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2年生
たしなむ程度には絵が好き
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小屋から帰った僕とセオリアスは保健医の先生に身体を見てもらい、異常無しとの事だったので、それぞれの班に復帰した。
林間学校2日目は、山の中を散策する。バーバリア学園の生徒が散策をするためのコースがいくつか用意されており、班ごとにコースを選んで進んでいく。
学校に戻ったら散策で学んだことについてプレゼンをするので、真面目にやらなければならない。
僕たちは滝の前を通るコースを選択した。プレゼンの内容は、この滝について感じたことを神学の観点から述べる、というものだ。
スタート地点から20分ほど歩くと、荘厳な雰囲気を醸している滝が現れた。
「あー涼しい」
エチカが汗を拭いながら言った。
「この滝の絵を描けばいいんだよな?」
「うん。グラン絵上手いっしょ? よろしく!」
「グラン、頼んだ!」
リュゼとエチカはそう言い、さっさと日陰に避難する。グランが絵が得意だというのは初めて知った。
「いやお前らな……はあ」
グランが鞄からスケッチブックを取り出す。僕は、グランを一人にするのが若干気まずいという気持ちと、グランの絵に興味があったので、その場に残ることにした。
「グラン、絵好きなの?」
「たしなむ程度には。マリス、丁度いいから手伝ってくれ」
「うん。何すればいい?」
「絵の具を取ってくれ」
(け、結構本格的だな)
グランの鞄から絵の具を取り出す。グランは鉛筆で下書きを書いた後、絵の具で色を塗り始めた。
僕はグランから指示された絵の具を渡し、使い終わった絵の具をしまう作業をする。
「そういえばマリス。昨日は災難だったな」
グランは絵を描く手を止めずに言う。
「崖から落ちたときは死ぬかと思ったけど、かすり傷だってさ」
「なら良かったよ。セオが血相変えて助けに行ってたからさ……なあ、お前らってほんとに恋仲じゃねえの?」
「え!? いや、恋人とかじゃないよ。第一僕、フィオ……ネ様の許嫁だよ? 婚約してるのに恋仲って、浮気じゃん」
「ん? なんだ今の間? まあ許嫁がいるのに恋人作るのはよくないかもしれないけどさ、マリスの場合は政略結婚だろ? 今の時代、貴族も自由恋愛が主流だぜ」
「グラン……なんでそんな僕の事情に詳しいの?」
グランの絵を覗けば、8割ほど完成していた。もう仕上げの段階だ。グランはペタペタと筆で色を塗っている。
「前にも言ったけどさ、俺、お前のこと結構知ってるんだよ」
「僕たち、どこかで前に会ったことある?」
「いや、俺が一方的に知ってるんだ」
「えっと、それは……グランが僕のストーカーだったって宣言……?」
「は? ハハッ、あはははっ! たしかに、今の言い方はそうなるよな。ククッ」
グランが手を止めて大笑いをする。僕はますますわからなくなった。
「俺さ、実はフィオーネの弟なんだ」
「え? ええええ!? う、嘘でしょ!?」
手に持っていた絵の具を落としそうになった。グランは照れ臭そうにはにかむ。
「本当だよ。俺、第二王子なんだ」
「だ、第二王子……」
たしかに、グランの名字は今まで聞いたことがなかったけど、まさか王子だったとは。グランが王族……。改めてグランの顔を見る。この国では珍しい赤髪に、燃えるような赤い瞳。グランの顔は美しいが、フィオーネと似ている印象は無い。
「俺だけ母親が違うからさ、ずっと離れに隠されてたんだ。マリス、昔は毎週お茶会に来てただろ? 外で遊んでいるとき、たまにマリスを見かけてたんだ」
滝の絵が完成したので、二人で片付け作業に入る。
王宮パーティーのときも、毎年第二王子は欠席だった。しかし、王族は愛人を作っても何も問題ないはずだ。どうしてグランの存在を隠したがるのだろう。
「俺は、マリスにだから言ったんだ。俺が第二王子だってこと、誰にも言わないでもらえると助かる」
「もちろん言わないよ。話してくれてありがとう」
「こちらこそ。マリスのおかげで絵が捗ったよ」
グランは冗談めかしに言った。
鞄を持ち、リュゼとエチカのいる日陰へと向かう。ふと、グランが足を止めた。
「……マリス。フィオーネと結婚したくないなら、しない方がいい。一度王宮に入ったら、簡単には出られないから」
「簡単には出られない?」
「ああ。俺の母もそうだった」
グランの顔が強張る。現王も王妃も殿下たちも皆金髪青目だから、グランの赤髪赤目は母親譲りなのだろう。
「グランの母君は、その……」
「俺の母は……」
グランはそこで言葉を止めた。地面に視線をやるグランの横顔に陰る寂しさが痛ましく、僕はこれ以上聞くことができなかった。
エチカとリュゼは滝から少し離れた木陰で休憩していた。僕たちが来たことに気づくと、鞄を持って立ち上がった。
「お疲れ~! 良い絵は描けた?」
「ああ。マリスが居てくれたから捗ったわ」
グランが僕の方をチラッと見て、ニッと微笑む。僕は雑用しかしてないんだけど、さすがは王族。気遣いがロイヤル級だ。
「お前らも、まさか涼しいところで休憩だけしてたわけじゃないよな?」
「も、もちろん! ぼくたちもプレゼンの原稿を考えてたよ。ね、リュゼ!」
「う、うん! 概要をね」
「概要?」
エチカとリュゼが顔を合わせて返事をする。グランはジト目で二人の様子を見ていた。
昼食休憩を取った後、コースの散策を再開する。あっという間にコースを抜け、ゴールまで到着した。僕たちの班は3着で、そこそこ早くゴールできたようだ。
すべての班が到着するまでは自由行動なので、僕はテントの中で寝っ転がって時間を過ごした。
林間学校2日目は、山の中を散策する。バーバリア学園の生徒が散策をするためのコースがいくつか用意されており、班ごとにコースを選んで進んでいく。
学校に戻ったら散策で学んだことについてプレゼンをするので、真面目にやらなければならない。
僕たちは滝の前を通るコースを選択した。プレゼンの内容は、この滝について感じたことを神学の観点から述べる、というものだ。
スタート地点から20分ほど歩くと、荘厳な雰囲気を醸している滝が現れた。
「あー涼しい」
エチカが汗を拭いながら言った。
「この滝の絵を描けばいいんだよな?」
「うん。グラン絵上手いっしょ? よろしく!」
「グラン、頼んだ!」
リュゼとエチカはそう言い、さっさと日陰に避難する。グランが絵が得意だというのは初めて知った。
「いやお前らな……はあ」
グランが鞄からスケッチブックを取り出す。僕は、グランを一人にするのが若干気まずいという気持ちと、グランの絵に興味があったので、その場に残ることにした。
「グラン、絵好きなの?」
「たしなむ程度には。マリス、丁度いいから手伝ってくれ」
「うん。何すればいい?」
「絵の具を取ってくれ」
(け、結構本格的だな)
グランの鞄から絵の具を取り出す。グランは鉛筆で下書きを書いた後、絵の具で色を塗り始めた。
僕はグランから指示された絵の具を渡し、使い終わった絵の具をしまう作業をする。
「そういえばマリス。昨日は災難だったな」
グランは絵を描く手を止めずに言う。
「崖から落ちたときは死ぬかと思ったけど、かすり傷だってさ」
「なら良かったよ。セオが血相変えて助けに行ってたからさ……なあ、お前らってほんとに恋仲じゃねえの?」
「え!? いや、恋人とかじゃないよ。第一僕、フィオ……ネ様の許嫁だよ? 婚約してるのに恋仲って、浮気じゃん」
「ん? なんだ今の間? まあ許嫁がいるのに恋人作るのはよくないかもしれないけどさ、マリスの場合は政略結婚だろ? 今の時代、貴族も自由恋愛が主流だぜ」
「グラン……なんでそんな僕の事情に詳しいの?」
グランの絵を覗けば、8割ほど完成していた。もう仕上げの段階だ。グランはペタペタと筆で色を塗っている。
「前にも言ったけどさ、俺、お前のこと結構知ってるんだよ」
「僕たち、どこかで前に会ったことある?」
「いや、俺が一方的に知ってるんだ」
「えっと、それは……グランが僕のストーカーだったって宣言……?」
「は? ハハッ、あはははっ! たしかに、今の言い方はそうなるよな。ククッ」
グランが手を止めて大笑いをする。僕はますますわからなくなった。
「俺さ、実はフィオーネの弟なんだ」
「え? ええええ!? う、嘘でしょ!?」
手に持っていた絵の具を落としそうになった。グランは照れ臭そうにはにかむ。
「本当だよ。俺、第二王子なんだ」
「だ、第二王子……」
たしかに、グランの名字は今まで聞いたことがなかったけど、まさか王子だったとは。グランが王族……。改めてグランの顔を見る。この国では珍しい赤髪に、燃えるような赤い瞳。グランの顔は美しいが、フィオーネと似ている印象は無い。
「俺だけ母親が違うからさ、ずっと離れに隠されてたんだ。マリス、昔は毎週お茶会に来てただろ? 外で遊んでいるとき、たまにマリスを見かけてたんだ」
滝の絵が完成したので、二人で片付け作業に入る。
王宮パーティーのときも、毎年第二王子は欠席だった。しかし、王族は愛人を作っても何も問題ないはずだ。どうしてグランの存在を隠したがるのだろう。
「俺は、マリスにだから言ったんだ。俺が第二王子だってこと、誰にも言わないでもらえると助かる」
「もちろん言わないよ。話してくれてありがとう」
「こちらこそ。マリスのおかげで絵が捗ったよ」
グランは冗談めかしに言った。
鞄を持ち、リュゼとエチカのいる日陰へと向かう。ふと、グランが足を止めた。
「……マリス。フィオーネと結婚したくないなら、しない方がいい。一度王宮に入ったら、簡単には出られないから」
「簡単には出られない?」
「ああ。俺の母もそうだった」
グランの顔が強張る。現王も王妃も殿下たちも皆金髪青目だから、グランの赤髪赤目は母親譲りなのだろう。
「グランの母君は、その……」
「俺の母は……」
グランはそこで言葉を止めた。地面に視線をやるグランの横顔に陰る寂しさが痛ましく、僕はこれ以上聞くことができなかった。
エチカとリュゼは滝から少し離れた木陰で休憩していた。僕たちが来たことに気づくと、鞄を持って立ち上がった。
「お疲れ~! 良い絵は描けた?」
「ああ。マリスが居てくれたから捗ったわ」
グランが僕の方をチラッと見て、ニッと微笑む。僕は雑用しかしてないんだけど、さすがは王族。気遣いがロイヤル級だ。
「お前らも、まさか涼しいところで休憩だけしてたわけじゃないよな?」
「も、もちろん! ぼくたちもプレゼンの原稿を考えてたよ。ね、リュゼ!」
「う、うん! 概要をね」
「概要?」
エチカとリュゼが顔を合わせて返事をする。グランはジト目で二人の様子を見ていた。
昼食休憩を取った後、コースの散策を再開する。あっという間にコースを抜け、ゴールまで到着した。僕たちの班は3着で、そこそこ早くゴールできたようだ。
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