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2年生
スペシャルゲスト
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1年ぶりのカンテミール邸は、昨年に比べて貴族の数が少ないように感じた。
サロンに通されると、貴族たちはエチカに注目していた。
エチカは、貴族たちの不躾な視線を気にする様子も無く、堂々としている。
「すっごい、セオの家もお城みたい!」
エチカが楽しそうに辺りを見回す。
そういえば、フィオーネは今年もパーティーに来ているのだろうか。
僕も目線だけを動かしてサロンを見渡した。扉に目を向けたとき、ちょうど部屋に入ってきたセオリアスを見かけた。
セオリアスもすぐ僕に気がつき、一瞬だけ目が合う。しかし、すぐに逸らされてしまった。
「あ……」
「? どうしたの?」
エチカが僕に視線を戻す。
「ううん、なんでもない」
最近ずっとこの調子で、夏休み明けあたりからは、事務連絡のような会話しかしていない。
避けられているとまでは言わないが、距離を置かれているような気がしてならない。
僕はモヤモヤした気持ちのまま、サロンでエチカとパーティーの開始を待った。
パーティーが始まり、人々が盛大に乾杯を交わす。年が明けるまではまだ数時間ある。
カンテミール公爵が壇上に立ち、ホールにいる全員の視線が彼に集まった。
「今年のカウントダウンパーティーには、信頼できる皆様にお越しいただきました。今年はスペシャルゲストをお呼びしている関係で、誠に勝手ながら招待者を厳選させていただきました」
カンテミール公爵の銀色の瞳が、エチカを捉える。
「本日のスペシャルゲスト……エチカ・プリースト様です! エチカ様、よろしければ壇上にお上がりいただけますか?」
会場内の視線がエチカに集まる。エチカは涼しい笑顔を浮かべたまま、壇上まで歩き出した。
あまりにも堂々としたエチカの態度は他の貴族に劣らず、むしろ神々しささえ醸し出していた。
エチカが壇上に立ち、公爵の隣に並ぶ。
「カンテミール公爵。本日はこのような素敵なパーティーにお招きいただき、誠にありがとうございます」
蜂蜜のように甘いエチカの声が、会場に響く。エチカは間違いなく主人公だった。
壇上でエチカと公爵のやり取りがいくつか行われた後、パーティーが再開した。
エチカの周りに貴族が集まる。エチカは一人一人に対して丁寧に対応していて、あっという間にパーティーの輪の真ん中に入っていっていた。
僕はいつもの通り、隅っこの方でジュースを飲む。自分もそろそろ社交性を身につけなければならないのだろうが、まだ甘えてたい気分だ。
エチカの方に人が集まっているおかげで手持ち無沙汰になっているセオリアスを見つけたので、僕の方から話しかけることにした。
「セオリアス」
「あ、マリス……」
セオリアスの顔色が少しだけ悪い気がする。もしかしたら、エチカのことを懸念しているのかもしれない。
「セオリアス、あの、エチカのことだけど」
「ああ、外で話そう」
僕たちはホールから廊下に出て、そのまま空いている客室に入った。
セオリアスがソファに腰を下ろす。僕はなんとなく、扉の近くに立つことにした。
「セオ、あの、エチカのことなんだけど」
「あぁ」
「エチカが大丈夫だって言ってたよ」
「あぁ……は?」
セオリアスが僕の方を振り向く。
「エチカに全部話したんだ。エチカ、大丈夫だって、奴隷にはならないって言ってた」
「だが……根拠が無いだろ」
「明確な根拠があるわけじゃないけどさ。前に僕の前世の話をしたでしょ? エチカは物語の主人公なんだ。物語の主人公が奴隷になる未来なんてあり得ないんだよ、バッドエンドじゃない限り」
「だが、この物語はバッドエンドかもしれない」
僕はセオリアスの方に近寄った。座っているセオリアスは僕よりも背が低く、セオリアスの頭が僕の視線よりも下にある。
その光景はとても新鮮で、セオリアスの頭の上にぽんと手を置いてみた。
「や、やめろよ」
セオリアスがすかさず僕の手を退ける。
「セオリアスのループの記憶の中で、エチカが奴隷になったことは一度も無かったんでしょ? もちろん、だからと言ってなんの対策もしなくて良いわけじゃないのはわかってる。僕の父がやっている奴隷市も止めたいし」
「あぁ、それは俺も同じだ」
「でも、セオリアスがそんな青褪めた顔をしていたから……あんまり気負わなくてもいいのかなって思って」
僕は再びセオリアスの頭に手を置いた。今度は退かされなかった。
サロンに通されると、貴族たちはエチカに注目していた。
エチカは、貴族たちの不躾な視線を気にする様子も無く、堂々としている。
「すっごい、セオの家もお城みたい!」
エチカが楽しそうに辺りを見回す。
そういえば、フィオーネは今年もパーティーに来ているのだろうか。
僕も目線だけを動かしてサロンを見渡した。扉に目を向けたとき、ちょうど部屋に入ってきたセオリアスを見かけた。
セオリアスもすぐ僕に気がつき、一瞬だけ目が合う。しかし、すぐに逸らされてしまった。
「あ……」
「? どうしたの?」
エチカが僕に視線を戻す。
「ううん、なんでもない」
最近ずっとこの調子で、夏休み明けあたりからは、事務連絡のような会話しかしていない。
避けられているとまでは言わないが、距離を置かれているような気がしてならない。
僕はモヤモヤした気持ちのまま、サロンでエチカとパーティーの開始を待った。
パーティーが始まり、人々が盛大に乾杯を交わす。年が明けるまではまだ数時間ある。
カンテミール公爵が壇上に立ち、ホールにいる全員の視線が彼に集まった。
「今年のカウントダウンパーティーには、信頼できる皆様にお越しいただきました。今年はスペシャルゲストをお呼びしている関係で、誠に勝手ながら招待者を厳選させていただきました」
カンテミール公爵の銀色の瞳が、エチカを捉える。
「本日のスペシャルゲスト……エチカ・プリースト様です! エチカ様、よろしければ壇上にお上がりいただけますか?」
会場内の視線がエチカに集まる。エチカは涼しい笑顔を浮かべたまま、壇上まで歩き出した。
あまりにも堂々としたエチカの態度は他の貴族に劣らず、むしろ神々しささえ醸し出していた。
エチカが壇上に立ち、公爵の隣に並ぶ。
「カンテミール公爵。本日はこのような素敵なパーティーにお招きいただき、誠にありがとうございます」
蜂蜜のように甘いエチカの声が、会場に響く。エチカは間違いなく主人公だった。
壇上でエチカと公爵のやり取りがいくつか行われた後、パーティーが再開した。
エチカの周りに貴族が集まる。エチカは一人一人に対して丁寧に対応していて、あっという間にパーティーの輪の真ん中に入っていっていた。
僕はいつもの通り、隅っこの方でジュースを飲む。自分もそろそろ社交性を身につけなければならないのだろうが、まだ甘えてたい気分だ。
エチカの方に人が集まっているおかげで手持ち無沙汰になっているセオリアスを見つけたので、僕の方から話しかけることにした。
「セオリアス」
「あ、マリス……」
セオリアスの顔色が少しだけ悪い気がする。もしかしたら、エチカのことを懸念しているのかもしれない。
「セオリアス、あの、エチカのことだけど」
「ああ、外で話そう」
僕たちはホールから廊下に出て、そのまま空いている客室に入った。
セオリアスがソファに腰を下ろす。僕はなんとなく、扉の近くに立つことにした。
「セオ、あの、エチカのことなんだけど」
「あぁ」
「エチカが大丈夫だって言ってたよ」
「あぁ……は?」
セオリアスが僕の方を振り向く。
「エチカに全部話したんだ。エチカ、大丈夫だって、奴隷にはならないって言ってた」
「だが……根拠が無いだろ」
「明確な根拠があるわけじゃないけどさ。前に僕の前世の話をしたでしょ? エチカは物語の主人公なんだ。物語の主人公が奴隷になる未来なんてあり得ないんだよ、バッドエンドじゃない限り」
「だが、この物語はバッドエンドかもしれない」
僕はセオリアスの方に近寄った。座っているセオリアスは僕よりも背が低く、セオリアスの頭が僕の視線よりも下にある。
その光景はとても新鮮で、セオリアスの頭の上にぽんと手を置いてみた。
「や、やめろよ」
セオリアスがすかさず僕の手を退ける。
「セオリアスのループの記憶の中で、エチカが奴隷になったことは一度も無かったんでしょ? もちろん、だからと言ってなんの対策もしなくて良いわけじゃないのはわかってる。僕の父がやっている奴隷市も止めたいし」
「あぁ、それは俺も同じだ」
「でも、セオリアスがそんな青褪めた顔をしていたから……あんまり気負わなくてもいいのかなって思って」
僕は再びセオリアスの頭に手を置いた。今度は退かされなかった。
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