転生した悪役令息は破滅エンドをなかなか回避できない

ハバーシャム

文字の大きさ
上 下
24 / 120
1年生

建国祭

しおりを挟む
「マリス、今夜は王都で健国祭をやるんだ。一緒に行くから準備をしてくれ」
「は!? そんな、いきなり言われても……!」

 僕の抗議は空しく、あっという間に使用人に着替えさせられた。あれよあれよと馬車に乗せられ、兄と共に王都まで向かっている。
 ちらりと兄の様子を窺う。彼は窓の外の景色を眺めていた。兄も、窓から景色を見るのが好きなのだ。

 僕と同じ藍色で、少しだけ癖のあるふわふわした兄の髪が馬車と共に揺れる。兄は穏やかで争いを嫌うが、自分の意見はきちんと貫き通す人だった。

「マリスはさ」

 視線は外に向けたまま、兄が口を開いた。

「優しい子だから、奴隷の話を聞いてとても心を痛めただろう」
「……」
「その気持ちは絶対に忘れてはいけないよ。奴隷だって、俺たちと何も変わりない人間なんだから」

 兄は景色から視線を外して僕の方を見据えた。返事の代わりに、僕も兄の深い青色の瞳を見つめる。

「でもねマリス。奴隷のことを考えて、自分をぞんざいにするのは駄目だ。君がそうしたところで、奴隷たちの未来は変わらない。そんなことしている暇があるのなら、少しでも奴隷たちが解放されるよう努力すべきだ。それが、俺たち貴族にできることだろう?」
「……はい」
「奴隷の問題は根深い。お父様も奴隷制度には賛成している。俺たちのような半人前の貴族だけじゃ太刀打ちできない問題だ。だからこそ、力をつけないとね。一緒に頑張ろう、マリス」
「はい、兄様!」

 僕の心がふっと軽くなった。兄は微笑み、僕の頭をくしゃりと撫でた。

「そろそろ王都に着く。今日は楽しもう」
「はい!」

 王都に着き、適当な場所で馬車から降りる。僕と兄、ラルフと数人の護衛で中央広場まで向かった。

 まだ昼を過ぎた頃だが、中央広場は人で賑わっていた。オレンジ色の石畳が広がる広場には大きな噴水があり、ベンチでは親子やカップルが屋台の料理を食べている。

 屋台は串料理やお菓子など様々な店が並んでいて、食欲をくすぐる匂いを醸し出していた。

「マリス、何か食べたいものはある?」
「肉の串料理が食べたいです」
「かしこまりました。ノエル様、マリス様。買って参りますので、あちらのベンチでお待ちください」
「ありがとう!」

 ラルフと別れ、空いているベンチへと腰かける。護衛たちにも空いているところに座るよう提案したが、「勤務中ですので」と断られてしまった。
 
 ベンチは噴水を囲むように何個か置かれており、背中から水の冷気が感じられて涼しい。ラルフはすぐに串を二本持ってきてくれた。

「ありがとう。祭りなんだからラルフも一緒に……ほら、ここ座りなよ」

 兄は串を持っていない手でベンチの座面を叩いた。

「ノエル様、私はまだ勤務中ですので……」
「じゃあ俺からのお願いってことで」
「ノエル様、困ります」

 ポーカーフェイスのラルフが珍しく焦った顔をしている。

「ラルフ、僕の一口食べる?」
「マリス様まで! からかわないでください」
「別にそんなつもりはないのに」

 焦ったラルフが面白くて僕は思わず笑みをこぼした。ラルフは幼かった頃の兄や僕の子守り係でもあったのだが、その時を思い出した。

 肉串で腹を満たした後は、ぐるりと広場を散策した。食べ物の屋台だけでなく、射的やもぐら叩きのような遊べる屋台もある。雰囲気は日本の夏祭りと同じだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました

及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。 ※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました

西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて… ほのほのです。 ※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

処理中です...