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2年生
好き
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猛烈な喉の渇きに目が覚めた。昨晩あんな行為をしたというのに、手首がひりひりする以外に不快感は無かった。服もちゃんと着ているし、身体もべたべたしていない。フィオーネが綺麗にしてくれたのだろうか。
時計を確認すると、昼前を示していた。
「あ゛……けほっけほっ」
びっくりして声を出そうとしたが、昨日のアレで喉が枯れてしまったようだった。待ち合わせの時間まであと15分しかない。とりあえず、水を飲んでカラカラの喉を潤した。
「あ゛、あ゛ー……、あ、あー、あー」
まだ少し声が変だが、本調子が出てきた。
(こんな状態でセオリアスに会いたくない)
やるせない思いにじわりと涙を浮かべながら、急いで出かける準備をする。手首の痕を見られないよう、長袖シャツを身に着けた。手首の痕を見ていると昨日のことを思い出してしまい、目から涙が零れてしまった。
待ち合わせの時間から2分過ぎてしまったところで、王宮を出ることができた。僕の部屋の護衛をしている騎士もついてくるようだった。騎士の青年は、道中で「後ろから見ているので、自分のことは気にせず楽しんでください」と言ってくれた。
待ち合わせ場所の噴水には既にセオリアスが立っていた。制服でも正装でもないセオリアスの姿は新鮮だ。
「遅れてごめん!!」
セオリアスの方に駆け寄ると、セオリアスはすぐ僕に気づいてくれた。
「マリス……」
セオリアスは僕の顔を一目見ると、頬をそっと撫でた。
「ゴミついてた?」
「……ああ、うん。それよりマリス、昼食は食べたか?」
「まだ食べてないよ」
「じゃあ、屋台で何か買って食おうぜ」
セオリアスが歩き出したので僕も横に並んで歩く。昼飯時なので、街のあちこちで屋台が美味しそうな匂いを醸し出している。
僕たちはパンと肉の串を購入し、空いているベンチに座って食べた。
肉の串は昨年兄と一緒に食べたもので、1年ぶりのジャンキーな味に舌鼓を打つ。
「マリスって野菜とか果物しか食べてないイメージがあるから、肉を頬張ってるのに違和感があるんだよな」
「何だよそれ? むしろ野菜苦手なんだけど」
「ぶっ、子供かよ!」
セオリアスがゲラゲラと笑い出す。カチンときた僕は、セオリアスの手にある肉串をぶん取り頬張り始めた。
「あ、てめえ!」
「大人なセオリアス君は野菜でも食べてれば~? 僕は子供だからお肉しかいりませーん」
「はー、もう。そういうところがガキだって言ってんの!」
セオリアスは僕の手から肉串を取り返したが、肉はあと一口分ほどしか残っていない。
「あーあ……俺肉ちょっとしか食ってねえのに」
「あははっ! ごめんごめん、僕のパン半分あげるから許して」
思ったよりもがっかりしているセオリアスに、パンを半分恵んであげた。
軽食を終えた僕たちは、アトラクション系の屋台で遊びながら夜を待った。
夕日が沈み、本格的に暗くなってきた頃が祭りの本番だ。
人が増え始め、辺りはより一層賑やかになっていく。
1発目の花火が打ち上がり、街にいる人々は一斉に空を仰いだ。
「綺麗だね」
「あぁ」
1発目の花火はとても大きく、周囲からは感嘆の声が聞こえたりもする。2発目、3発目と上がっていき、人集りはどんどん増えていった。
ドン、誰かに背中を押され、バランスを崩しかけたところをセオリアスに助けられた。
セオリアスに手を引かれ、素早く建物と建物の隙間に入り込む。人がごった返していて、危うく押し潰されるところだった。
「いたっ」
セオリアスが僕の手を掴んだことにより、長袖の布が昨日の痕を掠め、ズキリと痛んだ。
「あ、悪い」
パッとセオリアスが手を離す。もう少しだけ手を繋いでいたくて、声を上げてしまったことを後悔した。
「ごめん、気にしないで。ちょっと痛んだだけだから」
「大丈夫か? 傷、見せてみろ」
「あっ!」
駄目だと言う前にセオリアスが僕の袖を捲る。手首には赤い痕が残されている。
「な、んだよ……これ」
「ごめん、嫌なもの見せて」
「フィオーネにやられたのか?」
「……うん」
セオリアスは、ぎゅっと眉間に皺を寄せて僕の手首を優しく撫でた。
「はは、なんでセオリアスが泣きそうな顔してるの?」
セオリアスは僕の質問には答えなかった。
「わっ、」
セオリアスに優しく腕を引っ張られ、僕は彼の胸の中に埋もれた。
「ごめん、マリス。ごめん……」
セオリアスは僕を強く抱きしめながら、消え入るような声で何度も繰り返した。
僕はセオリアスが何に対して謝っているのかわからなくて、ただ背中に手を回し、きゅっと力を入れて抱きしめ返すことしかできなかった。
ドン、と大きな花火が鳴り、セオリアスの声は止んだ。セオリアスは僕を強く抱きしめたまま、僕の肩口に顔をうずめていた。
セオリアスのうずめている肩から、冷やりと濡れた感触がする。僕は背中に回していた手をセオリアスの頭に乗せて、ゆっくりと撫でた。
さらさらで心地の良い髪は撫で心地が良い。
(好き……)
再び花火が打ち上がる。大きな破裂音に負けないくらい、僕の心臓は大きく高鳴っていた。
(好き、だ。好きだよ。僕は、セオが好き……)
トクトクと、二人の心音が混ざり合う。
(セオリアスも、僕と同じ気持ちなのかな……そうだったらいいな)
祭りが終わると、僕たちは普通に解散した。しかし僕は、まるで今生の別れでもするかのように名残惜しくて、今にも泣き出してしまいそうだった。
僕は改めて決意した。絶対に、婚約破棄を成功させてみせることを。
卒業までの間に、父にも兄にも迷惑をかけず、穏便にフィオーネと婚約解消できる方法を必ず探してみせる。そして僕は、できるのならば、セオリアスと一緒に幸せになりたい。
時計を確認すると、昼前を示していた。
「あ゛……けほっけほっ」
びっくりして声を出そうとしたが、昨日のアレで喉が枯れてしまったようだった。待ち合わせの時間まであと15分しかない。とりあえず、水を飲んでカラカラの喉を潤した。
「あ゛、あ゛ー……、あ、あー、あー」
まだ少し声が変だが、本調子が出てきた。
(こんな状態でセオリアスに会いたくない)
やるせない思いにじわりと涙を浮かべながら、急いで出かける準備をする。手首の痕を見られないよう、長袖シャツを身に着けた。手首の痕を見ていると昨日のことを思い出してしまい、目から涙が零れてしまった。
待ち合わせの時間から2分過ぎてしまったところで、王宮を出ることができた。僕の部屋の護衛をしている騎士もついてくるようだった。騎士の青年は、道中で「後ろから見ているので、自分のことは気にせず楽しんでください」と言ってくれた。
待ち合わせ場所の噴水には既にセオリアスが立っていた。制服でも正装でもないセオリアスの姿は新鮮だ。
「遅れてごめん!!」
セオリアスの方に駆け寄ると、セオリアスはすぐ僕に気づいてくれた。
「マリス……」
セオリアスは僕の顔を一目見ると、頬をそっと撫でた。
「ゴミついてた?」
「……ああ、うん。それよりマリス、昼食は食べたか?」
「まだ食べてないよ」
「じゃあ、屋台で何か買って食おうぜ」
セオリアスが歩き出したので僕も横に並んで歩く。昼飯時なので、街のあちこちで屋台が美味しそうな匂いを醸し出している。
僕たちはパンと肉の串を購入し、空いているベンチに座って食べた。
肉の串は昨年兄と一緒に食べたもので、1年ぶりのジャンキーな味に舌鼓を打つ。
「マリスって野菜とか果物しか食べてないイメージがあるから、肉を頬張ってるのに違和感があるんだよな」
「何だよそれ? むしろ野菜苦手なんだけど」
「ぶっ、子供かよ!」
セオリアスがゲラゲラと笑い出す。カチンときた僕は、セオリアスの手にある肉串をぶん取り頬張り始めた。
「あ、てめえ!」
「大人なセオリアス君は野菜でも食べてれば~? 僕は子供だからお肉しかいりませーん」
「はー、もう。そういうところがガキだって言ってんの!」
セオリアスは僕の手から肉串を取り返したが、肉はあと一口分ほどしか残っていない。
「あーあ……俺肉ちょっとしか食ってねえのに」
「あははっ! ごめんごめん、僕のパン半分あげるから許して」
思ったよりもがっかりしているセオリアスに、パンを半分恵んであげた。
軽食を終えた僕たちは、アトラクション系の屋台で遊びながら夜を待った。
夕日が沈み、本格的に暗くなってきた頃が祭りの本番だ。
人が増え始め、辺りはより一層賑やかになっていく。
1発目の花火が打ち上がり、街にいる人々は一斉に空を仰いだ。
「綺麗だね」
「あぁ」
1発目の花火はとても大きく、周囲からは感嘆の声が聞こえたりもする。2発目、3発目と上がっていき、人集りはどんどん増えていった。
ドン、誰かに背中を押され、バランスを崩しかけたところをセオリアスに助けられた。
セオリアスに手を引かれ、素早く建物と建物の隙間に入り込む。人がごった返していて、危うく押し潰されるところだった。
「いたっ」
セオリアスが僕の手を掴んだことにより、長袖の布が昨日の痕を掠め、ズキリと痛んだ。
「あ、悪い」
パッとセオリアスが手を離す。もう少しだけ手を繋いでいたくて、声を上げてしまったことを後悔した。
「ごめん、気にしないで。ちょっと痛んだだけだから」
「大丈夫か? 傷、見せてみろ」
「あっ!」
駄目だと言う前にセオリアスが僕の袖を捲る。手首には赤い痕が残されている。
「な、んだよ……これ」
「ごめん、嫌なもの見せて」
「フィオーネにやられたのか?」
「……うん」
セオリアスは、ぎゅっと眉間に皺を寄せて僕の手首を優しく撫でた。
「はは、なんでセオリアスが泣きそうな顔してるの?」
セオリアスは僕の質問には答えなかった。
「わっ、」
セオリアスに優しく腕を引っ張られ、僕は彼の胸の中に埋もれた。
「ごめん、マリス。ごめん……」
セオリアスは僕を強く抱きしめながら、消え入るような声で何度も繰り返した。
僕はセオリアスが何に対して謝っているのかわからなくて、ただ背中に手を回し、きゅっと力を入れて抱きしめ返すことしかできなかった。
ドン、と大きな花火が鳴り、セオリアスの声は止んだ。セオリアスは僕を強く抱きしめたまま、僕の肩口に顔をうずめていた。
セオリアスのうずめている肩から、冷やりと濡れた感触がする。僕は背中に回していた手をセオリアスの頭に乗せて、ゆっくりと撫でた。
さらさらで心地の良い髪は撫で心地が良い。
(好き……)
再び花火が打ち上がる。大きな破裂音に負けないくらい、僕の心臓は大きく高鳴っていた。
(好き、だ。好きだよ。僕は、セオが好き……)
トクトクと、二人の心音が混ざり合う。
(セオリアスも、僕と同じ気持ちなのかな……そうだったらいいな)
祭りが終わると、僕たちは普通に解散した。しかし僕は、まるで今生の別れでもするかのように名残惜しくて、今にも泣き出してしまいそうだった。
僕は改めて決意した。絶対に、婚約破棄を成功させてみせることを。
卒業までの間に、父にも兄にも迷惑をかけず、穏便にフィオーネと婚約解消できる方法を必ず探してみせる。そして僕は、できるのならば、セオリアスと一緒に幸せになりたい。
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