足の拘束を解く。これで僕は、ベッドからトイレまで自由に行き来できるようになった。
最後に男は僕の猿轡を解いた。猿轡を解くということは、叫んでも助けを求めても意味がないということだろうか。
「叫んで助けを呼んでも無駄だが、あんまり騒いでいたらまた口を塞ぐからな」
「あの……エチカは? エチカはどこにいるの?」
「あのガキは別の部屋にいる。とりあえずもう寝ろや。しばらくお前はここから出られねえんだからよ」
男はそれだけ言って部屋から出ていった。
薄い木製のドアの外から人の気配がする。見張りをつけられているのだろう。
寝ろと言われても、この状況で寝られるわけがない。とにかくエチカの顔を見たかった。
ドアの方まで近づくと、足の鎖がピンと真っ直ぐに張った。腹這いで手を伸ばせばギリギリドアまで届きそうだ。
「あの、すみません」
手を限界まで伸ばし、ノックをしながら呼びかける。5回ほどドアを叩いたところで、ドアの外から人の動く気配がした。
「何か用です?」
声変わり途中のような、少し低めの声が聞こえる。
「あの、眠れなくて……話し相手になってくれませんか?」
「……」
少しでも情報を聞き出せないかと思ったが、なかなか返事が返ってこなかった。
5分くらい経ち、もう諦めようと思い体を起こすと、扉が開いた。
「えっ」
扉を開けたのは、少年だった。おそらく僕よりも若い子供だ。髪は燃えるように赤く、ルビー色の瞳はまっすぐ僕を捉えていた。
「もしかして……アル?」
「はい。アルです。マリス様、お久しぶりです」
10
お気に入りに追加
403
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?
ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。
腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います
たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか?
そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。
ほのぼのまったり進行です。
他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。
転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが
松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。
ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。
あの日までは。
気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。
(無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!)
その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。
元日本人女性の異世界生活は如何に?
※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。
5月23日から毎日、昼12時更新します。
噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。
春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。
新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。
___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。
ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。
しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。
常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___
「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」
ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。
寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。
髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?
本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
ムーンライトノベルズ にも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる