転生した悪役令息は破滅エンドをなかなか回避できない

ハバーシャム

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3年生

夜の街は怖い

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 店に出ると、肌寒い風が僕たちの肌を撫でた。
 街灯や住宅から漏れる明かりのおかげで少しは明るいが、それでも不安の残る暗さだった。

 エチカは慣れたように道を歩いていたが、僕は少しの物音にもビクビクしてしまう。

「ちょっと、マリスってばビビりすぎじゃない?」

 カエルの鳴き声に肩を上げる僕を見て、エチカが耐えきれずにぷっ、と吹き出した。

「逆にエチカは怖くないの? 警備の人も見当たらないし……」

 辺りを見回してみても、人の気配は全くなかった。

「王都は治安も良いし、大丈夫だよ」
「そうかもしれないけど……」

 それでも僕の漠然とした不安は拭えなかった。緊張状態では、人の五感は敏感になるものだ。

 ふと、後ろから馬の足音が聞こえてきた。足音はどんどん僕たちに近づいてきているようだった。

「ね、ねえエチカ……」
「何、マリスってばまだ怖いの?」
「いや、だって馬の足音が」

 パカパカと蹄が地面を蹴る音が一定の速度で聞こえてくる。

「馬車タクシーじゃないかな?」
「そうだといいんだけど……」
「ほら、そんなに怖いなら手を繋ごうよ」

 エチカが僕の左手をぎゅっと握る。人肌を感じることで、少しだけ僕の緊張は解れていた。

 馬車の音がすぐそこまで近づく。すぐに僕たちの横を通り過ぎるだろうと思っていたが、馬車は僕たちのすぐ側で止まった。

「え……?」

 流石にエチカも様子がおかしいと思ったのか、僕の手を握る力が少しだけ強くなる。

「マリス、走ろう」

 エチカがぽそっと横で呟く。「うん」と返事をすると、2人で駆け出した。

 今度は人間の足音が聞こえてくる。確実に僕たちを追いかけていた。
 僕たちはなるべく広い道路を走り、まっすぐ学園に向かった。

 心臓がバクバクして、エチカについて行くのに精一杯だった。もう少しで学園に到着するはずだ。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 僕たちは後ろの方にばかり気を取られていて、前の方にいる人物に気が付かなかった。

 ドンッと思いっきりぶつかり、反動で尻餅をつく。その勢いでエチカの手を離してしまった。

「エチカ!」

 エチカの方に行こうとしたその時、後ろから来た人物に思いっきり腕を引っ張られ、体ごと拘束された。

「やだ、離して!! 誰かっ……もごもごっ」

 大声を出そうと口を開けたら、口の中にタオルのようなものを詰められた。

(エチカは無事!?)

 抵抗するために体を暴れさせながら、目線でエチカを探す。

 エチカも僕と同じような状態になっていた。

(何人いるんだよ!?)

 大きな男の力には敵わず、僕たちはずるずると馬車の中まで引きずられてしまった。

(あと少しで学園だったのに……!)

 恐怖と緊張で冷や汗が出る。あっという間に両手を後ろに、足は前で縛られ、体育座りする体制にさせられた。

 口に詰められたタオルは口から出され、新しく猿轡をつけられる。

 馬車の中には5人くらいの大きな男たちがいた。運転席の方にも男が2人いるので、合計で7人のグループということだろう。

(これ、もしかして賊イベント……?)

 たしかに賊イベントの導入では、エチカが街に出て文房具を買いに行っていた。しかし、襲われたのは昼間だったと記憶している。

 男たちは何かゲスい話をしているわけでもなく、ずっと無言だった。

 ちらっとエチカの様子を窺う。エチカは下を向いたまま、ずっと静かにじっとしていた。

 かく言う僕も、今はじっと大人しくしている。男たちがずっと無言だからだろうか。少しだけ恐怖心が和らいでいた。

 もちろん最初に押さえ込まれたときは、前世で殺された時と同じくらいの恐怖だった。
 しかし今は、「殺されるかもしれない」のような恐怖心が浮かんでくることはなかった。

 馬車はどんどん学園から遠ざかり、王都からも遠ざかっているようだった。

 隙間から見える景色は真っ暗で、微かに葉の擦れる音だけが聞こえていた。
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