転生した悪役令息は破滅エンドをなかなか回避できない

ハバーシャム

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1年生

体育館倉庫の鍵

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「こんな遅くまで委員会かよ。会計係は大変だなぁ」

 全く労わる気のない声でセオリアスは言った。僕は無視して食堂へと足を運ぶ。

「オイオイ、相変わらずつれねえな」
「ついてこないで」
「なんで? いいじゃん、一緒に食おうぜ」

 セオリアスは耳元で「いいよな?」と囁いた。暗に、お前に拒否権はないと言っているのだ。

 さっさと食べてこの場を去ろうと思い量が少なめの料理を注文したが、セオリアスは僕よりも早く食事を終え、僕が食べ終わるのを待っていた。

 仕方が無いので寮まで一緒に帰る。セオリアスの一歩後ろを歩いていると、突然腕を引っ張られた。

「え!? ちょっと何!? 離して!」
「いいから来い」

 僕はセオリアスに引っ張られるまま知らない部屋の前まで歩かされた。おそらくセオリアスの部屋だ。セオリアスはドアを開けて僕を引っ張る。

「やだやだやだ、離して! なんなの!?」
「おい、迷惑になるから廊下で騒ぐなよ。いいから来いって」

 ずるずると引っ張られ、部屋の中に入れられる。リビングスペースには誰も居らず、そのまま奥の部屋まで引きずられた。

 部屋には生活感があり、ここがセオリアスの自室だということがわかる。

 ようやく手を離され、逃げようかとも思ったが、怒らせるのも面倒だったので大人しくすることにした。
 セオリアスはポケットから何かを取り出し、僕の方に放り投げた。突然のことだったので受け止めきれず、それはちゃりと音を立てて地面に落ちた。

「はあー、どんくせえ」
「悪かったな!」

 地面に落ちたのは鍵だった。僕は鍵を拾い上げる。

「これは……?」
「体育館倉庫の鍵だ。お前、これ使って学園祭の間エチカを閉じ込めておけ」
「はあ!? なんだよそんな、子供みたいな……」

 ぎろりと睨まれたので口を噤んだ。

「ガキで結構。アイツが学園祭のときにうろついてんのうざってえんだよ」
「セオリアスは、なんでそんなにエチカを敵視するの……?」

 そう言うと、突然セオリアスは僕の方まで近寄ってきて、僕を壁に思い切り突き飛ばした。

「いっ……」

 体勢を整える前に腕を掴まれ、頭の上まで持ち上げられる。そのまま壁に押し付けられて、身動きが取れなくなった。

「さっきからごちゃごちゃとうるせえな。黙って俺の言うことだけ聞いとけよ!」

 セオリアスはぎり、と手に力を込めた。

「いたいってば……」
「なあ、王都の祭りの後からエチカとフィオーネ殿下の距離が近くなったよな。フィオーネ殿下、エチカを見かけると自分から声をかけに行ってる」

 僕は身をよじったがびくともしない。

「婚約者であるお前には話しかけすらしないのに、エチカには呼び捨てまで許可してるんだぜ」

 ゲームでも、フィオーネはエチカに呼び捨てで呼ばせていた。曰く、エチカは貴族や王族などのしがらみのない唯一の存在なのだ。

「フィオーネ殿下はお前のことなんか何とも思っていない。お前は、フィオーネ殿下にとって、その他大勢の内の一人だ」
「違う……!」
「違わねえだろ」
「フィオーネ様は、僕に婚約者だと言ってくれた!」
「へえ、そりゃ意外だな」

 僕は再び身をよじったが、セオリアスは離してくれない。

「でも、あれが婚約者に対する態度かよ?」

 セオリアスはおどけたように言った。これ以上、セオリアスの話は聞きたくない。顔を背けようとしたら、顎を掴まれ無理矢理上を向かされた。

「なあ、お前も浮気しちゃえば?」
「な、なに言って――んんっ」

 セオリアスの顔が近づいてきて、噛みつくようなキスをされた。驚いて固まっていると、口内に舌が侵入してきた。

「……ふっ……ん、」

 セオリアスは拘束していた僕の腕を離すと、その手で僕の後頭部を抑え、動けないように固定した。
 行き場を失った僕の腕が、セオリアスの服を掴む。

「んっ……、ん……はあっ……」

 口内を蹂躙され、びくびくと体が反応してしまう。酸欠になってきたころ、ようやくセオリアスが顔を離した。

 僕の足ががくがくと震え、体を支えられなくなり崩れそうになったが、座り込む前にセオリアスが腰を支えてくれた。

「セオ、リアス……こんなことしてっ……フィオーネ様は浮気なんかしてないっ……!!」

 僕はそう言うと、セオリアスを突き飛ばして部屋を飛び出した。廊下を駆け抜け自分の部屋まで来ると、大きな音を立てるのもかまわずドアを開け、自室へと駆け込んだ。
 ドアを閉めて完全に一人になると、その場にへたり込んだ。

「ちょっとマリス、大丈夫?」

 ドア越しにリュゼの心配そうな声が聞こえる。

「大丈夫……なんでもない。大きな音出してごめん」

  なんとか声を振り絞る。やがてリュゼの気配が無くなった。
 緊張が解けたのか、鼻の奥がツンとして目から涙が溢れた。僕は、壁に背を預けてしばらくすすり泣いた。
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