上 下
31 / 120
1年生

作戦失敗

しおりを挟む
 翌日。僕は朝食の後、段取り通り体育館倉庫へと向かった。

「あれ、エチカ……?」

 体育館倉庫の前に来たが、そこには誰の姿もない。

「おーい」

 呼びかけてみても返事が無いので、エチカを待ちがてら倉庫の扉の具合を確かめてみることにした。
 扉を開けようとしたら、鍵がかかっていた。

(あれ、セオリアスから鍵はかかってないって聞いたんだけど……)

 不審に思い、セオリアスからもらった鍵を使い扉を開ける。扉の先には、マットの上で寝転びくつろいでいるエチカの姿があった。

「あれえ、どうしたのマリス?」
「え、エチカこそなんでもういるの!? おかしいな、この倉庫って内鍵は無いはずなんだけど……」
「? マリスがさっきぼくを閉じ込めたんじゃん。演出凝っててビビった。マリスって意外と凝り性なんだね」
「え、なんのこ……うわっ!!」

 不意に勢いよく背中を押され、僕は思い切り倉庫の中へ入り膝をついた。

「邪魔してんじゃねえよ、バーカ!!」

 わけもわからないまま倉庫の扉を閉められ、鍵もかけられてしまう。僕とエチカは茫然と顔を見合わせた。

「え、誰……?」

 エチカがぽつりとつぶやく。僕を押したのは見知らぬ生徒らしい。エチカはマットから体を起こすと、扉に手をかけた。鍵のかかった扉はびくともしない。

「マリス……今朝、僕にこの手紙をくれた……?」

 エチカは扉から手を離し、ポケットから紙を取り出した。丁寧に二つ折りにされている。

 エチカから手渡された手紙に見覚えはなかった。僕がセオリアスから渡された手紙と内容こそ似ていたが、細かい部分は全然違う。そもそも筆跡が全く似ていない。

「僕、エチカに手紙なんて渡してないよ」
「じゃあ、ぼくたちガチで閉じ込められたってこと……?」

 エチカは再びマットに寝転んだ。僕もエチカの隣に腰を下ろす。
 しばらく待ってみたが、人の来る気配すらない。もう何時間も経っているように感じるが、実際には1時間も経っていないだろう。

「まあまあマリス、元気出して。もうちょっと経ったらカミールが助けに来てくれるよ、多分」
「多分って……。あーあ、ほんとごめん。僕がもう少し早く来てれば……」
「気にしない気にしない! ほら、ここ空いてるからマリスも寝転びなよ」

 エチカがバンバンとマットの上を叩き、埃が宙に舞う。促されて仰向けになったが、僕たちは二人とも小柄なので、そこまで窮屈にはならなかった。

「ふわあ……ぼくちょっと寝るね。カミールが来たら起こして~」
「うん」

 一分も経たないうちにエチカは寝息をたて始めた。僕は、外から足音が聞こえないか耳を澄ましていたが、気が付いたら深い眠りに落ちていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したらめちゃくちゃ嫌われてたけどMなので毎日楽しい

やこにく
BL
「穢らわしい!」「近づくな、この野郎!」「気持ち悪い」 異世界に転生したら、忌み人といわれて毎日罵られる有野 郁 (ありの ゆう)。 しかし、Mだから心無い言葉に興奮している! (美形に罵られるの・・・良い!) 美形だらけの異世界で忌み人として罵られ、冷たく扱われても逆に嬉しい主人公の話。騎士団が(嫌々)引き取 ることになるが、そこでも嫌われを悦ぶ。 主人公受け。攻めはちゃんとでてきます。(固定CPです) ドMな嫌われ異世界人受け×冷酷な副騎士団長攻めです。 初心者ですが、暖かく応援していただけると嬉しいです。

甥っ子と異世界に召喚された俺、元の世界へ戻るために奮闘してたら何故か王子に捕らわれました?

秋野 なずな
BL
ある日突然、甥っ子の蒼葉と異世界に召喚されてしまった冬斗。 蒼葉は精霊の愛し子であり、精霊を回復できる力があると告げられその力でこの国を助けて欲しいと頼まれる。しかし同時に役目を終えても元の世界には帰すことが出来ないと言われてしまう。 絶対に帰れる方法はあるはずだと協力を断り、せめて蒼葉だけでも元の世界に帰すための方法を探して孤軍奮闘するも、誰が敵で誰が味方かも分からない見知らぬ地で、1人の限界を感じていたときその手は差し出された 「僕と手を組まない?」 その手をとったことがすべての始まり。 気づいた頃にはもう、その手を離すことが出来なくなっていた。 王子×大学生 ――――――――― ※男性も妊娠できる世界となっています

乙女ゲームのモブに転生したようですが、何故かBLの世界になってます~逆ハーなんて狙ってないのに攻略対象達が僕を溺愛してきます

syouki
BL
学校の階段から落ちていく瞬間、走馬灯のように僕の知らない記憶が流れ込んできた。そして、ここが乙女ゲーム「ハイスクールメモリー~あなたと過ごすスクールライフ」通称「ハイメモ」の世界だということに気が付いた。前世の僕は、色々なゲームの攻略を紹介する会社に勤めていてこの「ハイメモ」を攻略中だったが、帰宅途中で事故に遇い、はやりの異世界転生をしてしまったようだ。と言っても、僕は攻略対象でもなければ、対象者とは何の接点も無い一般人。いわゆるモブキャラだ。なので、ヒロインと攻略対象の恋愛を見届けようとしていたのだが、何故か攻略対象が僕に絡んでくる。待って!ここって乙女ゲームの世界ですよね??? ※設定はゆるゆるです。 ※主人公は流されやすいです。 ※R15は念のため ※不定期更新です。 ※BL小説大賞エントリーしてます。よろしくお願いしますm(_ _)m

転生して勇者を倒すために育てられた俺が、いつの間にか勇者の恋人になっている話

ぶんぐ
BL
俺は、平凡なサラリーマンだったはずだ…しかしある日突然、自分が前世プレイしていたゲームの世界の悪役に転生していることに気が付いた! 勇者を裏切り倒される悪役のカイ…俺は、そんな最期は嫌だった。 俺はシナリオを変えるべく、勇者を助けることを決意するが──勇者のアランがなぜか俺に話しかけてくるんだが…… 溺愛美形勇者×ツンデレ裏切り者剣士(元平凡リーマン) ※現時点でR-18シーンの予定はありませんが、今後追加する可能性があります。 ※拙い文章ですが、お付き合い頂ければ幸いです。

【完結】欠陥品と呼ばれていた伯爵令息だけど、なぜか年下の公爵様に溺愛される

ゆう
BL
アーデン伯爵家に双子として生まれてきたカインとテイト。 瓜二つの2人だが、テイトはアーデン伯爵家の欠陥品と呼ばれていた。その訳は、テイトには生まれつき右腕がなかったから。 国教で体の障害は前世の行いが悪かった罰だと信じられているため、テイトに対する人々の風当たりは強く、次第にやさぐれていき・・・ もう全てがどうでもいい、そう思って生きていた頃、年下の公爵が現れなぜか溺愛されて・・・? ※設定はふわふわです ※差別的なシーンがあります

全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐
BL
 森の中の小さな領地の弱小貴族の僕は、領主の息子として生まれた。だけど両親は可愛い兄弟たちに夢中で、いつも邪魔者扱いされていた。  なんとか認められたくて、魔法や剣技、領地経営なんかも学んだけど、何が起これば全て僕が悪いと言われて、激しい折檻を受けた。  そんな家族は領地で好き放題に搾取して、領民を襲う魔物は放置。そんなことをしているうちに、悪事がバレそうになって、全ての悪評を僕に押し付けて逃げた。  それどころか、家族を逃す交換条件として領主の代わりになった男たちに、僕は毎日奴隷として働かされる日々……  暗い地下に閉じ込められては鞭で打たれ、拷問され、仕事を押し付けられる毎日を送っていたある日、僕の前に、竜が現れる。それはかつて僕が、悪事を働く竜と間違えて、背後から襲いかかった竜の王子だった。  あの時のことを思い出して、跪いて謝る僕の手を、王子は握って立たせる。そして、僕にずっと会いたかったと言い出した。え…………? なんで? 二話目まで胸糞注意。R18は保険です。

【完結】異世界転生して美形になれたんだから全力で好きな事するけど

福の島
BL
もうバンドマンは嫌だ…顔だけで選ぶのやめよう…友達に諭されて戻れるうちに戻った寺内陸はその日のうちに車にひかれて死んだ。 生まれ変わったのは多分どこかの悪役令息 悪役になったのはちょっとガッカリだけど、金も権力もあって、その上、顔…髪…身長…せっかく美形に産まれたなら俺は全力で好きな事をしたい!!!! とりあえず目指すはクソ婚約者との婚約破棄!!そしてとっとと学園卒業して冒険者になる!!! 平民だけど色々強いクーデレ✖️メンタル強のこの世で1番の美人 強い主人公が友達とかと頑張るお話です 短編なのでパッパと進みます 勢いで書いてるので誤字脱字等ありましたら申し訳ないです…

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。  新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。  ___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。  ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。  しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。  常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___ 「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」  ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。  寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。  髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?    

処理中です...