転生した悪役令息は破滅エンドをなかなか回避できない

ハバーシャム

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3年生

儚い妄想

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「賊イベントの日?」

 授業の後、エチカと共に夕食を取りながらそれとなく聞いてみた。

「うん。いつなのかわかる?」
「いや、特に具体的な日付は決めてなかったよ」
「そっか……」

 食事を口に運びながら、少し落胆する。今日は魚のグリルを注文した。
 ディクショニア王国で獲れる魚はあっさりした味のものが多く、いくらでも食べられそうだ。

「まあ、あんまり気にしなくて大丈夫だよ。ぼくも立ち回りとかわかってるからさ」
「で、でも」
「ぼくのことより、マリスはもっと自分のことを考えるべきだよ」

 そう言うと、エチカは最後の一口を頬張った。




 4月も終わり、王宮パーティーの時期がやってきた。結局僕は、セオリアスとは何も話していないままだ。
 
 今年のパーティーは、3年ぶりにフィオーネが学園生としてではなく第一王子として参加する。

 つまり、学校指定のタキシード姿ではないフィオーネの姿を見ることができるのだ。


 今年もたくさんの人が王宮のパーティーに来ていた。

 いつもの段取りでパーティーが始まり、僕は今年もフィオーネと踊ることとなった。

 曲に合わせてステップを踏む。僕のダンスもだいぶ上手くなったと思う。

 フィオーネは、白い生地に金色の刺繍のついた煌びやかな服装をしていた。フィオーネの服と並ぶと、学校指定のタキシードがダサく見える。

 今年のパーティーの主役はフィオーネではなく、第三王子だった。

 第三王子は今年で10歳を迎えるため、初めてダンスを披露するのだ。

 僕とフィオーネは少しだけダンスをして、第三王子の初ダンスを見守ることにした。

「一緒に踊っている子は許嫁の子なんだ」

 フィオーネは微笑ましそうな目で弟を見つめている。第三王子の許嫁の子は、薄い金髪の可愛らしい女の子だった。

 僕は、正直なところ、今年こそはセオリアスと踊りたかったし、昨年の夏休み頃には、セオリアスと踊れるだろうと確信していた。
 しかし、今となっては儚い妄想だ。

(あ……)

 第三王子から少し離れたところで、セオリアスの姿が目に入った。セオリアスは1年生に囲まれ、困った表情を浮かべていた。
 セオリアスは妹がいるからか年下の扱いが上手く、後輩達にとても人気だった。

「ねえ、この後外せない仕事をしなければならないんだけど、少しだけ俺の部屋でお茶をしない?」

 フィオーネの言葉に、僕の体が反射的に強張る。

「マリス、そんな顔しないでくれよ。もうあんな事はしないさ。お茶も使用人にいれさせよう」
「あ、えっと……はい、ぜひお願いします」

 これ以上セオリアスを見ていると頭がおかしくなりそうで、無意識に返事をしていた。

「ふふ、ありがとう。それじゃあ俺の部屋に行こうか」

 フィオーネは僕の手を取り、部屋へと向かった。


 紅茶は本当に使用人の方がいれてくれた。この前のような変な味はせず、一口飲めば高級感のある茶葉の香りが鼻まで抜けていく。 

 フィオーネはずっと仄かに笑みを浮かべていて、とても機嫌が良さそうだった。

「あと少しで、俺たちは夫婦になれるんだね」

 フィオーネは心底楽しそうな声で言った。

「フォオーネ様……あの、その事なんですが……」

 このまま誤魔化していても、何も進まない。そう思った僕は、今の思いを隠さずに伝えることにした。

「僕は、セオリアスのことがどうしても諦められないのです。だからその……結婚は……」

 自分で言っていて、胸がずきりと痛くなる。マリスも僕も、恋愛は引きずるタイプのようだ。
 
 てっきり僕は、フィオーネは怒ると思っていた。僕の言っていることは、不敬も甚だしいことなのだ。

「君がセオに特別な感情を持っていることなんて、最初から知っていたよ。俺はそれでも別に構わないし、それを理由に婚約解消するつもりはないよ」
「ですが、」
「俺だって子供を作らなければならないから、側室を受け入れなければならないんだ。君だけは俺に一途でいろ、なんていうのはフェアじゃないしね」

 フィオーネが紅茶を口に運ぶ。

「ただ、スキャンダルになってしまうから、セオと関係を持つことは許されないだろうけどね」
「そんな……そんなの、1番辛いじゃないですか……」

 片想いをするのは自由だが、関係を持つことは禁止って、そんなの生殺しだ。

「辛いって思うなら、もう俺のこと以外は考えなければいいだろう?」
「フィオーネ様は……それに陛下は、どうして僕を……僕なんかを婚約者にしたのですか? どうして僕にこだわるのですか」
「それは……そうだね。君が王宮に入ったら教えてあげるよ。
 それじゃ、そろそろ俺は仕事に行かなきゃ。君はこのまま部屋で寛いでいても良いし、パーティーに戻っても良い。好きにしてくれ」

 フィオーネは僕の頭にキスを落として部屋から出ていった。
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