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1年生
アルはどこの子?
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アルと共に部屋で引きこもり生活をして、数日が経過した。初めて出会ったときよりも顔色が良くなっている。少しだけ警戒心を緩めてくれたのか、最近はアルの方から話しかけてくれる。
寝るときは2人でベッドに入っている。ベッドはキングサイズくらいあるので、2人で寝ても十分のスペースがある。
今日もラルフに昼食を持ってきてもらい、2人で昼寝をしていた。ドンドンドン、と激しいノックの音に目が覚める。僕が頭を上げる前にドアが開き、父と目が合った。
「マリス! 駄目じゃないか、部屋に引きこもってばかり……って、誰だその子供は!?」
父は僕の隣で寝ているアルを見ると、声を荒げた。僕は慌ててベッドから出る。アルは、大きな音が鳴ったにも関わらず起きる様子が無かった。
「あ、あの、森で倒れていたところを保護したんです」
「森で?」
父はベットの方に近づき、寝ているアルを覗き込むように見た。
「ああ、成る程……。マリス、これは私が元の場所に帰しておくからもういい。保護してくれてありがとう」
父の大きな掌が僕の頭をぽんと叩く。
「いえ……あの、この子はどこから来たのですか?」
僕は何気ない質問をしたつもりだったが、父は僕の質問に目を丸くした。
「マリスはこの子がどこから来たのかわからないのか? ……いや、いい。それについては明日話そう」
父はそう言うと、アルを抱えて部屋から出て行った。僕とアルの生活はたった数日で幕を閉じた。1人になった部屋の中には一抹の不安だけが残った。
(アル……大丈夫だよね……?)
翌日の朝食の場で父と話す機会があったので、僕はアルについて尋ねてみた。
「あの子供はまだ売れる前の奴隷だ。マリス、首元の焼印と名前の入れ墨は奴隷の証なんだよ。今後のために覚えておきなさい」
父の言葉に、僕は朝食のパンを口に入れる手を止めた。
「ど、れい……? じゃあ、アルは……」
「奴隷商のもとへと返した」
父は冷たく言い放った。アルに対して情が湧いていることに気が付いているのだろう。
「アルは……森で出会ったとき、ガリガリに痩せ細って、顔も青く、脱水しかけていました。脱走したくなるくらい過酷な環境に、また戻したというのですか!?」
「あぁそうだ。……マリス、この話はもう終わるが、これからは奴隷と親しく接しないように」
父は朝食を食べ終えると、足早に食堂を出て行った。
(僕のせいで、アルはまた……)
アルが奴隷市場に戻されたと聞いた日から、僕はただぼうっと過ごしていた。楽しく過ごすはずだった夏休みはもう終盤を迎え、あと数日で寮生活に戻る。
(アルだけじゃない。奴隷たちのことを考えると、与えられるばかりの生活を送ることに罪悪感を覚える)
食事を取ろうとすると、出会ったばかりの、泥だらけでガリガリにやせ細ったアルを思い出し、食欲が無くなってしまう。
今日も僕は、食堂に顔を出さずに自室のソファでぼうっと窓を眺めていた。コンコン、と控えめなノックが鳴り、返事をする前にドアが開けられた。
ドアの方を見ると、綺麗な服に身を包んだ兄の姿があった。装飾品までつけられていて、かなり気合が入っている。
「マリス、今夜は王都で建国祭をやるんだ。一緒に行くから準備をしてくれ」
「は!? そんな、いきなり言われても……!」
寝るときは2人でベッドに入っている。ベッドはキングサイズくらいあるので、2人で寝ても十分のスペースがある。
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父は僕の隣で寝ているアルを見ると、声を荒げた。僕は慌ててベッドから出る。アルは、大きな音が鳴ったにも関わらず起きる様子が無かった。
「あ、あの、森で倒れていたところを保護したんです」
「森で?」
父はベットの方に近づき、寝ているアルを覗き込むように見た。
「ああ、成る程……。マリス、これは私が元の場所に帰しておくからもういい。保護してくれてありがとう」
父の大きな掌が僕の頭をぽんと叩く。
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僕は何気ない質問をしたつもりだったが、父は僕の質問に目を丸くした。
「マリスはこの子がどこから来たのかわからないのか? ……いや、いい。それについては明日話そう」
父はそう言うと、アルを抱えて部屋から出て行った。僕とアルの生活はたった数日で幕を閉じた。1人になった部屋の中には一抹の不安だけが残った。
(アル……大丈夫だよね……?)
翌日の朝食の場で父と話す機会があったので、僕はアルについて尋ねてみた。
「あの子供はまだ売れる前の奴隷だ。マリス、首元の焼印と名前の入れ墨は奴隷の証なんだよ。今後のために覚えておきなさい」
父の言葉に、僕は朝食のパンを口に入れる手を止めた。
「ど、れい……? じゃあ、アルは……」
「奴隷商のもとへと返した」
父は冷たく言い放った。アルに対して情が湧いていることに気が付いているのだろう。
「アルは……森で出会ったとき、ガリガリに痩せ細って、顔も青く、脱水しかけていました。脱走したくなるくらい過酷な環境に、また戻したというのですか!?」
「あぁそうだ。……マリス、この話はもう終わるが、これからは奴隷と親しく接しないように」
父は朝食を食べ終えると、足早に食堂を出て行った。
(僕のせいで、アルはまた……)
アルが奴隷市場に戻されたと聞いた日から、僕はただぼうっと過ごしていた。楽しく過ごすはずだった夏休みはもう終盤を迎え、あと数日で寮生活に戻る。
(アルだけじゃない。奴隷たちのことを考えると、与えられるばかりの生活を送ることに罪悪感を覚える)
食事を取ろうとすると、出会ったばかりの、泥だらけでガリガリにやせ細ったアルを思い出し、食欲が無くなってしまう。
今日も僕は、食堂に顔を出さずに自室のソファでぼうっと窓を眺めていた。コンコン、と控えめなノックが鳴り、返事をする前にドアが開けられた。
ドアの方を見ると、綺麗な服に身を包んだ兄の姿があった。装飾品までつけられていて、かなり気合が入っている。
「マリス、今夜は王都で建国祭をやるんだ。一緒に行くから準備をしてくれ」
「は!? そんな、いきなり言われても……!」
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