転生した悪役令息は破滅エンドをなかなか回避できない

ハバーシャム

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2年生

ようこそアスムベルク邸へ!

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「エチカ様、お待ちしておりました」

 玄関前に馬車が止まり、使用人が手厚くエチカを迎える。
 エチカの乗ってきた馬車は白塗りで、馬も毛並みの綺麗な白馬だった。さすがは教会の馬である。

「わざわざ出迎えてくださりありがとうございます!」

 エチカの男性にしては高い声が聞こえる。
 僕は玄関口でエチカの登場を待っていた。

「お世話になりますー。あ、マリス久しぶり! お出迎えありがとう!」

 エチカは使用人一人ひとりに丁寧にお礼を述べていた。

 彼はいつものように明るく振る舞っている。気まずいと感じていたのは僕だけだったのかもしれない。

「アスムベルク邸ってすっごく素敵だね。ぼく、初めて見たよ」
「ありがとう! エチカの部屋に案内するよ」

 玄関ホールへ行くと、母の肖像画が迎えてくれる。
 エチカは足を止めて母の肖像画を眺めていた。

「これ……マリスのお母さん?」
「うん」
「とても綺麗な人だね。……ってか、マリスにそっくり……」
「よく言われる。ほら、早く部屋に行こう」

 来客用の部屋は全て3階にある。エチカの部屋は階段を登ってすぐ手前にある部屋だ。

「わ、すごいね。景色も良い!」

 エチカは部屋に入るとまずは窓際まで行った。3階からは森が見渡せる。

「マリス、家に招待してくれてありがとう」

 エチカは満面の笑みを浮かべて言った。

「いや……僕じゃなくて父が……。あの、エチカ。前にも言ったけど、父は君を奴隷にしようとしてるんだよ?」
「わかってる。でも大丈夫だよ」

 エチカはそう言い、窓を開けた。ふわっと心地良い風が吹き、エチカの髪が揺れる。

「マリス、ぼくはゲームの製作者なんだよ? ぼくのシナリオに、エチカが奴隷になる展開なんてない」
「エチカ……」
「なーんて、ちょっとクサすぎかな?」

 エチカが照れたように頬をかく。僕にはそんなエチカが、とても輝いて見えた。

(そうだ……そうだよ。エチカはこのゲームの製作者。つまり、エチカはこの世界の創造神なんだ!)

 僕はエチカのそばに駆け寄り、思わず抱きしめた。

「わ、ちょ、マリス!?」
「エチカ……今のすっごくかっこよかった! そうだよね、大丈夫だよね!」

 ぎゅう、とエチカを抱きしめる。腕の中のエチカは、驚いたのかカチコチになっていた。

「ちょ、ちょっとー? マリスってば大胆になったね?」
「あ、つい」

 パッと腕を離し、エチカを解放する。
 ディクショニア王国では、欧米みたい挨拶感覚でボディータッチをするのだが、僕の感覚もだいぶディクショニア文化に染まったらしい。気が付けば息をするようにハグをしていた。

 エチカは一度父に挨拶をしに部屋を後にした。僕は、エチカの部屋で帰りを待つ。

 エチカが戻ってくると、僕たちは夕食の時間まで近況報告や雑談をしていた。
 ラルフが夕食の準備ができたことを伝えに来てくれたので、一緒に食堂に行く。

 食堂には既に兄が来ていた。兄はキラキラした目でエチカの方を見ている。

「あ……、コホン。やあ、エチカ君。今日は来てくれてありがとう」
「ノエル様、こちらこそご招待いただき光栄です」

 エチカと兄が軽く挨拶を交わした後、父が食堂に入ってきたので食事が始まった。
 エチカは食事中ずっと兄から質問攻めにあっていた。
 いつもは静かに食事を取る兄が珍しくたくさん話していて、エチカのおかげで兄の新しい一面を見ることができた。
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