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1年生
年末カウントダウンパーティー
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この日を皮切りに、僕は教室で孤立してしまった。エチカへの嫌がらせも続いていて、なぜかそれを僕の仕業にされている。
おそらくだが、僕を陥れたアイツらはフィオーネのガチ恋ファンだろう。
フィオーネと仲良くしているエチカに八つ当たりしつつ、フィオーネの婚約者である僕に嫌がらせをしているのだ。
アスムベルク伯爵令息の僕には直接攻撃ができないから、こうして陰湿な嫌がらせをしているのだ。
今の状態は、ゲームと同じ”エチカに嫌がらせをする悪役令息マリス”だ。唯一ゲームと違うのは、リュゼやエチカの態度である。リュゼとエチカ、それにグランは今まで通りの態度で接してくれた。
早くこの状況を何とかしなければならないが、クラスで孤立したまま冬休みを迎えてしまった。エチカへの嫌がらせもいまだに続いてしまっている。
今年は年末のパーティーに出なければならないので、実家に帰省していた。年末のパーティーとはカンテミール家主催のカウントダウンパーティーのことで、息子が同じ学校に通っているからということもあって招待されたらしい。
使用人に着替えさせられ、藍色の煌びやかな貴族服を纏う。入学してから一度も切っておらず肩まで伸びた髪をオイルで艶々にしてもらい、準備は万端だ。
カンテミール家の屋敷は王都の一角に聳えていて、豪華絢爛なその邸宅は威風堂々としている。
門の前に馬車を止め、父、兄、僕の順番で降りる。門から屋敷の前までカンテミール家の使用人たちがずらりと並び、僕たちを迎えてくれた。
(なんというか……すごく派手だな……)
カンテミール邸に向かう道中で、昔一度だけカンテミール家のパーティーに招待されたことがあると父に言われたが、実際に屋敷を見ても思い出せなかった。マリスが完全に忘れているのだろう。
扉の前にいた執事らしき男が恭しく頭を下げ、扉を開ける。
「アスムベルク伯爵に、ノエル様とマリス様ですね。ようこそお越しくださいました。こちらへどうぞ」
案内されたサロンには、すでにたくさんの人が集まっていた。毎年こんな感じなのだろうか。僕はどうしてもこういう集まりが苦手なので、すでに帰りたくなった。
父と兄が話かけられている隙をついて、僕は早々に安地である隅の方へと避難する。
カウントダウンの始まる時間まではサロンで談笑し、時間になったらホールへ移動して、その後はダンスをしたり軽食を楽しんだりといろいろだ。
「よお」
上の方から声がして、顔を上げると、そこには豪華な衣装を纏ったセオリアスが立っていた。白を基調としたベストとコートには金色の刺繍があしらわれており、セオリアスの銀色の髪が良く映える。
アクセサリーは派手過ぎず地味過ぎず、紺色のズボンはセオリアスの長い足を際立たせていた。
思わず見惚れてしまったが、すぐにはっと意識を戻した。
「あ、こんばんは……」
「はは、何だよその他人行儀な挨拶は」
そう言って、セオリアスはどかりと隣に座った。ふわりと香水の香りがする。プライベートのセオリアスは、なんだかとても大人っぽかった。
「お前ってこういうの苦手そうだよな」
「うん。苦手……」
いつもと違う雰囲気のセオリアスに緊張してしまう。そもそも僕たちは、二人で雑談が続くほど仲良くないのだった。人見知りが発動してしまい、僕は一人でそわそわしていた。
「……俺も」
少しの沈黙の後、セオリアスはそうつ呟いた。
「えっ?」
「俺もこういう、人がたくさん集まるパーティーは嫌いなんだ。正直だりいし」
「え……へ、へえ……そうなんだ。じゃあ大変そうだね。毎年やるんでしょ? このカウントダウンパーティー」
「ふっ、大変そうなんて初めて言われたわ。……なあ、マリス」
セオリアスが何かを言いかけたところで、執事らしき人がセオリアスの近くへやってきて、何かを耳打ちしていた。
セオリアスは軽く舌打ちをして立ちあがると、執事らしき人に「舌打ちはいけませんぞ!」と怒られながらサロンを出ていってしまった。
(何だったんだろ……?)
僕は、セオリアスがパーティーを苦手と打ち明けたことがじわじわきてしまい、ふふ、と口の中だけで笑った。
おそらくだが、僕を陥れたアイツらはフィオーネのガチ恋ファンだろう。
フィオーネと仲良くしているエチカに八つ当たりしつつ、フィオーネの婚約者である僕に嫌がらせをしているのだ。
アスムベルク伯爵令息の僕には直接攻撃ができないから、こうして陰湿な嫌がらせをしているのだ。
今の状態は、ゲームと同じ”エチカに嫌がらせをする悪役令息マリス”だ。唯一ゲームと違うのは、リュゼやエチカの態度である。リュゼとエチカ、それにグランは今まで通りの態度で接してくれた。
早くこの状況を何とかしなければならないが、クラスで孤立したまま冬休みを迎えてしまった。エチカへの嫌がらせもいまだに続いてしまっている。
今年は年末のパーティーに出なければならないので、実家に帰省していた。年末のパーティーとはカンテミール家主催のカウントダウンパーティーのことで、息子が同じ学校に通っているからということもあって招待されたらしい。
使用人に着替えさせられ、藍色の煌びやかな貴族服を纏う。入学してから一度も切っておらず肩まで伸びた髪をオイルで艶々にしてもらい、準備は万端だ。
カンテミール家の屋敷は王都の一角に聳えていて、豪華絢爛なその邸宅は威風堂々としている。
門の前に馬車を止め、父、兄、僕の順番で降りる。門から屋敷の前までカンテミール家の使用人たちがずらりと並び、僕たちを迎えてくれた。
(なんというか……すごく派手だな……)
カンテミール邸に向かう道中で、昔一度だけカンテミール家のパーティーに招待されたことがあると父に言われたが、実際に屋敷を見ても思い出せなかった。マリスが完全に忘れているのだろう。
扉の前にいた執事らしき男が恭しく頭を下げ、扉を開ける。
「アスムベルク伯爵に、ノエル様とマリス様ですね。ようこそお越しくださいました。こちらへどうぞ」
案内されたサロンには、すでにたくさんの人が集まっていた。毎年こんな感じなのだろうか。僕はどうしてもこういう集まりが苦手なので、すでに帰りたくなった。
父と兄が話かけられている隙をついて、僕は早々に安地である隅の方へと避難する。
カウントダウンの始まる時間まではサロンで談笑し、時間になったらホールへ移動して、その後はダンスをしたり軽食を楽しんだりといろいろだ。
「よお」
上の方から声がして、顔を上げると、そこには豪華な衣装を纏ったセオリアスが立っていた。白を基調としたベストとコートには金色の刺繍があしらわれており、セオリアスの銀色の髪が良く映える。
アクセサリーは派手過ぎず地味過ぎず、紺色のズボンはセオリアスの長い足を際立たせていた。
思わず見惚れてしまったが、すぐにはっと意識を戻した。
「あ、こんばんは……」
「はは、何だよその他人行儀な挨拶は」
そう言って、セオリアスはどかりと隣に座った。ふわりと香水の香りがする。プライベートのセオリアスは、なんだかとても大人っぽかった。
「お前ってこういうの苦手そうだよな」
「うん。苦手……」
いつもと違う雰囲気のセオリアスに緊張してしまう。そもそも僕たちは、二人で雑談が続くほど仲良くないのだった。人見知りが発動してしまい、僕は一人でそわそわしていた。
「……俺も」
少しの沈黙の後、セオリアスはそうつ呟いた。
「えっ?」
「俺もこういう、人がたくさん集まるパーティーは嫌いなんだ。正直だりいし」
「え……へ、へえ……そうなんだ。じゃあ大変そうだね。毎年やるんでしょ? このカウントダウンパーティー」
「ふっ、大変そうなんて初めて言われたわ。……なあ、マリス」
セオリアスが何かを言いかけたところで、執事らしき人がセオリアスの近くへやってきて、何かを耳打ちしていた。
セオリアスは軽く舌打ちをして立ちあがると、執事らしき人に「舌打ちはいけませんぞ!」と怒られながらサロンを出ていってしまった。
(何だったんだろ……?)
僕は、セオリアスがパーティーを苦手と打ち明けたことがじわじわきてしまい、ふふ、と口の中だけで笑った。
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