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3年生

実感

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 1時間ほど経ったと思う。馬車が止まったかと思うと、男は僕たちの目にタオルを巻き始めた。

「いいか、静かにしろ。暴れるんじゃねえぞ」

 男が唸るような低い声で言う。視界が真っ暗になり、僕は再び不安と恐怖でいっぱいになった。

 突然ふわりと浮遊感に襲われ、僕は反射的に手足をばたつかせた。

「おい、大人しくしねぇと落ちるぞ」

(そんなこと言われたって怖いよ。僕、今どうなってるの!?)

 手足には空気が触れたまま、お腹に固い何かが当たっていた。

 おそらく、米俵のように運ばれているのだろう。男が歩くたびに固いものがお腹に当たって痛い。

 しばらく痛みに耐えていると、キイと扉を開ける音が聞こえた。

 男は僕を地面に下ろすと目隠しを解き、部屋を後にした。

(ここは……)

 どこかの部屋というより、洞窟に扉をつけた部屋のような場所だった。

 仄暗くて湿気が多く、地面は岩でゴツゴツしている。天井の高さも、男がギリギリ立てるくらいの高さだ。

 部屋には小さな簡易ベッドと簡易トイレが設置されている。ドアの横の横には松明が固定されていて、部屋を照らしていた。

 一気に誘拐された実感が湧き、背筋が凍る。

(ベッドにトイレ……僕はいつまでここにいなければならないんだ……?)

 あまり時間を置かずに男が戻ってきた。

 男は、赤銅色の短髪に、ボロボロの服を身に纏っていた。筋肉がすごく発達していて、たしかに彼なら僕を軽々と持ち上げられそうだ。

 彼の手にはチェーンのようなものが握られていた。
 最初は何なのかよくわからなかったが、よく見るとリーチの長い枷のようだ。

「ん、んーーー!?」
「うるせえ、騒ぐな」

 男は僕に構わず両手と右足に手枷と足枷をつけ、足枷に付いているチェーンの先をベッドの足に繋いだ。

 その後、もともと縛っていた僕の手足の拘束を解く。これで僕は、ベッドからトイレまで自由に行き来できるようになった。

 最後に男は僕の猿轡を解いた。猿轡を解くということは、叫んでも助けを求めても意味がないということだろうか。

「叫んで助けを呼んでも無駄だが、あんまり騒いでいたらまた口を塞ぐからな」
「あの……エチカは? エチカはどこにいるの?」
「あのガキは別の部屋にいる。とりあえずもう寝ろや。しばらくお前はここから出られねえんだからよ」

 男はそれだけ言って部屋から出ていった。
 薄い木製のドアの外から人の気配がする。見張りをつけられているのだろう。

 寝ろと言われても、この状況で寝られるわけがない。とにかくエチカの顔を見たかった。

 ドアの方まで近づくと、足の鎖がピンと真っ直ぐに張った。腹這いで手を伸ばせばギリギリドアまで届きそうだ。

「あの、すみません」

 手を限界まで伸ばし、ノックをしながら呼びかける。5回ほどドアを叩いたところで、ドアの外から人の動く気配がした。

「何か用です?」

 声変わり途中のような、少し低めの声が聞こえる。

「あの、眠れなくて……話し相手になってくれませんか?」
「……」

 少しでも情報を聞き出せないかと思ったが、なかなか返事が返ってこなかった。

 5分くらい経ち、もう諦めようと思い体を起こすと、扉が開いた。

「えっ」

 扉を開けたのは、少年だった。おそらく僕よりも若い子供だ。髪は燃えるように赤く、ルビー色の瞳はまっすぐ僕を捉えていた。

「もしかして……アル?」
「はい。アルです。マリス様、お久しぶりです」
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