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2年生
楽しみ
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王宮でのパーティーから5日ほど経ったが、僕は部屋から出られなくなった。
自室からリビングまでは出られる。しかし、廊下に出るのが怖くなってしまった。
リュゼに心配をかけたくないし、カミールのことも気に掛かったが、どうしても外に出るのが怖い。
それに、あの日から毎日のようにフィオーネとの過去が夢に出る。フィオーネにされた様々なことが、鮮明に思い出された。
僕が今までフィオーネにドキドキしていたのは、好きだからじゃなくて、怖いからだったのだ。
マリスは、夢を通して僕に過去を見せてくれているのだろうか。それとも、以前エチカが体育館倉庫で言っていたように、魂が安定してきて、よりマリスの深層心理が見えてきたのだろうか。
どちらなのか僕には分かりかねないが、とりあえず分かったのは、マリスはフィオーネが好きじゃないってこと。
それと、カウントダウンパーティーあたりから、セオリアスが僕に優しくなった気がすること。
王宮パーティーは最悪だったけど、セオリアスと一緒に踊った数分間は、最高に幸せだった。
(僕は、もしかしたら……)
布団の中で、ぶんぶんと顔を横に振る。喉が渇いてきたので、お茶を飲もうとベッドから起き上がってリビングに出た。
「あ、マリス! たっだいま~!」
「リュゼ、おかえりなさい」
リビングに出たと同時にリュゼが部屋に入ってきた。
「マリス!! 体調はどう!?」
リュゼの後ろからひょっこりとエチカが出てきた。
「あ、エチカ。体調は大丈夫だよ。心配かけたならごめん」
「そっか。元気そうで良かったよ」
「エチカ、カミールは大丈夫そう?」
僕は3人分の紅茶を用意し、リュゼとエチカに向き合って座った。
「あはは、カミールはなんとか頑張ってるよ。そんなに心配なら早く授業に出なよ」
「うん……そうだよね」
「マリスが言いたくないなら何があったかは聞かないよ。でも、何があってもぼくたちはマリスの味方だからね」
「うん、ありがとうエチカ」
「今日エチカが来てくれたのはね、これを渡すためなんだよ」
リュゼが明るい声で言った。エチカは鞄から冊子を取り出し、僕に差し出した。
「ありがとう……何これ。しおり?」
「そうそう。ほら、もうすぐ林間学校があるでしょ?」
「ああっ、林間学校!!」
林間学校はゲームにもあるイベントだ。最近衝撃的なことが多すぎて、すっかり忘れていた。
「え、なになに。マリス、林間学校のこと知ってたの? 説明会今日だったのに」
僕の様子をリュゼが不思議がる。
(やべっ、つい出ちゃった)
「あ、えっと……年間行事は把握するタイプなんだ、僕」
「へえ~、マリスってば真面目だね」
「真面目っていうか、心配性なんだよね」
なんとか誤魔化せたようだ。エチカは優雅に紅茶を飲みながらニマニマと僕の様子を見ていた。
「林間学校は来週で、2泊3日だよ。1班4人でキャンプをするんだ。班はぼくとグランとリュゼとマリスにしといたから!」
エチカが簡単に説明してくれた。林間学校の目的は、災害などの予期せぬ事態のために、野宿の練習をすることだ。
野宿の練習がメインなので、2日間山で遊ぶことができる。修学旅行や勉強の息抜きも兼ねているのだろう。
「1日目の夜はキャンプファイヤーだって! 楽しみだなぁ」
貴族は自分で火を起こす機会など滅多に無い。そのためか、リュゼはとても楽しそうだった。
林間学校では、1日目のキャンプファイヤーで誰と過ごすかを選ぶことができて、その人の好感度を上げることができた。
フィオーネを選んだ場合、エチカの妄想の中でフィオーネと炎を囲むという中々ヤバいイベントでもある。
問題はその後で、キャンプファイヤーの後マリスがエチカを崖から突き落とす展開がある。
崖はそんなに高く無く、好感度の高いキャラが助けに来てくれる。フィオーネが一番高い場合、たまたま山を通りかかったフィオーネが助けに来る。
たまたま山を通りかかる状況なんて意味がわからないけど、その無理矢理感が僕にはツボだった。
「マリスってばニヤニヤして、そんなに楽しみなの~?」
リュゼが揶揄い口調で言う。その言葉にエチカが吹き出して、僕は顔が熱くなった。
「ちがっ……いいじゃん、楽しみでも!」
「あはははっ! 俺も超楽しみだよ!」
「マリスってばめっちゃ可愛い~!!」
「もー! からかわないでよ! ……でも、2人のおかげでなんか元気出たかも。僕、明日からまた頑張って授業出るよ」
「ほんと!? 嬉しい! カミールもきっと喜ぶよ!」
自室からリビングまでは出られる。しかし、廊下に出るのが怖くなってしまった。
リュゼに心配をかけたくないし、カミールのことも気に掛かったが、どうしても外に出るのが怖い。
それに、あの日から毎日のようにフィオーネとの過去が夢に出る。フィオーネにされた様々なことが、鮮明に思い出された。
僕が今までフィオーネにドキドキしていたのは、好きだからじゃなくて、怖いからだったのだ。
マリスは、夢を通して僕に過去を見せてくれているのだろうか。それとも、以前エチカが体育館倉庫で言っていたように、魂が安定してきて、よりマリスの深層心理が見えてきたのだろうか。
どちらなのか僕には分かりかねないが、とりあえず分かったのは、マリスはフィオーネが好きじゃないってこと。
それと、カウントダウンパーティーあたりから、セオリアスが僕に優しくなった気がすること。
王宮パーティーは最悪だったけど、セオリアスと一緒に踊った数分間は、最高に幸せだった。
(僕は、もしかしたら……)
布団の中で、ぶんぶんと顔を横に振る。喉が渇いてきたので、お茶を飲もうとベッドから起き上がってリビングに出た。
「あ、マリス! たっだいま~!」
「リュゼ、おかえりなさい」
リビングに出たと同時にリュゼが部屋に入ってきた。
「マリス!! 体調はどう!?」
リュゼの後ろからひょっこりとエチカが出てきた。
「あ、エチカ。体調は大丈夫だよ。心配かけたならごめん」
「そっか。元気そうで良かったよ」
「エチカ、カミールは大丈夫そう?」
僕は3人分の紅茶を用意し、リュゼとエチカに向き合って座った。
「あはは、カミールはなんとか頑張ってるよ。そんなに心配なら早く授業に出なよ」
「うん……そうだよね」
「マリスが言いたくないなら何があったかは聞かないよ。でも、何があってもぼくたちはマリスの味方だからね」
「うん、ありがとうエチカ」
「今日エチカが来てくれたのはね、これを渡すためなんだよ」
リュゼが明るい声で言った。エチカは鞄から冊子を取り出し、僕に差し出した。
「ありがとう……何これ。しおり?」
「そうそう。ほら、もうすぐ林間学校があるでしょ?」
「ああっ、林間学校!!」
林間学校はゲームにもあるイベントだ。最近衝撃的なことが多すぎて、すっかり忘れていた。
「え、なになに。マリス、林間学校のこと知ってたの? 説明会今日だったのに」
僕の様子をリュゼが不思議がる。
(やべっ、つい出ちゃった)
「あ、えっと……年間行事は把握するタイプなんだ、僕」
「へえ~、マリスってば真面目だね」
「真面目っていうか、心配性なんだよね」
なんとか誤魔化せたようだ。エチカは優雅に紅茶を飲みながらニマニマと僕の様子を見ていた。
「林間学校は来週で、2泊3日だよ。1班4人でキャンプをするんだ。班はぼくとグランとリュゼとマリスにしといたから!」
エチカが簡単に説明してくれた。林間学校の目的は、災害などの予期せぬ事態のために、野宿の練習をすることだ。
野宿の練習がメインなので、2日間山で遊ぶことができる。修学旅行や勉強の息抜きも兼ねているのだろう。
「1日目の夜はキャンプファイヤーだって! 楽しみだなぁ」
貴族は自分で火を起こす機会など滅多に無い。そのためか、リュゼはとても楽しそうだった。
林間学校では、1日目のキャンプファイヤーで誰と過ごすかを選ぶことができて、その人の好感度を上げることができた。
フィオーネを選んだ場合、エチカの妄想の中でフィオーネと炎を囲むという中々ヤバいイベントでもある。
問題はその後で、キャンプファイヤーの後マリスがエチカを崖から突き落とす展開がある。
崖はそんなに高く無く、好感度の高いキャラが助けに来てくれる。フィオーネが一番高い場合、たまたま山を通りかかったフィオーネが助けに来る。
たまたま山を通りかかる状況なんて意味がわからないけど、その無理矢理感が僕にはツボだった。
「マリスってばニヤニヤして、そんなに楽しみなの~?」
リュゼが揶揄い口調で言う。その言葉にエチカが吹き出して、僕は顔が熱くなった。
「ちがっ……いいじゃん、楽しみでも!」
「あはははっ! 俺も超楽しみだよ!」
「マリスってばめっちゃ可愛い~!!」
「もー! からかわないでよ! ……でも、2人のおかげでなんか元気出たかも。僕、明日からまた頑張って授業出るよ」
「ほんと!? 嬉しい! カミールもきっと喜ぶよ!」
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