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2年生
学園祭スタート
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学園祭が始まり、たくさんの人で賑わってきた。メインのパーティーは夕方からだが、展示品やパフォーマンスがあるので学園は昼間から開放している。
僕は父たちと合流しようと学園中を歩いた。今年は兄も来るとのことで、兄から僕の寮に手紙が届いていた。
広い廊下には美術委員会の生徒たちが描いた絵が飾られており、大講堂では合唱委員会による讃美歌が披露されている。
この学園には部活動は無いが、同好会のようなものがあり、各々趣味として芸術を嗜んでいるのだ。
(父上、どこにいるのかな。兄様と一緒にいると思うんだけど)
昨年はずっと倉庫に籠っていたのでわからなかったが、学園は思っていたよりも賑わっている。化粧や汗の匂いが入りまじり、僕は早くも人込みに酔ってしまった。
来客はほとんど貴族なので、カラフルな服やキラキラした装飾を付けている人が多い。
(目が回りそうだ……)
僕はいったん保健室に避難することにした。保健室にいけばエチカにも会えるだろうし。
ゆっくり3回ノックをして、先生からの返事を待つ。「はあい」と間延びした先生の声が聞こえたので、ドアを開ける。
「失礼しまー……、あ」
保健室には兄の姿があった。ベッドのカーテンを全開にして、ベッドの先に腰かけている。
「マリス君、どうしたの? ちょっと顔が青いわね」
保健の先生が心配そうに僕の顔を覗き込む。椅子に座るよう促されたので、診察用の椅子に腰を下ろした。
先生は40代くらいの優しそうな女性だ。栗色のふわふわした髪は先生の穏やかな性格を表しているかのように柔らかい印象がある。
「先生、ちょっと人混みに酔ってしまって……」
「あらぁ、大変」
「マリス、大丈夫か?」
兄はベッドから立ち上がり、僕の方まで来てくれた。
「はい、だいぶ落ち着きました。兄様もどこか具合が?」
「いや、俺は先生に挨拶に来たんだ。学生の頃は保健委員だったからね」
「そうだったんですね。そういえば、お父様はどちらに?」
エチカの姿もない。なんだか嫌な予感がしてきた。
「カンテミール公爵と共に学園を見て回ると言っていたよ」
「え!?」
それはまずい。かなりまずい。はやく父を探しにいかなくては。
「兄様、カンテミール公爵には会いましたか?」
「あぁ。挨拶をしてから保健室に来たよ」
「そうですか……。先生、エチカは保健室にはいないのですか?」
「エチカ君には準備を頑張ってもらったから、今日はお休みよ」
……ということは、今こうしている間にもエチカと父が会う可能性があるのか。
僕は、自分の浅はかな考えに後悔を覚え始めていた。フィオーネと共に行動しているのなら、きっと学園祭の人込みに紛れて連れ去られるなんてことはないと思う。
でももしエチカと父たちが接触してしまったら……。また、昨年の王宮パーティーみたいなことが起こってしまったら……。
(やっぱり、セオリアスの言う通り、無理矢理にでもエチカを閉じ込めておくべきだったのかも……)
エチカには嫌われてしまうだろうが、エチカの人生が滅茶苦茶になるよりは断然いいだろう。
(どうしよう……待って、落ち着け、僕……セオリアスだ。まずはセオリアスに相談しよう)
一刻も早くセオリアスに会いたくて、僕は椅子から立ち上がった。
「それでは先生、僕はもう具合が良くなったので失礼します。兄さん、またパーティーの時に会いましょう」
「待てマリス、まだ顔色が悪いぞ。パーティーまで時間はある。もう少し休んでいくんだ」
「で、ですが」
「そうよお、マリス君。ベッドに横になった方がいいわ。さっきよりも顔色が悪いもの」
「え、ちょ」
兄に腕を引っ張られ、そのままベッドまで連行される。兄は僕をそっと僕をベッドに寝かせた。
「どんどん顔色が悪くなっている。大丈夫か?」
兄は、そっと優しく僕の額を撫ででくれた。
(どうしよう……)
僕の頭からはますます血の気が引いていった。
僕は父たちと合流しようと学園中を歩いた。今年は兄も来るとのことで、兄から僕の寮に手紙が届いていた。
広い廊下には美術委員会の生徒たちが描いた絵が飾られており、大講堂では合唱委員会による讃美歌が披露されている。
この学園には部活動は無いが、同好会のようなものがあり、各々趣味として芸術を嗜んでいるのだ。
(父上、どこにいるのかな。兄様と一緒にいると思うんだけど)
昨年はずっと倉庫に籠っていたのでわからなかったが、学園は思っていたよりも賑わっている。化粧や汗の匂いが入りまじり、僕は早くも人込みに酔ってしまった。
来客はほとんど貴族なので、カラフルな服やキラキラした装飾を付けている人が多い。
(目が回りそうだ……)
僕はいったん保健室に避難することにした。保健室にいけばエチカにも会えるだろうし。
ゆっくり3回ノックをして、先生からの返事を待つ。「はあい」と間延びした先生の声が聞こえたので、ドアを開ける。
「失礼しまー……、あ」
保健室には兄の姿があった。ベッドのカーテンを全開にして、ベッドの先に腰かけている。
「マリス君、どうしたの? ちょっと顔が青いわね」
保健の先生が心配そうに僕の顔を覗き込む。椅子に座るよう促されたので、診察用の椅子に腰を下ろした。
先生は40代くらいの優しそうな女性だ。栗色のふわふわした髪は先生の穏やかな性格を表しているかのように柔らかい印象がある。
「先生、ちょっと人混みに酔ってしまって……」
「あらぁ、大変」
「マリス、大丈夫か?」
兄はベッドから立ち上がり、僕の方まで来てくれた。
「はい、だいぶ落ち着きました。兄様もどこか具合が?」
「いや、俺は先生に挨拶に来たんだ。学生の頃は保健委員だったからね」
「そうだったんですね。そういえば、お父様はどちらに?」
エチカの姿もない。なんだか嫌な予感がしてきた。
「カンテミール公爵と共に学園を見て回ると言っていたよ」
「え!?」
それはまずい。かなりまずい。はやく父を探しにいかなくては。
「兄様、カンテミール公爵には会いましたか?」
「あぁ。挨拶をしてから保健室に来たよ」
「そうですか……。先生、エチカは保健室にはいないのですか?」
「エチカ君には準備を頑張ってもらったから、今日はお休みよ」
……ということは、今こうしている間にもエチカと父が会う可能性があるのか。
僕は、自分の浅はかな考えに後悔を覚え始めていた。フィオーネと共に行動しているのなら、きっと学園祭の人込みに紛れて連れ去られるなんてことはないと思う。
でももしエチカと父たちが接触してしまったら……。また、昨年の王宮パーティーみたいなことが起こってしまったら……。
(やっぱり、セオリアスの言う通り、無理矢理にでもエチカを閉じ込めておくべきだったのかも……)
エチカには嫌われてしまうだろうが、エチカの人生が滅茶苦茶になるよりは断然いいだろう。
(どうしよう……待って、落ち着け、僕……セオリアスだ。まずはセオリアスに相談しよう)
一刻も早くセオリアスに会いたくて、僕は椅子から立ち上がった。
「それでは先生、僕はもう具合が良くなったので失礼します。兄さん、またパーティーの時に会いましょう」
「待てマリス、まだ顔色が悪いぞ。パーティーまで時間はある。もう少し休んでいくんだ」
「で、ですが」
「そうよお、マリス君。ベッドに横になった方がいいわ。さっきよりも顔色が悪いもの」
「え、ちょ」
兄に腕を引っ張られ、そのままベッドまで連行される。兄は僕をそっと僕をベッドに寝かせた。
「どんどん顔色が悪くなっている。大丈夫か?」
兄は、そっと優しく僕の額を撫ででくれた。
(どうしよう……)
僕の頭からはますます血の気が引いていった。
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