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1年生
建国祭
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「マリス、今夜は王都で健国祭をやるんだ。一緒に行くから準備をしてくれ」
「は!? そんな、いきなり言われても……!」
僕の抗議は空しく、あっという間に使用人に着替えさせられた。あれよあれよと馬車に乗せられ、兄と共に王都まで向かっている。
ちらりと兄の様子を窺う。彼は窓の外の景色を眺めていた。兄も、窓から景色を見るのが好きなのだ。
僕と同じ藍色で、少しだけ癖のあるふわふわした兄の髪が馬車と共に揺れる。兄は穏やかで争いを嫌うが、自分の意見はきちんと貫き通す人だった。
「マリスはさ」
視線は外に向けたまま、兄が口を開いた。
「優しい子だから、奴隷の話を聞いてとても心を痛めただろう」
「……」
「その気持ちは絶対に忘れてはいけないよ。奴隷だって、俺たちと何も変わりない人間なんだから」
兄は景色から視線を外して僕の方を見据えた。返事の代わりに、僕も兄の深い青色の瞳を見つめる。
「でもねマリス。奴隷のことを考えて、自分をぞんざいにするのは駄目だ。君がそうしたところで、奴隷たちの未来は変わらない。そんなことしている暇があるのなら、少しでも奴隷たちが解放されるよう努力すべきだ。それが、俺たち貴族にできることだろう?」
「……はい」
「奴隷の問題は根深い。お父様も奴隷制度には賛成している。俺たちのような半人前の貴族だけじゃ太刀打ちできない問題だ。だからこそ、力をつけないとね。一緒に頑張ろう、マリス」
「はい、兄様!」
僕の心がふっと軽くなった。兄は微笑み、僕の頭をくしゃりと撫でた。
「そろそろ王都に着く。今日は楽しもう」
「はい!」
王都に着き、適当な場所で馬車から降りる。僕と兄、ラルフと数人の護衛で中央広場まで向かった。
まだ昼を過ぎた頃だが、中央広場は人で賑わっていた。オレンジ色の石畳が広がる広場には大きな噴水があり、ベンチでは親子やカップルが屋台の料理を食べている。
屋台は串料理やお菓子など様々な店が並んでいて、食欲をくすぐる匂いを醸し出していた。
「マリス、何か食べたいものはある?」
「肉の串料理が食べたいです」
「かしこまりました。ノエル様、マリス様。買って参りますので、あちらのベンチでお待ちください」
「ありがとう!」
ラルフと別れ、空いているベンチへと腰かける。護衛たちにも空いているところに座るよう提案したが、「勤務中ですので」と断られてしまった。
ベンチは噴水を囲むように何個か置かれており、背中から水の冷気が感じられて涼しい。ラルフはすぐに串を二本持ってきてくれた。
「ありがとう。祭りなんだからラルフも一緒に……ほら、ここ座りなよ」
兄は串を持っていない手でベンチの座面を叩いた。
「ノエル様、私はまだ勤務中ですので……」
「じゃあ俺からのお願いってことで」
「ノエル様、困ります」
ポーカーフェイスのラルフが珍しく焦った顔をしている。
「ラルフ、僕の一口食べる?」
「マリス様まで! からかわないでください」
「別にそんなつもりはないのに」
焦ったラルフが面白くて僕は思わず笑みをこぼした。ラルフは幼かった頃の兄や僕の子守り係でもあったのだが、その時を思い出した。
肉串で腹を満たした後は、ぐるりと広場を散策した。食べ物の屋台だけでなく、射的やもぐら叩きのような遊べる屋台もある。雰囲気は日本の夏祭りと同じだった。
「は!? そんな、いきなり言われても……!」
僕の抗議は空しく、あっという間に使用人に着替えさせられた。あれよあれよと馬車に乗せられ、兄と共に王都まで向かっている。
ちらりと兄の様子を窺う。彼は窓の外の景色を眺めていた。兄も、窓から景色を見るのが好きなのだ。
僕と同じ藍色で、少しだけ癖のあるふわふわした兄の髪が馬車と共に揺れる。兄は穏やかで争いを嫌うが、自分の意見はきちんと貫き通す人だった。
「マリスはさ」
視線は外に向けたまま、兄が口を開いた。
「優しい子だから、奴隷の話を聞いてとても心を痛めただろう」
「……」
「その気持ちは絶対に忘れてはいけないよ。奴隷だって、俺たちと何も変わりない人間なんだから」
兄は景色から視線を外して僕の方を見据えた。返事の代わりに、僕も兄の深い青色の瞳を見つめる。
「でもねマリス。奴隷のことを考えて、自分をぞんざいにするのは駄目だ。君がそうしたところで、奴隷たちの未来は変わらない。そんなことしている暇があるのなら、少しでも奴隷たちが解放されるよう努力すべきだ。それが、俺たち貴族にできることだろう?」
「……はい」
「奴隷の問題は根深い。お父様も奴隷制度には賛成している。俺たちのような半人前の貴族だけじゃ太刀打ちできない問題だ。だからこそ、力をつけないとね。一緒に頑張ろう、マリス」
「はい、兄様!」
僕の心がふっと軽くなった。兄は微笑み、僕の頭をくしゃりと撫でた。
「そろそろ王都に着く。今日は楽しもう」
「はい!」
王都に着き、適当な場所で馬車から降りる。僕と兄、ラルフと数人の護衛で中央広場まで向かった。
まだ昼を過ぎた頃だが、中央広場は人で賑わっていた。オレンジ色の石畳が広がる広場には大きな噴水があり、ベンチでは親子やカップルが屋台の料理を食べている。
屋台は串料理やお菓子など様々な店が並んでいて、食欲をくすぐる匂いを醸し出していた。
「マリス、何か食べたいものはある?」
「肉の串料理が食べたいです」
「かしこまりました。ノエル様、マリス様。買って参りますので、あちらのベンチでお待ちください」
「ありがとう!」
ラルフと別れ、空いているベンチへと腰かける。護衛たちにも空いているところに座るよう提案したが、「勤務中ですので」と断られてしまった。
ベンチは噴水を囲むように何個か置かれており、背中から水の冷気が感じられて涼しい。ラルフはすぐに串を二本持ってきてくれた。
「ありがとう。祭りなんだからラルフも一緒に……ほら、ここ座りなよ」
兄は串を持っていない手でベンチの座面を叩いた。
「ノエル様、私はまだ勤務中ですので……」
「じゃあ俺からのお願いってことで」
「ノエル様、困ります」
ポーカーフェイスのラルフが珍しく焦った顔をしている。
「ラルフ、僕の一口食べる?」
「マリス様まで! からかわないでください」
「別にそんなつもりはないのに」
焦ったラルフが面白くて僕は思わず笑みをこぼした。ラルフは幼かった頃の兄や僕の子守り係でもあったのだが、その時を思い出した。
肉串で腹を満たした後は、ぐるりと広場を散策した。食べ物の屋台だけでなく、射的やもぐら叩きのような遊べる屋台もある。雰囲気は日本の夏祭りと同じだった。
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