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2年生
痴話喧嘩
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翌朝、アスムベルク家の馬車が迎えに来た。
「マリス~、次は俺の部屋でお泊まり会しようぜ!」
「うん! ありがとう!」
朝、僕より早く起きたエチカが教会の人たちに僕のことを伝えてくれたみたいで、リュゼがエチカと共に教会の前まで見送りに来てくれた。
ラルフが恭しくお辞儀をして馬車に乗り込むと、馬車が発進する。
道中、ラルフが僕に向かって何か小言を言っていた気がするが、寝不足のせいもあり途中で意識が途切れた。
新学期に入り、また学園寮での生活が始まる。学園生活ももう半分以上終わってしまった。
もうすぐ卒業シーズンなのだが、学園内は昨年よりも浮き足だっていた。
そう、今年はフィオーネが卒業してしまうのだ。
早くも抜け殻のようになっている生徒や、あと1ヶ月程で卒業してしまうフィオーネを思い泣いている生徒もいた。
エチカは大丈夫だろうかと心配になったが、意外にもけろっとしていた。
僕はというと、フィオーネの卒業とは別の理由で意気消沈している。
別の理由とはセオリアスのことだ。セオリアスは僕にあんなことを言ってきたくせに、普通に話しかけてくるのだ。
「はぁ……」
自室のベッドに寝転がりながら、1人大きな溜息を吐く。
気まずくてセオリアスと話せない。そもそも2人で会うのをやめようと言ったくせに、どうして話しかけてくるのか。
(いや、本当はわかってる……父たちのことについて話したいことがあるんだろうけど……)
ズキ、と胸の奥底が痛む。本当は私情を優先している場合ではないこともわかっている。でも、僕は……。
不意にコンコンとドアを叩く音が聞こえ、すぐに僕を呼ぶリュゼの声がした。
「どうしたの? あ……」
ドアを開けると、リュゼの後ろからセオリアスの顔が見えた。彼は不機嫌な顔をしていた。
「マリス、お前……」
「ちょっとちょっと! 痴話喧嘩なら中でやってくれる?」
リュゼはセオリアスの言葉を遮ると、セオリアスの背中を押して僕の部屋のドアを閉めた。
「あ……」
一瞬の沈黙の後、セオリアスがはぁ、と息を吐く。
「マリス、たしかに2人きりで会うのはやめようと言ったが、そうあからさまに避けられると困るんだが」
「ご、ごめん。でも……」
セオリアスの顔が見れない。見たらすぐに泣いてしまいそうだった。
「パーティーのこと、悪かったよ。だが、フィオーネ殿下との結婚まであと1年しかないだろう。今この時間だって本当は……」
セオリアスの話を聞くのも辛くて、僕にはもう自分の気持ちが抑えることができなかった。
「セオリアス、やめてよっ……! セオリアスの口からフィオーネの名前は聞きたくない!!」
「マリス、だが」
僕は勢いよく顔を上げた。セオリアスが困惑した顔で僕の方を見る。
「セオリアス、僕は君のことがずっと、」
「マリス! それ以上は駄目だ。それ以上は……」
セオリアスが、僕の言葉に被せるように声をあげる。
「お前が妃教育を受けてるってことは、国がお前を正室として認めたってことだ。……もう、俺たちの気持ちだけの問題じゃなくなっちまってるんだよ」
「そんなの、大人たちが勝手に決めたことじゃないか……」
「マリス~、次は俺の部屋でお泊まり会しようぜ!」
「うん! ありがとう!」
朝、僕より早く起きたエチカが教会の人たちに僕のことを伝えてくれたみたいで、リュゼがエチカと共に教会の前まで見送りに来てくれた。
ラルフが恭しくお辞儀をして馬車に乗り込むと、馬車が発進する。
道中、ラルフが僕に向かって何か小言を言っていた気がするが、寝不足のせいもあり途中で意識が途切れた。
新学期に入り、また学園寮での生活が始まる。学園生活ももう半分以上終わってしまった。
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そう、今年はフィオーネが卒業してしまうのだ。
早くも抜け殻のようになっている生徒や、あと1ヶ月程で卒業してしまうフィオーネを思い泣いている生徒もいた。
エチカは大丈夫だろうかと心配になったが、意外にもけろっとしていた。
僕はというと、フィオーネの卒業とは別の理由で意気消沈している。
別の理由とはセオリアスのことだ。セオリアスは僕にあんなことを言ってきたくせに、普通に話しかけてくるのだ。
「はぁ……」
自室のベッドに寝転がりながら、1人大きな溜息を吐く。
気まずくてセオリアスと話せない。そもそも2人で会うのをやめようと言ったくせに、どうして話しかけてくるのか。
(いや、本当はわかってる……父たちのことについて話したいことがあるんだろうけど……)
ズキ、と胸の奥底が痛む。本当は私情を優先している場合ではないこともわかっている。でも、僕は……。
不意にコンコンとドアを叩く音が聞こえ、すぐに僕を呼ぶリュゼの声がした。
「どうしたの? あ……」
ドアを開けると、リュゼの後ろからセオリアスの顔が見えた。彼は不機嫌な顔をしていた。
「マリス、お前……」
「ちょっとちょっと! 痴話喧嘩なら中でやってくれる?」
リュゼはセオリアスの言葉を遮ると、セオリアスの背中を押して僕の部屋のドアを閉めた。
「あ……」
一瞬の沈黙の後、セオリアスがはぁ、と息を吐く。
「マリス、たしかに2人きりで会うのはやめようと言ったが、そうあからさまに避けられると困るんだが」
「ご、ごめん。でも……」
セオリアスの顔が見れない。見たらすぐに泣いてしまいそうだった。
「パーティーのこと、悪かったよ。だが、フィオーネ殿下との結婚まであと1年しかないだろう。今この時間だって本当は……」
セオリアスの話を聞くのも辛くて、僕にはもう自分の気持ちが抑えることができなかった。
「セオリアス、やめてよっ……! セオリアスの口からフィオーネの名前は聞きたくない!!」
「マリス、だが」
僕は勢いよく顔を上げた。セオリアスが困惑した顔で僕の方を見る。
「セオリアス、僕は君のことがずっと、」
「マリス! それ以上は駄目だ。それ以上は……」
セオリアスが、僕の言葉に被せるように声をあげる。
「お前が妃教育を受けてるってことは、国がお前を正室として認めたってことだ。……もう、俺たちの気持ちだけの問題じゃなくなっちまってるんだよ」
「そんなの、大人たちが勝手に決めたことじゃないか……」
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