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2年生

迂闊

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 ノックの音で目が覚めた。慌てて返事をしてベッドから起き上がる。

「こんばんは、マリス。起こしてしまってすまない」
「いえ、そんな、お仕事お疲れ様です」

 フィオーネはここ数日、建国際での式典の準備に追われていた。前に会ったときよりも少し疲れた表情をしている気がする。
 フィオーネにソファに座るよう促し、紅茶の準備をしようとした。

「今お茶を入れますね。……あっ」

 机の上を片付けるのをすっかり忘れていた。机の上には二人分のティーカップが置きっぱなしだ。

「今日は俺の前に客がいたんだね」

 フィオーネは二つあるカップをじっと眺めていた。

「誰?」
「えっと……」

 グランが遊びに来たことをフィオーネに言っていいのか判断できず、言い淀む。グランは離宮に隠されていたと言っていたし、余計なことを言って迷惑をかけたくなかった。

「俺に言えない相手なのか?」
「いえ、その……あ、えっと、扉の前にいる護衛の方と雑談を……」

 事態をややこしくするだけだというのに、僕は咄嗟に嘘をついてしまった。

「ふうん。つまり、あそこの騎士は、仕事を放棄して俺の婚約者の部屋に入り、俺の婚約者と二人きりになったということか。信用できない人間だな。今すぐ解雇しなければ」

 フィオーネの言葉に、僕の頭から血の気が引いていく。僕は、ソファから立ち上がり部屋を出て行こうとするフィオーネの背中にしがみついた。

「待って、ごめんなさい! 嘘です! 部屋に来たのは別の人です! だから関係のない彼を解雇するのはやめてください!」
「では、誰なんだ?」
「それは……」
「わかった、ではこうしようか。君が誰なのかを言わなかったら、彼を今すぐ解雇する」

 フィオーネは僕の方に向き直り、悪魔のような笑みを浮かべた。彼の恐ろしい顔に、僕の身体が強張り頭が真っ白になる。

「グラ……あ、グラシアス殿下、です」
「なるほど、グランか。グランは君には王子であることを伝えていたんだね」
「はい、この間の林間学校で教えてくださいました」

 ピリピリとしていた空気が少しだけ和らぐ。フィオーネはグランの事を何とも思っていないようだった。

「最初から素直にそう言ってくれればよかったのに」
「嘘をついてしまい申し訳ありませんでした。言ってよいものか判断できなくて……」
「グランに気を遣ってくれたんだね。健気な学友を持てたようで兄としては嬉しい限りだ」

 フィオーネは穏やかな口調で言う。僕は勝手にフィオーネとグランの仲が悪いのだと思っていたが、杞憂だったようだ。
 僕がほっと息を吐いたのも束の間で、僕はこの後、自分の軽率な行動にひたすら後悔することになったのだった。
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