50 / 120
2年生
林間学校1日目
しおりを挟む
林間学校の朝は早い。朝日が昇る前に馬車へ乗り込み、王都を抜けて山を登る。林間学校のメンバーはバーバリア学園の生徒の他に、学年主任のアスムベルク先生と副主任の先生、保険医の先生、学校に勤めている王宮騎士に、カミールの護衛だ。
馬車に乗ること2時間半。休憩を挟んでもう1時間経ったところで、ようやく目的地に到着する。
早起きして馬車に揺られた僕たちは既にへとへとだった。昼休憩を挟み、班に分かれてテントの設営をする。今日はこれで終了だ。夜のキャンプファイヤーまで自由時間である。
「あぁもう、疲れた! なんで俺がこんなことしなくちゃならないんだよ!」
無事テント設営が終わり、グランが地面に寝転ぶ。グランは僕たちの班の中で最も体格が良いので、一番働いてもらったのだった。
僕はせめてもの労いに、グランに水を差しだした。
「サンキュ」
汚れてもいい服を着ているとはいえ地面に腰を下ろすのは抵抗があったが、グランが寝転んでいる横に腰を下ろすことにした。
「エチカとリュゼが、設営完了の報告に行ってくれてるから、帰ってきたらみんなで森林浴しよう」
「森林浴?」
「うん、森林浴。とっても癒されるんだよ」
「あー、そうか。お前ん家森の奥だもんな」
グランが上半身を起こして水を飲んだ。太陽の光に反射して、グランの赤い髪がキラキラと光る。そういえば、赤い髪は貴族の中では珍しい気がする。
「グラン、僕の家知ってるの?」
「まぁな。お前は俺のことを知らないんだろうけど、俺はお前のこと結構知ってるんだぜ?」
「え、それって――」
「おーい! 報告行ってきたよ!」
エチカたちが戻ってきて、僕たちの会話は強制終了となった。僕たちは日が暮れるまで森林浴をして、夕飯前には集合場所に集まった。
夜ご飯は、キャンプファイヤーを囲みながらみんなでカレーを食べる。カレーは先生が作ってくれるもので、日本で食べた懐かしい味を思い出した。
キャンプファイヤーを囲い、歌を歌ったり静かに暖まったりとそれぞれ好きなように過ごしている。僕は一足先にキャンプファイヤーから抜けて、テントから少し離れたところにある崖の上まで来た。
崖といっても整備されており、落下防止のために柵を付けられている。僕は柵に腕を乗せて、しばらく月を眺めていた。
後ろから足音が聞こえ、振り返るとエチカが居た。
「ここ、ゲームでマリスに突き落とされる崖なんだ」
エチカが僕の隣に来て、月を見上げながら言った。
「ぼく、こんなに楽しい林間学校は初めてだよ。君のおかげだ」
エチカは目線を月に向けたまま微笑んだ。エチカの髪が、ふわりと風に揺られる。
「何だよ、急に改まってさ……。僕も、今日の林間学校楽しかった。来てよかったよ」
「そっか、良かった。マリス、ぼくね、マリスはこのまま無事に卒業できそうな予感がするんだ。もう、ハッピーエンドのルートに入ってるんじゃないかってさ」
エチカの大きな瞳が僕を捉える。エチカの瞳に映る僕の顔は、浮かない表情をしていた。
「僕は正直、不安しかないよ……」
「マリス、大丈夫だよ。このままいけば、君が死ぬエンドは回避できるよ」
「死ぬエンドね……そうかもしれない。でも僕、このままフィオーネに飼い殺しにされるなんて、嫌だよ……」
「マリス……?」
思い出したくない王宮パーティーでの記憶が甦る。僕は気持ちを切り替えようと、作り笑いを浮かべた。
「なーんてねっ。フィオーネと円満に婚約解消ができたらもっといいんだけどさ」
「あー、そっか。マリス、セオと付き合ってるんだもんね」
「え、なっ……! げほっ、けほっ!」
エチカの突然の発言に、飲み込もうとした唾が変なところに入った。
「ちょっと、大丈……うおっ!?」
エチカが僕の方に近づこうと一歩足を動かしたその時、エチカの足元にある崖が崩れ始めた。
小さな衝撃に、脆かった部分が崩れたのだろう。
「エチカッ!!」
考える前に、僕はエチカの腕を思いっきり上に引っ張った。その反動で体勢が崩れ、バランスを保とうと足に力を入れたら足が滑った。
「うわぁぁっ!!」
「マリス!!」
世界がひっくり返り、スローモーションになる。エチカの手が間に合わず、僕は背中から思いっきり落ちた。
「かはっ……!」
背中を思い切りぶつけて息が詰まった。全身がズキズキと痛んで、段々意識も朦朧としてくる。
「……こ、こんなはずじゃ……」
遠くでエチカの声が聞こえる。ぽつ、ぽつ、と冷たい雫が僕の頬を伝った。雨が降ってきたのかもしれない。
「マリスっ、先生呼んでくるから、もう少し待ってて!!!」
遠くでエチカが何かを叫んでいる。僕の意識はここで途切れた。
馬車に乗ること2時間半。休憩を挟んでもう1時間経ったところで、ようやく目的地に到着する。
早起きして馬車に揺られた僕たちは既にへとへとだった。昼休憩を挟み、班に分かれてテントの設営をする。今日はこれで終了だ。夜のキャンプファイヤーまで自由時間である。
「あぁもう、疲れた! なんで俺がこんなことしなくちゃならないんだよ!」
無事テント設営が終わり、グランが地面に寝転ぶ。グランは僕たちの班の中で最も体格が良いので、一番働いてもらったのだった。
僕はせめてもの労いに、グランに水を差しだした。
「サンキュ」
汚れてもいい服を着ているとはいえ地面に腰を下ろすのは抵抗があったが、グランが寝転んでいる横に腰を下ろすことにした。
「エチカとリュゼが、設営完了の報告に行ってくれてるから、帰ってきたらみんなで森林浴しよう」
「森林浴?」
「うん、森林浴。とっても癒されるんだよ」
「あー、そうか。お前ん家森の奥だもんな」
グランが上半身を起こして水を飲んだ。太陽の光に反射して、グランの赤い髪がキラキラと光る。そういえば、赤い髪は貴族の中では珍しい気がする。
「グラン、僕の家知ってるの?」
「まぁな。お前は俺のことを知らないんだろうけど、俺はお前のこと結構知ってるんだぜ?」
「え、それって――」
「おーい! 報告行ってきたよ!」
エチカたちが戻ってきて、僕たちの会話は強制終了となった。僕たちは日が暮れるまで森林浴をして、夕飯前には集合場所に集まった。
夜ご飯は、キャンプファイヤーを囲みながらみんなでカレーを食べる。カレーは先生が作ってくれるもので、日本で食べた懐かしい味を思い出した。
キャンプファイヤーを囲い、歌を歌ったり静かに暖まったりとそれぞれ好きなように過ごしている。僕は一足先にキャンプファイヤーから抜けて、テントから少し離れたところにある崖の上まで来た。
崖といっても整備されており、落下防止のために柵を付けられている。僕は柵に腕を乗せて、しばらく月を眺めていた。
後ろから足音が聞こえ、振り返るとエチカが居た。
「ここ、ゲームでマリスに突き落とされる崖なんだ」
エチカが僕の隣に来て、月を見上げながら言った。
「ぼく、こんなに楽しい林間学校は初めてだよ。君のおかげだ」
エチカは目線を月に向けたまま微笑んだ。エチカの髪が、ふわりと風に揺られる。
「何だよ、急に改まってさ……。僕も、今日の林間学校楽しかった。来てよかったよ」
「そっか、良かった。マリス、ぼくね、マリスはこのまま無事に卒業できそうな予感がするんだ。もう、ハッピーエンドのルートに入ってるんじゃないかってさ」
エチカの大きな瞳が僕を捉える。エチカの瞳に映る僕の顔は、浮かない表情をしていた。
「僕は正直、不安しかないよ……」
「マリス、大丈夫だよ。このままいけば、君が死ぬエンドは回避できるよ」
「死ぬエンドね……そうかもしれない。でも僕、このままフィオーネに飼い殺しにされるなんて、嫌だよ……」
「マリス……?」
思い出したくない王宮パーティーでの記憶が甦る。僕は気持ちを切り替えようと、作り笑いを浮かべた。
「なーんてねっ。フィオーネと円満に婚約解消ができたらもっといいんだけどさ」
「あー、そっか。マリス、セオと付き合ってるんだもんね」
「え、なっ……! げほっ、けほっ!」
エチカの突然の発言に、飲み込もうとした唾が変なところに入った。
「ちょっと、大丈……うおっ!?」
エチカが僕の方に近づこうと一歩足を動かしたその時、エチカの足元にある崖が崩れ始めた。
小さな衝撃に、脆かった部分が崩れたのだろう。
「エチカッ!!」
考える前に、僕はエチカの腕を思いっきり上に引っ張った。その反動で体勢が崩れ、バランスを保とうと足に力を入れたら足が滑った。
「うわぁぁっ!!」
「マリス!!」
世界がひっくり返り、スローモーションになる。エチカの手が間に合わず、僕は背中から思いっきり落ちた。
「かはっ……!」
背中を思い切りぶつけて息が詰まった。全身がズキズキと痛んで、段々意識も朦朧としてくる。
「……こ、こんなはずじゃ……」
遠くでエチカの声が聞こえる。ぽつ、ぽつ、と冷たい雫が僕の頬を伝った。雨が降ってきたのかもしれない。
「マリスっ、先生呼んでくるから、もう少し待ってて!!!」
遠くでエチカが何かを叫んでいる。僕の意識はここで途切れた。
16
お気に入りに追加
404
あなたにおすすめの小説
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる