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2年生
セオってそういうとこある
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「もう遅い時間だから、裏口から入るね」
馬車を降り、エチカが小声で言った。エチカの口からは白い息が出ていた。
深夜も3時を過ぎ、閑散とした教会はどこか恐ろしさを感じさせる。
エチカは裏口の小さなドアの鍵を開けた。
教会の裏口は本来関係者しか入れない。非日常な体験に僕はわくわくしていた。
シン、と静まり返った廊下を歩き、階段を登る。エチカの部屋は手前から3番目の左にあった。
「さ、中に入って! 今温かいお茶を用意するね」
「ありがとう。お邪魔します」
「座って適当にくつろいでてね」
そう言い、エチカは部屋から出ていった。
エチカの部屋はシンプルなつくりだった。
部屋の奥に机と椅子が置いてあり、右の壁に沿うようにベッドが置いてある。
部屋の真ん中にはテーブルがあり、2人用のソファが置いてあった。
ソファに腰を下ろし、エチカを待つ。
1分もしないうちにエチカがトレイを持って部屋に戻ってきた。
「お待たせ~!」
エチカはお茶をテーブルに並べ、僕の隣に座る。
カップに入っているお茶の色は薄緑で、白い湯気を立てていた。
「ありがとう! すごい、緑茶だ……!」
「えへへ、実は教会の裏の畑で茶葉を育ててたんだ。懐かしいでしょ?」
「うん! この世界にも緑茶ってあるんだね!」
ディクショニア王国で主流の飲み物は紅茶やハーブティーだ。緑茶は前世以来飲んだことが無かった。
「緑茶も紅茶も同じ茶葉で作れるんだよ」
「え、そうなの? 初めて知ったよ」
「前世のぼくのお祖父ちゃんがお茶農家だったんだ」
僕は久しぶりの緑茶の味を楽しみながら、エチカの緑茶うんちくを聞いた。
緑茶を飲んで身体が温まってきたときだった。
「そういえば、どうしてマリスはセオリアスの家に泊まらなかったの?」
エチカの質問に、カップを持つ手に力が入る。
「いや、……」
セオリアスに言われたことを思い出して、目にじんわりと涙が浮かんでしまった。
「ま、マリス?」
様子のおかしい僕に、エチカが困惑した声を出す。
「マリス、何かあったの?」
「実は……」
僕は、客室での出来事をひととおりエチカに話した。僕の目からはボロボロと涙が溢れてしまう。
「はぁぁ……なるほど。セオってそういうとこあるよね」
エチカが盛大に溜息を吐く。
「僕、もうフラれちゃったのかな……」
「いやいやマリス大丈夫だよ。セオがヘタレ野郎なだけ! まだフラれてないって」
エチカがよしよしと慰めてくれる。僕は泣いてばっかりで、エチカの部屋にまで押しかけて迷惑かけて、とても情けない気持ちになった。
「ごめんね、エチカ……」
エチカは何も言わず、僕の頭を抱えて自分の胸に押し付けた。ふわ、と花の香りがする。
「よしよしマリス。セオなんてやめてぼくに乗り換える?」
「……ん? え!?」
突然の爆弾発言に、僕は思わず顔を上げた。
「ぷっ、冗談だよ!」
エチカがニヤニヤしながら僕を見る。びっくりして僕の涙は完全に引っ込んだ。
「エチカ酷い! 僕今弱ってるんだよ!?」
「あはは、元気じゃん!」
「そりゃあんなこと言われたら元気にもなるよ……」
カーテンの隙間から明るい光が差し込み、そろそろ夜が明けることを告げていた。
僕たちは、エチカのシングルベッド一緒に寝ることにした。
エチカの体温が温かく、僕はすぐに寝落ちした。
馬車を降り、エチカが小声で言った。エチカの口からは白い息が出ていた。
深夜も3時を過ぎ、閑散とした教会はどこか恐ろしさを感じさせる。
エチカは裏口の小さなドアの鍵を開けた。
教会の裏口は本来関係者しか入れない。非日常な体験に僕はわくわくしていた。
シン、と静まり返った廊下を歩き、階段を登る。エチカの部屋は手前から3番目の左にあった。
「さ、中に入って! 今温かいお茶を用意するね」
「ありがとう。お邪魔します」
「座って適当にくつろいでてね」
そう言い、エチカは部屋から出ていった。
エチカの部屋はシンプルなつくりだった。
部屋の奥に机と椅子が置いてあり、右の壁に沿うようにベッドが置いてある。
部屋の真ん中にはテーブルがあり、2人用のソファが置いてあった。
ソファに腰を下ろし、エチカを待つ。
1分もしないうちにエチカがトレイを持って部屋に戻ってきた。
「お待たせ~!」
エチカはお茶をテーブルに並べ、僕の隣に座る。
カップに入っているお茶の色は薄緑で、白い湯気を立てていた。
「ありがとう! すごい、緑茶だ……!」
「えへへ、実は教会の裏の畑で茶葉を育ててたんだ。懐かしいでしょ?」
「うん! この世界にも緑茶ってあるんだね!」
ディクショニア王国で主流の飲み物は紅茶やハーブティーだ。緑茶は前世以来飲んだことが無かった。
「緑茶も紅茶も同じ茶葉で作れるんだよ」
「え、そうなの? 初めて知ったよ」
「前世のぼくのお祖父ちゃんがお茶農家だったんだ」
僕は久しぶりの緑茶の味を楽しみながら、エチカの緑茶うんちくを聞いた。
緑茶を飲んで身体が温まってきたときだった。
「そういえば、どうしてマリスはセオリアスの家に泊まらなかったの?」
エチカの質問に、カップを持つ手に力が入る。
「いや、……」
セオリアスに言われたことを思い出して、目にじんわりと涙が浮かんでしまった。
「ま、マリス?」
様子のおかしい僕に、エチカが困惑した声を出す。
「マリス、何かあったの?」
「実は……」
僕は、客室での出来事をひととおりエチカに話した。僕の目からはボロボロと涙が溢れてしまう。
「はぁぁ……なるほど。セオってそういうとこあるよね」
エチカが盛大に溜息を吐く。
「僕、もうフラれちゃったのかな……」
「いやいやマリス大丈夫だよ。セオがヘタレ野郎なだけ! まだフラれてないって」
エチカがよしよしと慰めてくれる。僕は泣いてばっかりで、エチカの部屋にまで押しかけて迷惑かけて、とても情けない気持ちになった。
「ごめんね、エチカ……」
エチカは何も言わず、僕の頭を抱えて自分の胸に押し付けた。ふわ、と花の香りがする。
「よしよしマリス。セオなんてやめてぼくに乗り換える?」
「……ん? え!?」
突然の爆弾発言に、僕は思わず顔を上げた。
「ぷっ、冗談だよ!」
エチカがニヤニヤしながら僕を見る。びっくりして僕の涙は完全に引っ込んだ。
「エチカ酷い! 僕今弱ってるんだよ!?」
「あはは、元気じゃん!」
「そりゃあんなこと言われたら元気にもなるよ……」
カーテンの隙間から明るい光が差し込み、そろそろ夜が明けることを告げていた。
僕たちは、エチカのシングルベッド一緒に寝ることにした。
エチカの体温が温かく、僕はすぐに寝落ちした。
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