上 下
49 / 120
2年生

楽しみ

しおりを挟む
 王宮でのパーティーから5日ほど経ったが、僕は部屋から出られなくなった。
 自室からリビングまでは出られる。しかし、廊下に出るのが怖くなってしまった。
 リュゼに心配をかけたくないし、カミールのことも気に掛かったが、どうしても外に出るのが怖い。

 それに、あの日から毎日のようにフィオーネとの過去が夢に出る。フィオーネにされた様々なことが、鮮明に思い出された。

 僕が今までフィオーネにドキドキしていたのは、好きだからじゃなくて、怖いからだったのだ。

 マリスは、夢を通して僕に過去を見せてくれているのだろうか。それとも、以前エチカが体育館倉庫で言っていたように、魂が安定してきて、よりマリスの深層心理が見えてきたのだろうか。

 どちらなのか僕には分かりかねないが、とりあえず分かったのは、マリスはフィオーネが好きじゃないってこと。
 それと、カウントダウンパーティーあたりから、セオリアスが僕に優しくなった気がすること。

 王宮パーティーは最悪だったけど、セオリアスと一緒に踊った数分間は、最高に幸せだった。

(僕は、もしかしたら……)

 布団の中で、ぶんぶんと顔を横に振る。喉が渇いてきたので、お茶を飲もうとベッドから起き上がってリビングに出た。

「あ、マリス! たっだいま~!」
「リュゼ、おかえりなさい」

 リビングに出たと同時にリュゼが部屋に入ってきた。

「マリス!! 体調はどう!?」

 リュゼの後ろからひょっこりとエチカが出てきた。

「あ、エチカ。体調は大丈夫だよ。心配かけたならごめん」
「そっか。元気そうで良かったよ」
「エチカ、カミールは大丈夫そう?」

 僕は3人分の紅茶を用意し、リュゼとエチカに向き合って座った。

「あはは、カミールはなんとか頑張ってるよ。そんなに心配なら早く授業に出なよ」
「うん……そうだよね」
「マリスが言いたくないなら何があったかは聞かないよ。でも、何があってもぼくたちはマリスの味方だからね」
「うん、ありがとうエチカ」
「今日エチカが来てくれたのはね、これを渡すためなんだよ」

 リュゼが明るい声で言った。エチカは鞄から冊子を取り出し、僕に差し出した。

「ありがとう……何これ。しおり?」
「そうそう。ほら、もうすぐ林間学校があるでしょ?」
「ああっ、林間学校!!」

 林間学校はゲームにもあるイベントだ。最近衝撃的なことが多すぎて、すっかり忘れていた。

「え、なになに。マリス、林間学校のこと知ってたの? 説明会今日だったのに」

 僕の様子をリュゼが不思議がる。

(やべっ、つい出ちゃった)

「あ、えっと……年間行事は把握するタイプなんだ、僕」
「へえ~、マリスってば真面目だね」
「真面目っていうか、心配性なんだよね」

 なんとか誤魔化せたようだ。エチカは優雅に紅茶を飲みながらニマニマと僕の様子を見ていた。

「林間学校は来週で、2泊3日だよ。1班4人でキャンプをするんだ。班はぼくとグランとリュゼとマリスにしといたから!」

 エチカが簡単に説明してくれた。林間学校の目的は、災害などの予期せぬ事態のために、野宿の練習をすることだ。

 野宿の練習がメインなので、2日間山で遊ぶことができる。修学旅行や勉強の息抜きも兼ねているのだろう。

「1日目の夜はキャンプファイヤーだって! 楽しみだなぁ」

 貴族は自分で火を起こす機会など滅多に無い。そのためか、リュゼはとても楽しそうだった。

 林間学校では、1日目のキャンプファイヤーで誰と過ごすかを選ぶことができて、その人の好感度を上げることができた。
 フィオーネを選んだ場合、エチカの妄想の中でフィオーネと炎を囲むという中々ヤバいイベントでもある。

 問題はその後で、キャンプファイヤーの後マリスがエチカを崖から突き落とす展開がある。
 崖はそんなに高く無く、好感度の高いキャラが助けに来てくれる。フィオーネが一番高い場合、たまたま山を通りかかったフィオーネが助けに来る。
 たまたま山を通りかかる状況なんて意味がわからないけど、その無理矢理感が僕にはツボだった。

「マリスってばニヤニヤして、そんなに楽しみなの~?」

 リュゼが揶揄い口調で言う。その言葉にエチカが吹き出して、僕は顔が熱くなった。

「ちがっ……いいじゃん、楽しみでも!」
「あはははっ! 俺も超楽しみだよ!」
「マリスってばめっちゃ可愛い~!!」
「もー! からかわないでよ! ……でも、2人のおかげでなんか元気出たかも。僕、明日からまた頑張って授業出るよ」
「ほんと!? 嬉しい! カミールもきっと喜ぶよ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したらめちゃくちゃ嫌われてたけどMなので毎日楽しい

やこにく
BL
「穢らわしい!」「近づくな、この野郎!」「気持ち悪い」 異世界に転生したら、忌み人といわれて毎日罵られる有野 郁 (ありの ゆう)。 しかし、Mだから心無い言葉に興奮している! (美形に罵られるの・・・良い!) 美形だらけの異世界で忌み人として罵られ、冷たく扱われても逆に嬉しい主人公の話。騎士団が(嫌々)引き取 ることになるが、そこでも嫌われを悦ぶ。 主人公受け。攻めはちゃんとでてきます。(固定CPです) ドMな嫌われ異世界人受け×冷酷な副騎士団長攻めです。 初心者ですが、暖かく応援していただけると嬉しいです。

悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~

トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。 しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。 貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。 虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。 そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる? エブリスタにも掲載しています。

藤枝蕗は逃げている

木村木下
BL
七歳の誕生日を目前に控えたある日、蕗は異世界へ迷い込んでしまった。十五まで生き延びたものの、育ててくれた貴族の家が襲撃され、一人息子である赤ん坊を抱えて逃げることに。なんとか子供を守りつつ王都で暮らしていた。が、守った主人、ローランは年を経るごとに美しくなり、十六で成人を迎えるころには春の女神もかくやという美しさに育ってしまった。しかも、王家から「末姫さまの忘れ形見」と迎えまで来る。 美形王子ローラン×育て親異世界人蕗 ムーンライトノベルズ様でも投稿しています

猫が崇拝される人間の世界で猫獣人の俺って…

えの
BL
森の中に住む猫獣人ミルル。朝起きると知らない森の中に変わっていた。はて?でも気にしない!!のほほんと過ごしていると1人の少年に出会い…。中途半端かもしれませんが一応完結です。妊娠という言葉が出てきますが、妊娠はしません。

召喚されない神子と不機嫌な騎士

拓海のり
BL
気が付いたら異世界で、エルヴェという少年の身体に入っていたオレ。 神殿の神官見習いの身分はなかなかにハードだし、オレ付きの筈の護衛は素っ気ないけれど、チート能力で乗り切れるのか? ご都合主義、よくある話、軽めのゆるゆる設定です。なんちゃってファンタジー。他サイト様にも投稿しています。 男性だけの世界です。男性妊娠の表現があります。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

大魔法使いに生まれ変わったので森に引きこもります

かとらり。
BL
 前世でやっていたRPGの中ボスの大魔法使いに生まれ変わった僕。  勇者に倒されるのは嫌なので、大人しくアイテムを渡して帰ってもらい、塔に引きこもってセカンドライフを楽しむことにした。  風の噂で勇者が魔王を倒したことを聞いて安心していたら、森の中に小さな男の子が転がり込んでくる。  どうやらその子どもは勇者の子供らしく…

処理中です...