転生した悪役令息は破滅エンドをなかなか回避できない

ハバーシャム

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2年生

カミールと一緒に

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 あっという間に4月になり、僕は2年生になった。2年からは大学みたいに自分の取りたい授業を選ぶことができる。

 カミール王子はシナリオの通り、留学生として転校してきた。カミールは、ディクショニア王国の隣にある、アリーという国からやってきた。

 僕はマヤさんからディクショニア王国の歴史や政治、文化などの授業を取るように言われており、留学生のカミールと同じ授業が多かった。

 僕は他に、発達心理学や教育学の授業を履修している。やっぱり子供が好きで、今世でも子供と関わる仕事がしたいからだ。そのためにも、フィオーネとは円満な形で婚約破棄してもらわないと。


「マリス、この授業が終わったら花摘みトイレに行きたい」
「うん、わかった」

 ディクショニア政治学の授業の途中で、カミールがこそっと言ってきた。

 カミールは隣国の王子だけど、呼び捨てタメ口にしてほしいと頼まれたので、その通りにしている。

 別に、異世界でも連れション文化があるのではない。単にカミールが方向音痴で、1人ではいつまで経ってもトイレに辿り着けないから僕がトイレまで案内しているのだ。

 カミールとは文化祭のときに一度顔を合わせているということもあり、一緒に行動することが多い。

 エチカはともかく、僕の顔も覚えていてくれたとは意外だった。僕の顔、そんなに記憶に残るインパクトがあるのかな。まあでも、マリスの顔、可愛いもんな。

 授業が終わり、カミールと共にトイレに向かう。

「いつも付き合わせてしまって申し訳ない」
「気にしないで。この学園広いからね」
「あ、マリスにカミール! やっほー」

 手洗い場で、個室から出てきたエチカと遭遇した。
 バーバリア学園の男子トイレには小便器はなく、すべて個室となっている。

「奇遇だね。二人とも同じ授業なの?」
「うん。僕たち授業がよく被るんだ」
「へえ、そうなんだ! なんか意外な組み合わせだね」

 エチカは丁寧に手を洗い、綺麗な白いハンカチで水滴を拭う。

「マリスにはいつも手洗い場まで案内してもらっているんだ。この学園の構造は複雑だな……早く覚えねば」
「ま、まあ学園は広いからね。それに、いくら護衛の方がいてくれるとはいえ、誰かと一緒に行動していた方が安心だし、覚えるのはゆっくりでいいんじゃないかな?」

 エチカは苦笑いを浮かべた。この学園はたしかに広いが、トイレは教室のあるフロアに一つは備えられているし、それに何よりわかりやすい位置にある。

 わかりやすい位置にあるトイレですら迷ってしまうカミールのことだ。単独行動をさせて万が一にも行方不明になってしまえば最悪国際問題だ。そう考えると、僕が毎回トイレを案内した方が安心安全なのである。

 僕たちはトイレを後にし、それぞれの次の教室まで一緒に歩く。1年のころ、セオリアスからエチカに接近禁止と言われていたが、もうすっかり無かったことになっている。

 2年に上がってから、セオリアスとはほとんど顔を合わせていない。あの意地悪でうざったい態度も、なくなってしまうと少しだけ寂しく感じる。
 セオリアスにキスされた頬が、少しだけ熱くなった。
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