転生した悪役令息は破滅エンドをなかなか回避できない

ハバーシャム

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2年生

どうしてセオリアス?

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 いつの間に眠っていたようで、埃臭さに目が覚めた。背中の部分が硬くて痛い。

「ぅ……」

 体を動かそうとすると関節が痛む。目を開ければ、見慣れない木製の天井があった。

(あれ……?)

 軋む体に鞭を打ちながら上半身を起こす。ぱら、とブランケットが僕の足に落ちた。

「おはよ」

 声の主はセオリアスだった。

「あれ、え、な、なんで……?」

 セオリアスは、椅子に腰掛けて机に肘を起き、頬杖を突いて僕を見下ろしている。

(ここ、どこだろう)

 首を動かすと痛むので、視線だけを動かして状況を確認する。どうやらここは小屋の中のようだ。僕が寝かされていたのは簡素なベッドだった。
 他にも、セオリアスが座っている椅子と机、入り口から左手に小さなキッチンなど、簡単な家具が備え付けられている。

「キャンプファイヤーを片していたら、ずぶ濡れになったエチカが走ってきて、お前が崖から落ちたって騒いでたんだ。幸い崖は浅かったから、俺が下に降りてお前を近くの小屋に運ぶことになった。この小屋の場所を教えてくれたのはアンドレアで、明るくなったら来てくれるらしいから、それまでここで待機してろとのことだ」

 セオリアスが淡々と説明をする。

「あ、そ、そうだったんだ。運んでくれてありがとう」
「それで、体調は?」
「体がちょっとだけ痛むけど、大丈夫だよ」
「そうか。それじゃあもういいな」

 そう言うと、セオリアスは部屋の電気を消した。ぱっと部屋が暗くなり、ベッドランプだけが光を灯している。
 セオリアスが電気を消すまでベッドランプが点いていることに気が付かなかった。

「おい、もう少し奥に詰めろ」

 セオリアスに言われるがまま壁側に寄る。セオリアスは、そのまま当たり前のようにベッドに潜り込んできた。

「え!?」
「なんだよ、仕方ねえだろベッドは1つしか無いんだから。悪いが、今日は俺も疲れてるんだ。横にならせてくれ」
「い、いや、びっくりしただけだから! 疲れてるのにごめん。スペースは狭くない?」
「ああ、問題ない。お前がチビで助かった」
「なっ……! 一言余計っ!」

 すぐ隣から、くっ、と笑い声が漏れる。僕は、ベッドランプの明かりを消して、起こしていた上半身を再びベッドに預けた。
 しかし、先ほどまで寝ていたからか、横になっても眠気が来る気配がなかった。

 1分も経たないうちに、隣から規則的な寝息が聞こえてくる。

 しばらく寝息を聞いていると、セオリアスが呻き声を上げ始めた。

「セオリアス……?」

 返事は無い。夢を見ているのだろうか。段々と呼吸も荒くなっている。顔を覗くと、セオリアスは眉間に皺をよせ、額からは汗が滲み出ていた。

「セ、セオリアス? セオ!」
「あ゛……?」

 心配になって、セオリアスの身体を揺すると、セオリアスはすぐに目を覚ました。
 ベッドランプの明かりを点ける。

「す、すごく魘されてたけど……」
「あ? ……あぁ……」
「大丈夫?」
「あー……いや、大丈夫じゃねえかも」

 セオリアスは一度ベッドから起き上がり、コップに水を入れて飲んだ。それからベッドサイドに腰掛けたので、僕も起きてセオリアスの隣に座った。

「怖い夢でも見た?」

 僕の問いかけに、セオリアスがビクッと体を揺らす。

「……ここ最近、繰り返し同じ夢を見るんだ。繰り返し、お前が死ぬ夢」
「え」
「でも、よく思い返してみると、少しだけ夢の内容が違う。最後にお前が死ぬのは同じなんだけど、細かいところが違う……」
「僕が死ぬ、夢」

 そういえば、昨年リュゼが魘されていたときも、僕が死ぬ夢を見ていたような……。

(予知夢なのか……? でも、どうしてセオリアスが……?)

 僕が考え事をしている横で、セオリアスも夢の事を考えていたらしい。何やらぶつぶつと声を漏らしていた。

「……もしかして、これ、記憶か……? ……俺は……過去に……っ、ぐ、ぁ、あぁっ!?」
「セオリアス!?」

 セオリアスが突然頭を抱え始めた。頭痛が酷いのか、自身の髪を握る手に物凄い力が入っている。

「が、はぁっ……はぁっ……なんだよこれ、きお、く、が……あ、ぁ、あ、」

 限界まで見開かれたセオリアスの目からは涙がボロボロと溢れ、開きっぱなしの口から涎が零れる。

「セオっ、セオリアス、落ち着いて!!」

 僕は苦しんでいるセオリアスの背中を必死にさすることしかできなかった。

(どうしよう、どうしよう!! なんかの病気!? もしかして、崖から降りたときに頭を強く打ったとか!? どうしよう、このままセオが死んじゃったら……!!)

「はぁ、はぁ……はっ……、……」

 段々とセオリアスの呼吸が落ち着いてくる。頭を抱えている彼の手の力も弱まっていった。

「だ、大丈夫!?」
「あぁ……マリス……やべぇよ……俺……」
「セオ……?」
「マリス、俺……」

 セオリアスが顔を上げる。彼の顔色は真っ青で、今にも死にそうに見えた。

「マリス……、信じられないかもしれねえけど……」

 セオリアスの虚ろな視線が僕を捉える。

「せ、セオ?」
「この世界、何回もループしてる……」
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