転生した悪役令息は破滅エンドをなかなか回避できない

ハバーシャム

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2年生

下手くそなダンス

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 僕は2階へ上がり、夜風にあたろうとバルコニーへ向かった。一応、昨年僕に迫ってきた変態ハルデマン卿がいないかを確認しておく。近くにはいないようだった。

 バルコニーの手すりに腕を乗せ、ほっと溜息をつく。夜風がふわりと頬を撫でた。不意にバルコニーの扉が開き、僕は体をこわばらせて振り向いた。

「……お前、学習しねえな」

 セオリアスが呆れたような口調で言い、こちらに向かってきた。セオリアスは手すりに背中を預けて寄りかかった。

「一応周りは確認したよ。ハルデマン卿はいなかったからいいかなって」
「アホか! アイツ以外にも変態はたくさんいるだろうが!」
「ふふ、心配してくれてありがとう」
「はあ? 別に……心配なんてしてねえけど」

 セオリアスは、ポケットに手を突っ込んで手すりに体重を預けた。

「ねえセオリアス……僕、もう、自分の気持ちがわからなくなってきたんだ」
「何だよ突然」

 僕は、腕に顔をうずめた。自分でも突然何を言ってるんだと思ったが、セオリアスを見ていたら無性に心の内を吐露したくなったのだ。

 フィオーネがどうして部屋に来いと言ったのか、僕はフィオーネの部屋に呼ばれて嬉しいのか、嫌なのか、ずっと頭の中でぐるぐるしている。
 僕はフィオーネと結婚をしたいのか、したくないのか、エチカに嫉妬するほどフィオーネが好きなのか、何とも思っていないのか、自分で自分の気持ちがわからない。

 フィオーネに部屋に来いと言われ、僕は行きたいのか、行きたくないのか、どちらが本当の自分の意思なのか、自分では判別できない。

「セオ……僕は……」

 鼻の奥がツンとし、目頭が熱くなる。僕の声も涙声になっていたかもしれない。ふわ、と頭に体重が乗る。セオリアスが僕の頭に手を置いたのだ。

 それからしばらく、セオリアスはただ黙って僕の髪を撫でていた。その手つきが優しくて、また鼻の奥がツンとしてきた。

(こんなときに、そんなことされたら、きっと僕は……)

 心臓がトクトクと鳴り、頬が熱くなっていく。僕は目から少し零れた涙を拭いて、顔を上げた。同時にセオリアスの手も離れてしまい、少しだけ頭が名残惜しい。

「体が冷えてきたから、そろそろパーティーに戻るよ」
「そうだな。俺も戻らねえと」

 僕たちはバルコニーを後にした。セオリアスの一歩後ろを歩く。

「ま、待って」

 考える前に手が動き、気づけばセオリアスの燕尾服を掴んでいた。もう一歩前に踏み出していたセオリアスは、少しだけ後ろにのけぞってから足を止め、ゆっくり僕の方を振り返った。

「ね、一曲だけ、一緒に踊らない?」

 僕の心臓がバクバクと早鐘を打つ。ダンスの正式な申し込み方法なんて忘れていた。

「いや……」

 セオリアスは一瞬だけ戸惑った顔をしていたが、すぐにいつもの顔に戻った。

「……いいぜ、踊ろう」
「え、ほんと――」
「ただし、あそこでなら」

 セオリアスの指さした方向には、さっきまでいたバルコニーの扉がある。

 僕たちはバルコニーに戻り、下からうっすら聞こえてくる音楽に合わせてステップを踏んだ。バルコニーは踊るには狭くて、僕は何度もセオリアスの足を踏んでしまった。
 その度に「下手くそ」と言われたが、セオリアスに足を踏まれたときは僕も負けじと言い返した。

 顔を上げてセオリアスを見ると、いつもの意地悪な笑みではなく、夢で見た幼少期のセオリアスのような、穏やかな微笑みを浮かべていた。
 僕はその美しい笑顔に目を奪われてしまい、気づいたら足が止まっていた。

「あ……わっ」

 ステップの左右がこんがらがってつんのめってしまい、セオリアスの胸に思い切りダイブしてしまう。

 セオリアスが僕の背中に手を回す。僕の鼓動とセオリアスの鼓動が混ざり合う。ハグをすると幸福ホルモンが出るとかなんとか聞いたことがあるが、たしかにそうかもしれないと思えた。

(僕……)

 セオリアスの胸からそっと離れる。曲は既に終わっていた。

「……そろそろ戻らねえとな」
「うん……」

 僕たちは今度こそホールの一階に戻った。セオリアスはカンテミール公爵家の嫡男ということもあり、いろんな人に話しかけに行っていた。

(僕、邪魔しちゃったかな……)

 パーティーはもう終盤に入っているので、僕も近くの人たちと談笑をしながらドリンクを飲み、パーティーが終わるのをひたすら待った。
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