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2年生
恐怖の手紙
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学園祭が終わり、あっと言う間に日常に戻った。
学園内ではしばらくフィオーネとエチカの話題が飛び交っていたが、1ヶ月もすれば落ち着いた。
季節は冬になり、あと数回授業を受ければ冬休みになる。
授業を終えて夕食を済ました後寮に戻ると、実家から1通の手紙が届いていた。
(なんだろう?)
なんとなく嫌な予感がして、自室に入りすぐに封を切った。
手紙の内容は、冬休みにエチカを家に招待するから、一緒に帰ってくるようにと書かれていた。
「う、うそ、だろ……」
僕の手から手紙が滑り落ちる。
(ど、どうしよう……とりあえず、セオリアスに伝えよう)
僕は手紙を拾い上げてすぐに部屋を出た。
「マ、マリス? 随分顔が青いけど、大丈夫?」
「あ、リュゼ」
リビングには、ちょうど帰ってきたリュゼがいた。
「マリス、もしかして出かけるの? 明日にしときなよ。顔色が悪いよ」
「で、でも」
「マリス」
リュゼは僕の右腕を掴んだ。僕はびっくりして、手に持っていた手紙を落としてしまった。
「ん? 何これ」
リュゼが手紙を拾い上げる。
「はい」
「あ、ありがとう」
リュゼは、拾った手紙をすぐ僕に渡してくれた。中身を見られなくてほっとする。
「ねえ、マリスの顔色を悪くしたのはその手紙?」
リュゼは僕の右腕を掴んだまま聞いた。
「答えたくないなら、無理して答えなくていいけどさ」
口籠る僕に、リュゼは気を遣ってくれた。
僕はリュゼに話してしまおうか迷った。事情を話せば、きっとリュゼは強い味方になってくれる。
でも、もしリュゼに話して、父のことが公になってしまったら……。
(何を考えているんだ、僕は……)
僕は今、咄嗟に、自分の家庭が崩壊してしまうことに対して、恐怖を覚えたのだった。
自分で自分が嫌になる。今僕がしようとしている行動だって、父にとっては裏切り行為のはずなのに……。
「マリス、」
「わかった。話すよ」
僕はリュゼの言葉を遮って口を開いた。
僕たちはリビングのソファに移動すると、隣り合わせで座った。
「この手紙を読んでほしいんだ」
僕はリュゼに手紙を渡した。リュゼは、手紙に目を通すと、少しだけ顔を青ざめさせた。
「マリスは、知ってたんだね」
リュゼは僕に手紙を返しながら、ぽつりと呟いた。
「うん……セオリアスが教えてくれたんだ」
「そうか、セオかぁ」
リュゼがエチカの件について既に知っていたことには驚いたが、すぐに、昨年の学園祭後の夜を思い出した。
あの時リュゼは、エチカがカンテミール公爵に会わなかったことにほっとしていた。
つまり、あの時既にリュゼは父たちのことを知っていたのだ。僕の懸念は杞憂に終わった。
「エチカのこと、俺もなんとかしてみるよ。マリス、話してくれてありがとう」
リュゼがふっと微笑む。
「セオだけじゃなくて、俺のことももっと頼ってね」
「うん、本当にありがとう」
翌日、セオリアスにも手紙が届いたことを共有しておいた。
学園内ではしばらくフィオーネとエチカの話題が飛び交っていたが、1ヶ月もすれば落ち着いた。
季節は冬になり、あと数回授業を受ければ冬休みになる。
授業を終えて夕食を済ました後寮に戻ると、実家から1通の手紙が届いていた。
(なんだろう?)
なんとなく嫌な予感がして、自室に入りすぐに封を切った。
手紙の内容は、冬休みにエチカを家に招待するから、一緒に帰ってくるようにと書かれていた。
「う、うそ、だろ……」
僕の手から手紙が滑り落ちる。
(ど、どうしよう……とりあえず、セオリアスに伝えよう)
僕は手紙を拾い上げてすぐに部屋を出た。
「マ、マリス? 随分顔が青いけど、大丈夫?」
「あ、リュゼ」
リビングには、ちょうど帰ってきたリュゼがいた。
「マリス、もしかして出かけるの? 明日にしときなよ。顔色が悪いよ」
「で、でも」
「マリス」
リュゼは僕の右腕を掴んだ。僕はびっくりして、手に持っていた手紙を落としてしまった。
「ん? 何これ」
リュゼが手紙を拾い上げる。
「はい」
「あ、ありがとう」
リュゼは、拾った手紙をすぐ僕に渡してくれた。中身を見られなくてほっとする。
「ねえ、マリスの顔色を悪くしたのはその手紙?」
リュゼは僕の右腕を掴んだまま聞いた。
「答えたくないなら、無理して答えなくていいけどさ」
口籠る僕に、リュゼは気を遣ってくれた。
僕はリュゼに話してしまおうか迷った。事情を話せば、きっとリュゼは強い味方になってくれる。
でも、もしリュゼに話して、父のことが公になってしまったら……。
(何を考えているんだ、僕は……)
僕は今、咄嗟に、自分の家庭が崩壊してしまうことに対して、恐怖を覚えたのだった。
自分で自分が嫌になる。今僕がしようとしている行動だって、父にとっては裏切り行為のはずなのに……。
「マリス、」
「わかった。話すよ」
僕はリュゼの言葉を遮って口を開いた。
僕たちはリビングのソファに移動すると、隣り合わせで座った。
「この手紙を読んでほしいんだ」
僕はリュゼに手紙を渡した。リュゼは、手紙に目を通すと、少しだけ顔を青ざめさせた。
「マリスは、知ってたんだね」
リュゼは僕に手紙を返しながら、ぽつりと呟いた。
「うん……セオリアスが教えてくれたんだ」
「そうか、セオかぁ」
リュゼがエチカの件について既に知っていたことには驚いたが、すぐに、昨年の学園祭後の夜を思い出した。
あの時リュゼは、エチカがカンテミール公爵に会わなかったことにほっとしていた。
つまり、あの時既にリュゼは父たちのことを知っていたのだ。僕の懸念は杞憂に終わった。
「エチカのこと、俺もなんとかしてみるよ。マリス、話してくれてありがとう」
リュゼがふっと微笑む。
「セオだけじゃなくて、俺のことももっと頼ってね」
「うん、本当にありがとう」
翌日、セオリアスにも手紙が届いたことを共有しておいた。
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