54 / 120
2年生
悪かったな、童貞で!!
しおりを挟む
夕食はバーベキューだ。貴族の子である生徒たちの殆どは、野外で肉を焼いて食べるなど初めての経験だろう。
僕も、マリスになってからは一度も経験をした事が無い。せいぜい祭りの際の買い食い程度だ。
厳しい家柄ならば、買い食いも許されていないだろう。生徒たちは初めてのバーベキューに戸惑いつつも、自分たちで焼いた肉を美味しそうに食べていた。
僕は、適当に野菜や肉を皿に乗せ、少し離れたテーブルで座って食べることを繰り返した。
1人でもくもくと肉を頬張っていると、隣にセオリアスが座ってきた。
「…………」
セオリアスは一瞬迷ったような表情を浮かべたが、何も言わずに食事を始めた。
(え、な、なに? 何か言ったほうがいいかな? でも話題が無い……)
チラリとセオリアスの顔を伺う。
「あっ」
セオリアスと目が合ってしまった。セオリアスは僕の方を見て、何か言いたそうな表情を浮かべていた。
「えと、僕に何か用事?」
「いや……。……あっちは騒がしいから」
「あ、そうなんだね。僕も、静かなところで食べたくてここにいるんだ」
セオリアスは奥歯に肉の筋でも挟まったかのように、ずっともごもごしている。もごもご、というか、そわそわに近いかもしれない。
「……お前、意外と食うのな」
「えっ?」
僕は咄嗟に自分の皿を見た。皿にはまだ肉が乗っている。
「そ、そうかな? 久しぶりのバーベキューだからテンション上がっちゃったのかも」
「久しぶり?」
「あ、うん。前世ぶりだなって思ってさ」
僕は言いながら、日本でのことを思い出した。子供の頃、毎年夏休みに家族ぐるみで友達とバーベキューに出掛けていた。
成長するにつれコミュ障を拗らせていったので、大学に入り一人暮らしをしてからはそういったイベントには無縁だったが、屋外で食べる肉の特別な美味しさは今でも覚えている。
僕はセオリアスに、前世でのバーベキューの思い出を話した。記憶を追っているうちに話に夢中になってしまったが、セオリアスはたまに相槌を打って、僕の話を聞いてくれていた。
「あ、ごめん。僕の前世の話ばっかり。退屈だよね」
「いや、退屈じゃない。マリスの前世のいろんな話……その……もっと聞きたい」
セオリアスは白い頬をほんのりと赤らめてそう言った。どこに照れポイントがあったのかはわからないが、つられて僕の頬も熱くなってくる。
「ぼ、僕の前世の話……」
「前世はなんて名前だったんだ?」
「山那椿……ツバキ・ヤマナだよ。前世の国では、名乗る時に名字が先で名前が後にくるんだ」
「へえ。ヤマナツバキ」
セオリアスの発音が少しだけ稚拙で、不覚にもキュンとしてしまう。
「ニホンって、どんな国だったんだ?」
「そうだなぁ。うーん……身分制度が無くて、この国、というか、この世界よりも技術や文化が発展してた。移動は馬車よりも早い『車』って乗り物が主流だし、文通しなくても『携帯電話』で、いつでもどこでも連絡が取れたし、娯楽もたくさんあったよ」
「車……携帯電話……すげえな、一度でいいから行ってみてー」
「とにかく便利だったよ。あ、でも、この国と違って異性愛が主流でさ、同性愛者は差別されてた。最近になってようやく認められてきたけど、その辺りに関してはディクショニア王国の方が発展してるかも」
「え……!」
セオリアスが動揺し、フォークに刺さっていた肉がポロリと皿に落ちた。この国には箸が無いので、バーベキューの時もナイフとフォークを使う。
「異性愛が主流ってことは、マリスも?」
「え、うーん、まあ? でも僕、恋愛経験は無かったからなぁ……それに偏見とかも特に無かったし……むしろ……」
後半はゴニョゴニョ言って誤魔化した。腐男子だったなんて知られたら引かれるかもしれないし。
「恋愛経験が、無い?」
セオリアスは目を見開いた。そんなに驚くことだろうか。
(悪かったな、童貞で!!)
「……お前、何歳で死んだんだ? あ、いや、答えたくないなら言わなくていいが」
「えっと、25歳で……」
「に、25!?」
その反応は、25で死ぬなんて若すぎる、というものなのか、25にもなってまだ童貞だったのか、という驚きなのかどちらなのだろう。前者であることを祈る。
「あー……そりゃ、お気の毒。じゃあ、マリスのとりあえずの目標は25歳以上まで生きることだな」
「セオリアスが僕の目標を決めるのかよ」
突然の目標設定に思わず苦笑する。しかし、25歳以上まで生きる、という目標は、ループを終わらすことにも繋がるかもしれないので、あながち強引ではないのかもしれない。
僕は、すっかり冷めた肉を口に放り込んだ。良いお肉を使っているのか、冷めてもそこまで固くない。咀嚼をすれば、じんわりと肉の味が口内に広かった。
僕とセオリアスは皿に乗っている肉を平らげて、片付けに入った。皿もカトラリーも使い捨てのものなので、ごみ袋に入れれば片付けは完了だ。
皆が大体食べ終わり、バーベキューセットの片づけを手伝って各自テントに戻る。明日は王都に帰るので、早めの解散だ。
テントに戻ると、既にリュゼとエチカが寝る支度をしていた。
「あれ、グランは?」
「星を見に行ったよ」
エチカが寝袋を広げながら答える。
「へえ~。いいね」
「ぼくたちは昨日見たじゃん。マリス、星好きなの?」
「いや、特別好きってわけじゃないけど……」
左隅で既に寝袋にくるまっていたリュゼが、突然ガバッと起き上がった。
「え、ちょっと待ってよ聞いてない! 二人も星見に行ってたの!? 俺も行く! チクショ~なんだよお前ら、ロマンチストかよ! 青春しやがって!!」
リュゼは言いたいことだけ言うと、怒涛の速さでテントから出ていった。
「……ぷっ」
エチカが耐え切れずに笑い出し、僕もエチカに釣られて吹き出した。
僕は、笑いながら自分の寝袋をエチカの横に広げた。四人用のテントだが、男が四人で寝るにはせまく、詰めなくてはならない。
僕は寝袋に入るとすぐに目を閉じた。昨日はハプニングがあったので、今日が初めての寝袋だ。寝心地は全然良くないけど、二日間の疲れもあってかすぐに意識が落ちていった。
僕も、マリスになってからは一度も経験をした事が無い。せいぜい祭りの際の買い食い程度だ。
厳しい家柄ならば、買い食いも許されていないだろう。生徒たちは初めてのバーベキューに戸惑いつつも、自分たちで焼いた肉を美味しそうに食べていた。
僕は、適当に野菜や肉を皿に乗せ、少し離れたテーブルで座って食べることを繰り返した。
1人でもくもくと肉を頬張っていると、隣にセオリアスが座ってきた。
「…………」
セオリアスは一瞬迷ったような表情を浮かべたが、何も言わずに食事を始めた。
(え、な、なに? 何か言ったほうがいいかな? でも話題が無い……)
チラリとセオリアスの顔を伺う。
「あっ」
セオリアスと目が合ってしまった。セオリアスは僕の方を見て、何か言いたそうな表情を浮かべていた。
「えと、僕に何か用事?」
「いや……。……あっちは騒がしいから」
「あ、そうなんだね。僕も、静かなところで食べたくてここにいるんだ」
セオリアスは奥歯に肉の筋でも挟まったかのように、ずっともごもごしている。もごもご、というか、そわそわに近いかもしれない。
「……お前、意外と食うのな」
「えっ?」
僕は咄嗟に自分の皿を見た。皿にはまだ肉が乗っている。
「そ、そうかな? 久しぶりのバーベキューだからテンション上がっちゃったのかも」
「久しぶり?」
「あ、うん。前世ぶりだなって思ってさ」
僕は言いながら、日本でのことを思い出した。子供の頃、毎年夏休みに家族ぐるみで友達とバーベキューに出掛けていた。
成長するにつれコミュ障を拗らせていったので、大学に入り一人暮らしをしてからはそういったイベントには無縁だったが、屋外で食べる肉の特別な美味しさは今でも覚えている。
僕はセオリアスに、前世でのバーベキューの思い出を話した。記憶を追っているうちに話に夢中になってしまったが、セオリアスはたまに相槌を打って、僕の話を聞いてくれていた。
「あ、ごめん。僕の前世の話ばっかり。退屈だよね」
「いや、退屈じゃない。マリスの前世のいろんな話……その……もっと聞きたい」
セオリアスは白い頬をほんのりと赤らめてそう言った。どこに照れポイントがあったのかはわからないが、つられて僕の頬も熱くなってくる。
「ぼ、僕の前世の話……」
「前世はなんて名前だったんだ?」
「山那椿……ツバキ・ヤマナだよ。前世の国では、名乗る時に名字が先で名前が後にくるんだ」
「へえ。ヤマナツバキ」
セオリアスの発音が少しだけ稚拙で、不覚にもキュンとしてしまう。
「ニホンって、どんな国だったんだ?」
「そうだなぁ。うーん……身分制度が無くて、この国、というか、この世界よりも技術や文化が発展してた。移動は馬車よりも早い『車』って乗り物が主流だし、文通しなくても『携帯電話』で、いつでもどこでも連絡が取れたし、娯楽もたくさんあったよ」
「車……携帯電話……すげえな、一度でいいから行ってみてー」
「とにかく便利だったよ。あ、でも、この国と違って異性愛が主流でさ、同性愛者は差別されてた。最近になってようやく認められてきたけど、その辺りに関してはディクショニア王国の方が発展してるかも」
「え……!」
セオリアスが動揺し、フォークに刺さっていた肉がポロリと皿に落ちた。この国には箸が無いので、バーベキューの時もナイフとフォークを使う。
「異性愛が主流ってことは、マリスも?」
「え、うーん、まあ? でも僕、恋愛経験は無かったからなぁ……それに偏見とかも特に無かったし……むしろ……」
後半はゴニョゴニョ言って誤魔化した。腐男子だったなんて知られたら引かれるかもしれないし。
「恋愛経験が、無い?」
セオリアスは目を見開いた。そんなに驚くことだろうか。
(悪かったな、童貞で!!)
「……お前、何歳で死んだんだ? あ、いや、答えたくないなら言わなくていいが」
「えっと、25歳で……」
「に、25!?」
その反応は、25で死ぬなんて若すぎる、というものなのか、25にもなってまだ童貞だったのか、という驚きなのかどちらなのだろう。前者であることを祈る。
「あー……そりゃ、お気の毒。じゃあ、マリスのとりあえずの目標は25歳以上まで生きることだな」
「セオリアスが僕の目標を決めるのかよ」
突然の目標設定に思わず苦笑する。しかし、25歳以上まで生きる、という目標は、ループを終わらすことにも繋がるかもしれないので、あながち強引ではないのかもしれない。
僕は、すっかり冷めた肉を口に放り込んだ。良いお肉を使っているのか、冷めてもそこまで固くない。咀嚼をすれば、じんわりと肉の味が口内に広かった。
僕とセオリアスは皿に乗っている肉を平らげて、片付けに入った。皿もカトラリーも使い捨てのものなので、ごみ袋に入れれば片付けは完了だ。
皆が大体食べ終わり、バーベキューセットの片づけを手伝って各自テントに戻る。明日は王都に帰るので、早めの解散だ。
テントに戻ると、既にリュゼとエチカが寝る支度をしていた。
「あれ、グランは?」
「星を見に行ったよ」
エチカが寝袋を広げながら答える。
「へえ~。いいね」
「ぼくたちは昨日見たじゃん。マリス、星好きなの?」
「いや、特別好きってわけじゃないけど……」
左隅で既に寝袋にくるまっていたリュゼが、突然ガバッと起き上がった。
「え、ちょっと待ってよ聞いてない! 二人も星見に行ってたの!? 俺も行く! チクショ~なんだよお前ら、ロマンチストかよ! 青春しやがって!!」
リュゼは言いたいことだけ言うと、怒涛の速さでテントから出ていった。
「……ぷっ」
エチカが耐え切れずに笑い出し、僕もエチカに釣られて吹き出した。
僕は、笑いながら自分の寝袋をエチカの横に広げた。四人用のテントだが、男が四人で寝るにはせまく、詰めなくてはならない。
僕は寝袋に入るとすぐに目を閉じた。昨日はハプニングがあったので、今日が初めての寝袋だ。寝心地は全然良くないけど、二日間の疲れもあってかすぐに意識が落ちていった。
13
お気に入りに追加
405
あなたにおすすめの小説

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話
屑籠
BL
サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。
彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。
そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。
さらっと読めるようなそんな感じの短編です。

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。


新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**

僕はお別れしたつもりでした
まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!!
親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
大晦日あたりに出そうと思ったお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる