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2年生
……わーお!
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結局、エチカとの仲に少しだけ亀裂が入ったまま、文化祭の日を迎えてしまった。
制服へ着替え、リュゼと共に食堂へ行く支度をする。部屋を出ようとドアノブに手をかけたタイミングで、ドアをノックする音が鳴った。ドアを開けると、扉の前にはセオリアスが居た。
「あ、おはよう」
「はよ。……もしかして、タイミング悪かったか?」
「おはようセオ。俺たち今から朝食に行こうと思ってたんだよ……あー、俺、一人で先に食堂行ってようか?」
リュゼは僕とセオリアスの顔を交互に見た。
「いや、いい。マリス、朝食の後俺の部屋に来てくれ」
「う、うん。わかった」
セオリアスはそれだけ言って、ドアの前から去って行った。
「……わーお!」
リュゼがからかいを含めた声で、にやにやしながら僕の方を見た。
食堂に向かっている間、リュゼの揶揄いが止まることは無かった。
朝食を終え、リュゼと別れてセオリアスの部屋へと向かう。ドアをノックすれば、すぐにセオリアスは迎えてくれた。
セオリアスの部屋に通され、2人でベッドに腰掛ける。
「さて、どうするか」
セオリアスは長い脚を組み、膝に肘を置いて顎に手を当てる、「考える人」みたいなポーズをしていた。
「……父上たちの方をどうにかできないのかな」
「それが出来たらとっくにそうしてる」
「でも、やっぱりエチカをパーティーに出させないなんて、いくらなんでも可哀想だよ」
セオリアスは黙ったままだった。
今年のパーティーは、エチカにとって、一生に一度の大切なパーティーだ。同じバーバリア学園の生徒としてフィオーネとダンスを踊れるのは今年しかないのだ。
エチカはフィオーネのことが好きだと言っていた。好きな人に誘われたパーティーにどうしても出たい気持ちを無視するなんてこと、僕にはできない。
「俺がやる。俺が、力尽くでエチカをパーティーに出させない」
「ま、待って。待ってよ。僕が父上をどうにかする。エチカをパーティーに出させないのはやっぱりダメだ」
「だが……」
「そもそも、悪いのは父上たちなんだよ? エチカの行動を制限するんじゃなくて、父上たちの行動を制限するべきだよ」
「俺だってエチカの自由を奪いたいわけじゃねえよ。ただ、今一時の楽しみを優先したら、エチカの人生すべてが崩壊するかもしれないんだ」
「僕を信じてくれ。僕が絶対に父を説得してみせる。これはアスムベルク家の問題でもあるんだ。僕がやらなきゃ」
エチカは今年も保健委員だから、昼間は保健室で先生の手伝いをしているはずだ。
だから、夕方のパーティーが始まる前に父をなんとかすればいいだろう。
「……」
「お願い、セオリアス」
「……わかった。お前に任せる。だが、失敗したらエチカの人生が危うくなることを肝に銘じておけよ」
そう言って立ちあがろうとしたセオリアスの手がシーツの上を滑り、体勢を崩したセオリアスの上半身は僕の方へと倒れてきた。
そのまま僕たちは勢いよく倒れ、はっと目を開けると、顔一面に造形の整ったセオリアスの顔面が広がっていた。
「あ、」
セオリアスとばっちり目が合ってしまい、僕の顔がみるみる熱くなる。
セオリアスの頬もじわじわと赤くなっていって、僕の心音は加速していった。
「あ、わ、悪ぃ」
はっとしたセオリアスが勢いよく上半身を起き上がらせる。
僕は、心臓を落ち着けたくてしばらくそのまま寝転がっていたかったけど、ぐずぐずしていると学園祭が始まってしまうので、慌ててセオリアスと解散した。
制服へ着替え、リュゼと共に食堂へ行く支度をする。部屋を出ようとドアノブに手をかけたタイミングで、ドアをノックする音が鳴った。ドアを開けると、扉の前にはセオリアスが居た。
「あ、おはよう」
「はよ。……もしかして、タイミング悪かったか?」
「おはようセオ。俺たち今から朝食に行こうと思ってたんだよ……あー、俺、一人で先に食堂行ってようか?」
リュゼは僕とセオリアスの顔を交互に見た。
「いや、いい。マリス、朝食の後俺の部屋に来てくれ」
「う、うん。わかった」
セオリアスはそれだけ言って、ドアの前から去って行った。
「……わーお!」
リュゼがからかいを含めた声で、にやにやしながら僕の方を見た。
食堂に向かっている間、リュゼの揶揄いが止まることは無かった。
朝食を終え、リュゼと別れてセオリアスの部屋へと向かう。ドアをノックすれば、すぐにセオリアスは迎えてくれた。
セオリアスの部屋に通され、2人でベッドに腰掛ける。
「さて、どうするか」
セオリアスは長い脚を組み、膝に肘を置いて顎に手を当てる、「考える人」みたいなポーズをしていた。
「……父上たちの方をどうにかできないのかな」
「それが出来たらとっくにそうしてる」
「でも、やっぱりエチカをパーティーに出させないなんて、いくらなんでも可哀想だよ」
セオリアスは黙ったままだった。
今年のパーティーは、エチカにとって、一生に一度の大切なパーティーだ。同じバーバリア学園の生徒としてフィオーネとダンスを踊れるのは今年しかないのだ。
エチカはフィオーネのことが好きだと言っていた。好きな人に誘われたパーティーにどうしても出たい気持ちを無視するなんてこと、僕にはできない。
「俺がやる。俺が、力尽くでエチカをパーティーに出させない」
「ま、待って。待ってよ。僕が父上をどうにかする。エチカをパーティーに出させないのはやっぱりダメだ」
「だが……」
「そもそも、悪いのは父上たちなんだよ? エチカの行動を制限するんじゃなくて、父上たちの行動を制限するべきだよ」
「俺だってエチカの自由を奪いたいわけじゃねえよ。ただ、今一時の楽しみを優先したら、エチカの人生すべてが崩壊するかもしれないんだ」
「僕を信じてくれ。僕が絶対に父を説得してみせる。これはアスムベルク家の問題でもあるんだ。僕がやらなきゃ」
エチカは今年も保健委員だから、昼間は保健室で先生の手伝いをしているはずだ。
だから、夕方のパーティーが始まる前に父をなんとかすればいいだろう。
「……」
「お願い、セオリアス」
「……わかった。お前に任せる。だが、失敗したらエチカの人生が危うくなることを肝に銘じておけよ」
そう言って立ちあがろうとしたセオリアスの手がシーツの上を滑り、体勢を崩したセオリアスの上半身は僕の方へと倒れてきた。
そのまま僕たちは勢いよく倒れ、はっと目を開けると、顔一面に造形の整ったセオリアスの顔面が広がっていた。
「あ、」
セオリアスとばっちり目が合ってしまい、僕の顔がみるみる熱くなる。
セオリアスの頬もじわじわと赤くなっていって、僕の心音は加速していった。
「あ、わ、悪ぃ」
はっとしたセオリアスが勢いよく上半身を起き上がらせる。
僕は、心臓を落ち着けたくてしばらくそのまま寝転がっていたかったけど、ぐずぐずしていると学園祭が始まってしまうので、慌ててセオリアスと解散した。
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