66 / 120
2年生
学園祭スタート
しおりを挟む
学園祭が始まり、たくさんの人で賑わってきた。メインのパーティーは夕方からだが、展示品やパフォーマンスがあるので学園は昼間から開放している。
僕は父たちと合流しようと学園中を歩いた。今年は兄も来るとのことで、兄から僕の寮に手紙が届いていた。
広い廊下には美術委員会の生徒たちが描いた絵が飾られており、大講堂では合唱委員会による讃美歌が披露されている。
この学園には部活動は無いが、同好会のようなものがあり、各々趣味として芸術を嗜んでいるのだ。
(父上、どこにいるのかな。兄様と一緒にいると思うんだけど)
昨年はずっと倉庫に籠っていたのでわからなかったが、学園は思っていたよりも賑わっている。化粧や汗の匂いが入りまじり、僕は早くも人込みに酔ってしまった。
来客はほとんど貴族なので、カラフルな服やキラキラした装飾を付けている人が多い。
(目が回りそうだ……)
僕はいったん保健室に避難することにした。保健室にいけばエチカにも会えるだろうし。
ゆっくり3回ノックをして、先生からの返事を待つ。「はあい」と間延びした先生の声が聞こえたので、ドアを開ける。
「失礼しまー……、あ」
保健室には兄の姿があった。ベッドのカーテンを全開にして、ベッドの先に腰かけている。
「マリス君、どうしたの? ちょっと顔が青いわね」
保健の先生が心配そうに僕の顔を覗き込む。椅子に座るよう促されたので、診察用の椅子に腰を下ろした。
先生は40代くらいの優しそうな女性だ。栗色のふわふわした髪は先生の穏やかな性格を表しているかのように柔らかい印象がある。
「先生、ちょっと人混みに酔ってしまって……」
「あらぁ、大変」
「マリス、大丈夫か?」
兄はベッドから立ち上がり、僕の方まで来てくれた。
「はい、だいぶ落ち着きました。兄様もどこか具合が?」
「いや、俺は先生に挨拶に来たんだ。学生の頃は保健委員だったからね」
「そうだったんですね。そういえば、お父様はどちらに?」
エチカの姿もない。なんだか嫌な予感がしてきた。
「カンテミール公爵と共に学園を見て回ると言っていたよ」
「え!?」
それはまずい。かなりまずい。はやく父を探しにいかなくては。
「兄様、カンテミール公爵には会いましたか?」
「あぁ。挨拶をしてから保健室に来たよ」
「そうですか……。先生、エチカは保健室にはいないのですか?」
「エチカ君には準備を頑張ってもらったから、今日はお休みよ」
……ということは、今こうしている間にもエチカと父が会う可能性があるのか。
僕は、自分の浅はかな考えに後悔を覚え始めていた。フィオーネと共に行動しているのなら、きっと学園祭の人込みに紛れて連れ去られるなんてことはないと思う。
でももしエチカと父たちが接触してしまったら……。また、昨年の王宮パーティーみたいなことが起こってしまったら……。
(やっぱり、セオリアスの言う通り、無理矢理にでもエチカを閉じ込めておくべきだったのかも……)
エチカには嫌われてしまうだろうが、エチカの人生が滅茶苦茶になるよりは断然いいだろう。
(どうしよう……待って、落ち着け、僕……セオリアスだ。まずはセオリアスに相談しよう)
一刻も早くセオリアスに会いたくて、僕は椅子から立ち上がった。
「それでは先生、僕はもう具合が良くなったので失礼します。兄さん、またパーティーの時に会いましょう」
「待てマリス、まだ顔色が悪いぞ。パーティーまで時間はある。もう少し休んでいくんだ」
「で、ですが」
「そうよお、マリス君。ベッドに横になった方がいいわ。さっきよりも顔色が悪いもの」
「え、ちょ」
兄に腕を引っ張られ、そのままベッドまで連行される。兄は僕をそっと僕をベッドに寝かせた。
「どんどん顔色が悪くなっている。大丈夫か?」
兄は、そっと優しく僕の額を撫ででくれた。
(どうしよう……)
僕の頭からはますます血の気が引いていった。
僕は父たちと合流しようと学園中を歩いた。今年は兄も来るとのことで、兄から僕の寮に手紙が届いていた。
広い廊下には美術委員会の生徒たちが描いた絵が飾られており、大講堂では合唱委員会による讃美歌が披露されている。
この学園には部活動は無いが、同好会のようなものがあり、各々趣味として芸術を嗜んでいるのだ。
(父上、どこにいるのかな。兄様と一緒にいると思うんだけど)
昨年はずっと倉庫に籠っていたのでわからなかったが、学園は思っていたよりも賑わっている。化粧や汗の匂いが入りまじり、僕は早くも人込みに酔ってしまった。
来客はほとんど貴族なので、カラフルな服やキラキラした装飾を付けている人が多い。
(目が回りそうだ……)
僕はいったん保健室に避難することにした。保健室にいけばエチカにも会えるだろうし。
ゆっくり3回ノックをして、先生からの返事を待つ。「はあい」と間延びした先生の声が聞こえたので、ドアを開ける。
「失礼しまー……、あ」
保健室には兄の姿があった。ベッドのカーテンを全開にして、ベッドの先に腰かけている。
「マリス君、どうしたの? ちょっと顔が青いわね」
保健の先生が心配そうに僕の顔を覗き込む。椅子に座るよう促されたので、診察用の椅子に腰を下ろした。
先生は40代くらいの優しそうな女性だ。栗色のふわふわした髪は先生の穏やかな性格を表しているかのように柔らかい印象がある。
「先生、ちょっと人混みに酔ってしまって……」
「あらぁ、大変」
「マリス、大丈夫か?」
兄はベッドから立ち上がり、僕の方まで来てくれた。
「はい、だいぶ落ち着きました。兄様もどこか具合が?」
「いや、俺は先生に挨拶に来たんだ。学生の頃は保健委員だったからね」
「そうだったんですね。そういえば、お父様はどちらに?」
エチカの姿もない。なんだか嫌な予感がしてきた。
「カンテミール公爵と共に学園を見て回ると言っていたよ」
「え!?」
それはまずい。かなりまずい。はやく父を探しにいかなくては。
「兄様、カンテミール公爵には会いましたか?」
「あぁ。挨拶をしてから保健室に来たよ」
「そうですか……。先生、エチカは保健室にはいないのですか?」
「エチカ君には準備を頑張ってもらったから、今日はお休みよ」
……ということは、今こうしている間にもエチカと父が会う可能性があるのか。
僕は、自分の浅はかな考えに後悔を覚え始めていた。フィオーネと共に行動しているのなら、きっと学園祭の人込みに紛れて連れ去られるなんてことはないと思う。
でももしエチカと父たちが接触してしまったら……。また、昨年の王宮パーティーみたいなことが起こってしまったら……。
(やっぱり、セオリアスの言う通り、無理矢理にでもエチカを閉じ込めておくべきだったのかも……)
エチカには嫌われてしまうだろうが、エチカの人生が滅茶苦茶になるよりは断然いいだろう。
(どうしよう……待って、落ち着け、僕……セオリアスだ。まずはセオリアスに相談しよう)
一刻も早くセオリアスに会いたくて、僕は椅子から立ち上がった。
「それでは先生、僕はもう具合が良くなったので失礼します。兄さん、またパーティーの時に会いましょう」
「待てマリス、まだ顔色が悪いぞ。パーティーまで時間はある。もう少し休んでいくんだ」
「で、ですが」
「そうよお、マリス君。ベッドに横になった方がいいわ。さっきよりも顔色が悪いもの」
「え、ちょ」
兄に腕を引っ張られ、そのままベッドまで連行される。兄は僕をそっと僕をベッドに寝かせた。
「どんどん顔色が悪くなっている。大丈夫か?」
兄は、そっと優しく僕の額を撫ででくれた。
(どうしよう……)
僕の頭からはますます血の気が引いていった。
1
お気に入りに追加
405
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
随時更新です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました
西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて…
ほのほのです。
※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。
【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。
※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】愛してるから。今日も俺は、お前を忘れたふりをする
葵井瑞貴
BL
『好きだからこそ、いつか手放さなきゃいけない日が来るーー今がその時だ』
騎士団でバディを組むリオンとユーリは、恋人同士。しかし、付き合っていることは周囲に隠している。
平民のリオンは、貴族であるユーリの幸せな結婚と未来を願い、記憶喪失を装って身を引くことを決意する。
しかし、リオンを深く愛するユーリは「何度君に忘れられても、また好きになってもらえるように頑張る」と一途に言いーー。
ほんわか包容力溺愛攻め×トラウマ持ち強気受け
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる