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2年生
悪かったな、童貞で!!
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夕食はバーベキューだ。貴族の子である生徒たちの殆どは、野外で肉を焼いて食べるなど初めての経験だろう。
僕も、マリスになってからは一度も経験をした事が無い。せいぜい祭りの際の買い食い程度だ。
厳しい家柄ならば、買い食いも許されていないだろう。生徒たちは初めてのバーベキューに戸惑いつつも、自分たちで焼いた肉を美味しそうに食べていた。
僕は、適当に野菜や肉を皿に乗せ、少し離れたテーブルで座って食べることを繰り返した。
1人でもくもくと肉を頬張っていると、隣にセオリアスが座ってきた。
「…………」
セオリアスは一瞬迷ったような表情を浮かべたが、何も言わずに食事を始めた。
(え、な、なに? 何か言ったほうがいいかな? でも話題が無い……)
チラリとセオリアスの顔を伺う。
「あっ」
セオリアスと目が合ってしまった。セオリアスは僕の方を見て、何か言いたそうな表情を浮かべていた。
「えと、僕に何か用事?」
「いや……。……あっちは騒がしいから」
「あ、そうなんだね。僕も、静かなところで食べたくてここにいるんだ」
セオリアスは奥歯に肉の筋でも挟まったかのように、ずっともごもごしている。もごもご、というか、そわそわに近いかもしれない。
「……お前、意外と食うのな」
「えっ?」
僕は咄嗟に自分の皿を見た。皿にはまだ肉が乗っている。
「そ、そうかな? 久しぶりのバーベキューだからテンション上がっちゃったのかも」
「久しぶり?」
「あ、うん。前世ぶりだなって思ってさ」
僕は言いながら、日本でのことを思い出した。子供の頃、毎年夏休みに家族ぐるみで友達とバーベキューに出掛けていた。
成長するにつれコミュ障を拗らせていったので、大学に入り一人暮らしをしてからはそういったイベントには無縁だったが、屋外で食べる肉の特別な美味しさは今でも覚えている。
僕はセオリアスに、前世でのバーベキューの思い出を話した。記憶を追っているうちに話に夢中になってしまったが、セオリアスはたまに相槌を打って、僕の話を聞いてくれていた。
「あ、ごめん。僕の前世の話ばっかり。退屈だよね」
「いや、退屈じゃない。マリスの前世のいろんな話……その……もっと聞きたい」
セオリアスは白い頬をほんのりと赤らめてそう言った。どこに照れポイントがあったのかはわからないが、つられて僕の頬も熱くなってくる。
「ぼ、僕の前世の話……」
「前世はなんて名前だったんだ?」
「山那椿……ツバキ・ヤマナだよ。前世の国では、名乗る時に名字が先で名前が後にくるんだ」
「へえ。ヤマナツバキ」
セオリアスの発音が少しだけ稚拙で、不覚にもキュンとしてしまう。
「ニホンって、どんな国だったんだ?」
「そうだなぁ。うーん……身分制度が無くて、この国、というか、この世界よりも技術や文化が発展してた。移動は馬車よりも早い『車』って乗り物が主流だし、文通しなくても『携帯電話』で、いつでもどこでも連絡が取れたし、娯楽もたくさんあったよ」
「車……携帯電話……すげえな、一度でいいから行ってみてー」
「とにかく便利だったよ。あ、でも、この国と違って異性愛が主流でさ、同性愛者は差別されてた。最近になってようやく認められてきたけど、その辺りに関してはディクショニア王国の方が発展してるかも」
「え……!」
セオリアスが動揺し、フォークに刺さっていた肉がポロリと皿に落ちた。この国には箸が無いので、バーベキューの時もナイフとフォークを使う。
「異性愛が主流ってことは、マリスも?」
「え、うーん、まあ? でも僕、恋愛経験は無かったからなぁ……それに偏見とかも特に無かったし……むしろ……」
後半はゴニョゴニョ言って誤魔化した。腐男子だったなんて知られたら引かれるかもしれないし。
「恋愛経験が、無い?」
セオリアスは目を見開いた。そんなに驚くことだろうか。
(悪かったな、童貞で!!)
「……お前、何歳で死んだんだ? あ、いや、答えたくないなら言わなくていいが」
「えっと、25歳で……」
「に、25!?」
その反応は、25で死ぬなんて若すぎる、というものなのか、25にもなってまだ童貞だったのか、という驚きなのかどちらなのだろう。前者であることを祈る。
「あー……そりゃ、お気の毒。じゃあ、マリスのとりあえずの目標は25歳以上まで生きることだな」
「セオリアスが僕の目標を決めるのかよ」
突然の目標設定に思わず苦笑する。しかし、25歳以上まで生きる、という目標は、ループを終わらすことにも繋がるかもしれないので、あながち強引ではないのかもしれない。
僕は、すっかり冷めた肉を口に放り込んだ。良いお肉を使っているのか、冷めてもそこまで固くない。咀嚼をすれば、じんわりと肉の味が口内に広かった。
僕とセオリアスは皿に乗っている肉を平らげて、片付けに入った。皿もカトラリーも使い捨てのものなので、ごみ袋に入れれば片付けは完了だ。
皆が大体食べ終わり、バーベキューセットの片づけを手伝って各自テントに戻る。明日は王都に帰るので、早めの解散だ。
テントに戻ると、既にリュゼとエチカが寝る支度をしていた。
「あれ、グランは?」
「星を見に行ったよ」
エチカが寝袋を広げながら答える。
「へえ~。いいね」
「ぼくたちは昨日見たじゃん。マリス、星好きなの?」
「いや、特別好きってわけじゃないけど……」
左隅で既に寝袋にくるまっていたリュゼが、突然ガバッと起き上がった。
「え、ちょっと待ってよ聞いてない! 二人も星見に行ってたの!? 俺も行く! チクショ~なんだよお前ら、ロマンチストかよ! 青春しやがって!!」
リュゼは言いたいことだけ言うと、怒涛の速さでテントから出ていった。
「……ぷっ」
エチカが耐え切れずに笑い出し、僕もエチカに釣られて吹き出した。
僕は、笑いながら自分の寝袋をエチカの横に広げた。四人用のテントだが、男が四人で寝るにはせまく、詰めなくてはならない。
僕は寝袋に入るとすぐに目を閉じた。昨日はハプニングがあったので、今日が初めての寝袋だ。寝心地は全然良くないけど、二日間の疲れもあってかすぐに意識が落ちていった。
僕も、マリスになってからは一度も経験をした事が無い。せいぜい祭りの際の買い食い程度だ。
厳しい家柄ならば、買い食いも許されていないだろう。生徒たちは初めてのバーベキューに戸惑いつつも、自分たちで焼いた肉を美味しそうに食べていた。
僕は、適当に野菜や肉を皿に乗せ、少し離れたテーブルで座って食べることを繰り返した。
1人でもくもくと肉を頬張っていると、隣にセオリアスが座ってきた。
「…………」
セオリアスは一瞬迷ったような表情を浮かべたが、何も言わずに食事を始めた。
(え、な、なに? 何か言ったほうがいいかな? でも話題が無い……)
チラリとセオリアスの顔を伺う。
「あっ」
セオリアスと目が合ってしまった。セオリアスは僕の方を見て、何か言いたそうな表情を浮かべていた。
「えと、僕に何か用事?」
「いや……。……あっちは騒がしいから」
「あ、そうなんだね。僕も、静かなところで食べたくてここにいるんだ」
セオリアスは奥歯に肉の筋でも挟まったかのように、ずっともごもごしている。もごもご、というか、そわそわに近いかもしれない。
「……お前、意外と食うのな」
「えっ?」
僕は咄嗟に自分の皿を見た。皿にはまだ肉が乗っている。
「そ、そうかな? 久しぶりのバーベキューだからテンション上がっちゃったのかも」
「久しぶり?」
「あ、うん。前世ぶりだなって思ってさ」
僕は言いながら、日本でのことを思い出した。子供の頃、毎年夏休みに家族ぐるみで友達とバーベキューに出掛けていた。
成長するにつれコミュ障を拗らせていったので、大学に入り一人暮らしをしてからはそういったイベントには無縁だったが、屋外で食べる肉の特別な美味しさは今でも覚えている。
僕はセオリアスに、前世でのバーベキューの思い出を話した。記憶を追っているうちに話に夢中になってしまったが、セオリアスはたまに相槌を打って、僕の話を聞いてくれていた。
「あ、ごめん。僕の前世の話ばっかり。退屈だよね」
「いや、退屈じゃない。マリスの前世のいろんな話……その……もっと聞きたい」
セオリアスは白い頬をほんのりと赤らめてそう言った。どこに照れポイントがあったのかはわからないが、つられて僕の頬も熱くなってくる。
「ぼ、僕の前世の話……」
「前世はなんて名前だったんだ?」
「山那椿……ツバキ・ヤマナだよ。前世の国では、名乗る時に名字が先で名前が後にくるんだ」
「へえ。ヤマナツバキ」
セオリアスの発音が少しだけ稚拙で、不覚にもキュンとしてしまう。
「ニホンって、どんな国だったんだ?」
「そうだなぁ。うーん……身分制度が無くて、この国、というか、この世界よりも技術や文化が発展してた。移動は馬車よりも早い『車』って乗り物が主流だし、文通しなくても『携帯電話』で、いつでもどこでも連絡が取れたし、娯楽もたくさんあったよ」
「車……携帯電話……すげえな、一度でいいから行ってみてー」
「とにかく便利だったよ。あ、でも、この国と違って異性愛が主流でさ、同性愛者は差別されてた。最近になってようやく認められてきたけど、その辺りに関してはディクショニア王国の方が発展してるかも」
「え……!」
セオリアスが動揺し、フォークに刺さっていた肉がポロリと皿に落ちた。この国には箸が無いので、バーベキューの時もナイフとフォークを使う。
「異性愛が主流ってことは、マリスも?」
「え、うーん、まあ? でも僕、恋愛経験は無かったからなぁ……それに偏見とかも特に無かったし……むしろ……」
後半はゴニョゴニョ言って誤魔化した。腐男子だったなんて知られたら引かれるかもしれないし。
「恋愛経験が、無い?」
セオリアスは目を見開いた。そんなに驚くことだろうか。
(悪かったな、童貞で!!)
「……お前、何歳で死んだんだ? あ、いや、答えたくないなら言わなくていいが」
「えっと、25歳で……」
「に、25!?」
その反応は、25で死ぬなんて若すぎる、というものなのか、25にもなってまだ童貞だったのか、という驚きなのかどちらなのだろう。前者であることを祈る。
「あー……そりゃ、お気の毒。じゃあ、マリスのとりあえずの目標は25歳以上まで生きることだな」
「セオリアスが僕の目標を決めるのかよ」
突然の目標設定に思わず苦笑する。しかし、25歳以上まで生きる、という目標は、ループを終わらすことにも繋がるかもしれないので、あながち強引ではないのかもしれない。
僕は、すっかり冷めた肉を口に放り込んだ。良いお肉を使っているのか、冷めてもそこまで固くない。咀嚼をすれば、じんわりと肉の味が口内に広かった。
僕とセオリアスは皿に乗っている肉を平らげて、片付けに入った。皿もカトラリーも使い捨てのものなので、ごみ袋に入れれば片付けは完了だ。
皆が大体食べ終わり、バーベキューセットの片づけを手伝って各自テントに戻る。明日は王都に帰るので、早めの解散だ。
テントに戻ると、既にリュゼとエチカが寝る支度をしていた。
「あれ、グランは?」
「星を見に行ったよ」
エチカが寝袋を広げながら答える。
「へえ~。いいね」
「ぼくたちは昨日見たじゃん。マリス、星好きなの?」
「いや、特別好きってわけじゃないけど……」
左隅で既に寝袋にくるまっていたリュゼが、突然ガバッと起き上がった。
「え、ちょっと待ってよ聞いてない! 二人も星見に行ってたの!? 俺も行く! チクショ~なんだよお前ら、ロマンチストかよ! 青春しやがって!!」
リュゼは言いたいことだけ言うと、怒涛の速さでテントから出ていった。
「……ぷっ」
エチカが耐え切れずに笑い出し、僕もエチカに釣られて吹き出した。
僕は、笑いながら自分の寝袋をエチカの横に広げた。四人用のテントだが、男が四人で寝るにはせまく、詰めなくてはならない。
僕は寝袋に入るとすぐに目を閉じた。昨日はハプニングがあったので、今日が初めての寝袋だ。寝心地は全然良くないけど、二日間の疲れもあってかすぐに意識が落ちていった。
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