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3年生

エチカと

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 フィオーネと別れてから、僕はパーティーに戻ることにした。

「マリス、大丈夫? 元気が無さそうだけど」

 後ろから声をかけられ、振り向くと、心配そうに僕を見るエチカがいた。

「ううん、大丈夫だよ」
「そう? 無理しないでね」

 僕は給仕人にドリンクをもらうと、一気に飲み干した。

「お、いい飲みっぷりだね!」

 エチカがくすりと笑う。シュワシャワと炭酸が喉で弾けて気持ちいい。もちろんアルコールは入ってない。

「マリス、少しは元気出た?」
「うん。心配してくれてありがとう」
「それじゃあさ、一緒に踊らない? ほら、最後だからさ……」

 エチカは少しはにかんだ。

(最後だから……?)

 それは、学園生としてってことだろうか。

「マリス?」
「あ、ごめんボーっとしてた。一緒に踊ろう!」

 僕の返事に、エチカの顔がぱあっと明るくなる。

「ありがとう!」
「こちらこそだよ。ありがとう」
「ほら、こっちで踊ろ!」

 エチカに手を引かれ、ホールの真ん中の空いてるスペースまで来ると、2人で向かい合った。

 パーティーももう終盤で、あと数曲が終わったら終了するだろう。

 エチカはプロかと思うくらいに上手だし、僕と背丈も近いので、とても踊りやすかった。
 終始エチカにリードされていて少し恥ずかしかったが、僕は運動音痴だからまぁ仕方がない。




 
パーティーも終わり、会場は解散の雰囲気に包まれていた。

「マリス、一緒に帰ろうよ」
「うん、帰ろう!」

 パーティーの後、エチカが僕を誘ってくれた。いくら警備の人が巡回しているとは言え、なるべく1人で行動するなと先生からも言われていたので、エチカの誘いはありがたかった。

 暗い夜道を歩く。周りには僕たちと同じく学園に帰る生徒達が歩いていた。

「悪いんだけどさ、ちょっとだけ寄り道してもいい?」
「え、うん。いいけど、どこに寄るの?」
「行きつけの文房具屋さん。あそこのペンじゃないと書き心地が悪くてさ」

 そう言い、エチカは人の流れから外れて行く。

「こんな時間にやってるの?」
「うん、今ならギリギリ間に合うと思う」

 エチカは迷いのない足取りでどんどん人々から離れていく。

「エチカ、こんなところにあるの?」
「うん、穴場なんだ」

 もうほとんど人通りのない場所まで来た。警備の人は近くに居てくれているだろうか。漠然とした不安が僕を襲う。

 いつくも並ぶ家の中で、1番こぢんまりとした木の家の前まできた。窓から部屋の明かりが漏れている。

 エチカが躊躇なくドアを開けると、カランと可愛い音が鳴った。

「いらっしゃい、あらエチカじゃない」
「こんばんは。夜遅くにごめんなさい」
「いいのよ~。まだ営業中なんだから!」

 カウンター越しに、気の良さそうな中年の女性が立っていた。
 女性は、僕の顔を見るとさらに笑顔を浮かべた。

「あらあら、もしかしてアスムベルク伯爵様のご子息様じゃない?」
「あ、はい。あの、こんばんは。初めまして」
「あははっ! マリスどもりすぎ!」

 僕のオドオドした態度に、エチカが声を出して笑う。
 エチカは目的のペンを手を取って、ささっと会計を済ましていた。

「エチカ、いつもありがとうね」
「いえいえ。こちらこそありがとうございます」

 店主は、ペンを丁寧に紙袋に包んでエチカに渡した。

「マリス様は、ほんとうにリリアン様にそっくりですねえ……」
「よく言われます」
「リリアン様は本当に良い人だったわぁ。私もお世話になったのよ……あ、ほら、もう遅い時間だから気をつけて帰ってね」

 店主は思い出に浸っていたようだが、すぐにはっとして僕たちを見送る体制に入った。

「おばさんありがとう! また来ます」
「僕もまた母の話を聞きにいきますね」

 僕たちはそう言って店の外に出た。
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