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1年生
意地悪セオリアス2
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翌日の期末テストはかなり手ごたえがあった。翌々日にはテストが返され、答案用紙を受け取ったときにアンドレア先生が「よく頑張ったな」と言ってくれた。点数は平均よりも少し高いくらいで、リュゼたちには遠く及ばないが、僕的には及第点だ。
テスト返しが終わった次の日からは長期の夏期休暇になる。三日後に迎えに来ると通達があったので、僕はそれまでに軽く部屋を整えておいた。
三日後、使用人を待っている間に掲示板へ赴くと、そこには既に学年順位が貼られていた。今日貼られたばかりなのか、生徒たちが集まっている。
(僕の順位は……あった!)
僕は43位と高くもなく低くもない微妙な順位だった。バーバリア学園には毎年100人前後の生徒が入学するので、だいたい半分くらいだ。
知り合いの名前も探してみた。今回もリュゼが1位で、2位がエチカ。3位はセオリアスで、4位にグランがいた。
(あれ、グランだけ名字が無い……そういえばグランの名字って聞いたことがないな)
この世界では、貴族でない市民にも名字が与えられる。姓が与えられないのは身元不明の孤児や浮浪者くらいなので、名字が無いグランの名前はかなり浮いていた。
(なにかヤバイ事情があるんだろうか……あ)
1位から順に名前を見ていると、18位のところにエルヴィ・クォートがいた。エルヴィは王宮騎士団長の息子で、攻略対象の一人だ。僕はまだ話したことがないけれど、何度か姿を見たことはある。
彼は勉強面では他の攻略対象に劣るが、体力は学年一である。恋愛には奥手で鈍いが、エルヴィルートではそのじれじれした感じがたまらない。
思い出してにやにやしていると、後ろから「おい」と意地悪な声に話しかけられた。振り向くと、僕のすぐ後ろでセオリアスが僕を見下ろしていた。
「中間最下位のマ~リス君、今回のテストは……おお、上がってんじゃん!」
セオリアスの発言に、周りの人が僕を馬鹿にしたような笑いをこぼす。今までエチカたちとしか過ごしていなかったので気づかなかったが、僕はどうやら学年で浮いているようだ。
居た堪れなくなって踵を返すと、セオリアスがついてきた。
「エチカのくせに、学年2位とか意味わかんねぇよな。どうせカンニングとかしてんだろ」
セオリアスはくくっと意地悪く笑う。冗談で言っているようだが、僕にはカチンときた。
「エチカはそんな卑怯な真似をする奴じゃない! お前と違って!」
「は? 何、俺がカンニングしたって言いてえのか?」
セオリアスの顔から笑顔が消えた。
(やばっ……)
怒らせてしまった恐怖で僕の顔からは血の気が引いたが、腹が立つのでそっぽを向いて無視することにした。
「おいおい、今度はシカトか? アスムベルク家の教育方針はどうなってんだ?」
セオリアスは僕の肩に腕を回してきたので、僕は反射的に肩を縮こまらせた。
「やめ、」
「マリス! 探したよ。もう使用人の方が来てるんだ」
僕の声を遮ったのはリュゼだ。リュゼは僕のところまで来ると、セオリアスを睨んで腕を僕から話した。リュゼの登場にほっと胸を撫で下ろす。
「セオリアス。マリスが嫌がっているだろ」
「別に嫌がってねえよ。なぁマリス?」
「もう! マリスは急ぎだから、お前に構っている暇はねーの!」
そう言ってリュゼは僕の腕を引っぱり、部屋へと向かう。部屋の前に着くと、リュゼの言う通り使用人が待機していた。
「マリス坊ちゃま、お待ちしておりました。荷物は既に運んでおります」
「あぁ、ありがとうね。……リュゼも、助けてくれてありがとう」
礼を言うと、リュゼは顔を綻ばせた。リュゼは自分の感情に素直で、ころころと表情が変わる。
「ふふ、『助けてくれて』なんだね」
「あ」
「セオリアスって性格悪いからな。今度絡まれたら俺に言えよ」
「うん。ありがとう、リュゼ……じゃあそろそろ行くね」
僕はそう言うと、使用人に合図を送り歩き出そうとした。その時、「ま、待って」とリュゼに腕を引かれた。振り返ると、ふわりとリュゼの香りに包まれる。一瞬何が起きたのかわからなかったが、ぎゅうと背中に腕を回され、リュゼに抱きしめられたのだとわかった。
リュゼも無意識だったのか、はっとしてからすぐに腕を離した。きょどきょどしていて、自分の行動に焦っているのだとわかる。
「ご、ごめんマリス。なんか、君がもう帰ってこないんじゃないかと思っちゃって……なんでだろ、意味わかんないよね」
「リュゼ?」
「なんだか、最近マリスが死んじゃう夢を見るんだ……なんでかわかんないけど、妙にリアルでさ……あはは、俺、夏バテでもしてんのかな」
「……」
リュゼの言葉に、僕はこの前リュゼが寝言で僕の名前を口にしていたことを思い出した。だからあんなに魘されていたのか。
知り合いが死ぬ夢なんて後味が悪いものだ。
(死んじゃう夢って、もしかして破滅エンド? その夢、もしかして神様のご神託的なヤツだったりして……リュゼは司教の息子だからありえるぞ……いや待て。だとしたら僕はまだ破滅フラグを回避できていないってことか?)
僕は体の震えを堪えてなんとか「大丈夫、休み明けには絶対帰ってくるから」と告げ、リュゼと別れた。
テスト返しが終わった次の日からは長期の夏期休暇になる。三日後に迎えに来ると通達があったので、僕はそれまでに軽く部屋を整えておいた。
三日後、使用人を待っている間に掲示板へ赴くと、そこには既に学年順位が貼られていた。今日貼られたばかりなのか、生徒たちが集まっている。
(僕の順位は……あった!)
僕は43位と高くもなく低くもない微妙な順位だった。バーバリア学園には毎年100人前後の生徒が入学するので、だいたい半分くらいだ。
知り合いの名前も探してみた。今回もリュゼが1位で、2位がエチカ。3位はセオリアスで、4位にグランがいた。
(あれ、グランだけ名字が無い……そういえばグランの名字って聞いたことがないな)
この世界では、貴族でない市民にも名字が与えられる。姓が与えられないのは身元不明の孤児や浮浪者くらいなので、名字が無いグランの名前はかなり浮いていた。
(なにかヤバイ事情があるんだろうか……あ)
1位から順に名前を見ていると、18位のところにエルヴィ・クォートがいた。エルヴィは王宮騎士団長の息子で、攻略対象の一人だ。僕はまだ話したことがないけれど、何度か姿を見たことはある。
彼は勉強面では他の攻略対象に劣るが、体力は学年一である。恋愛には奥手で鈍いが、エルヴィルートではそのじれじれした感じがたまらない。
思い出してにやにやしていると、後ろから「おい」と意地悪な声に話しかけられた。振り向くと、僕のすぐ後ろでセオリアスが僕を見下ろしていた。
「中間最下位のマ~リス君、今回のテストは……おお、上がってんじゃん!」
セオリアスの発言に、周りの人が僕を馬鹿にしたような笑いをこぼす。今までエチカたちとしか過ごしていなかったので気づかなかったが、僕はどうやら学年で浮いているようだ。
居た堪れなくなって踵を返すと、セオリアスがついてきた。
「エチカのくせに、学年2位とか意味わかんねぇよな。どうせカンニングとかしてんだろ」
セオリアスはくくっと意地悪く笑う。冗談で言っているようだが、僕にはカチンときた。
「エチカはそんな卑怯な真似をする奴じゃない! お前と違って!」
「は? 何、俺がカンニングしたって言いてえのか?」
セオリアスの顔から笑顔が消えた。
(やばっ……)
怒らせてしまった恐怖で僕の顔からは血の気が引いたが、腹が立つのでそっぽを向いて無視することにした。
「おいおい、今度はシカトか? アスムベルク家の教育方針はどうなってんだ?」
セオリアスは僕の肩に腕を回してきたので、僕は反射的に肩を縮こまらせた。
「やめ、」
「マリス! 探したよ。もう使用人の方が来てるんだ」
僕の声を遮ったのはリュゼだ。リュゼは僕のところまで来ると、セオリアスを睨んで腕を僕から話した。リュゼの登場にほっと胸を撫で下ろす。
「セオリアス。マリスが嫌がっているだろ」
「別に嫌がってねえよ。なぁマリス?」
「もう! マリスは急ぎだから、お前に構っている暇はねーの!」
そう言ってリュゼは僕の腕を引っぱり、部屋へと向かう。部屋の前に着くと、リュゼの言う通り使用人が待機していた。
「マリス坊ちゃま、お待ちしておりました。荷物は既に運んでおります」
「あぁ、ありがとうね。……リュゼも、助けてくれてありがとう」
礼を言うと、リュゼは顔を綻ばせた。リュゼは自分の感情に素直で、ころころと表情が変わる。
「ふふ、『助けてくれて』なんだね」
「あ」
「セオリアスって性格悪いからな。今度絡まれたら俺に言えよ」
「うん。ありがとう、リュゼ……じゃあそろそろ行くね」
僕はそう言うと、使用人に合図を送り歩き出そうとした。その時、「ま、待って」とリュゼに腕を引かれた。振り返ると、ふわりとリュゼの香りに包まれる。一瞬何が起きたのかわからなかったが、ぎゅうと背中に腕を回され、リュゼに抱きしめられたのだとわかった。
リュゼも無意識だったのか、はっとしてからすぐに腕を離した。きょどきょどしていて、自分の行動に焦っているのだとわかる。
「ご、ごめんマリス。なんか、君がもう帰ってこないんじゃないかと思っちゃって……なんでだろ、意味わかんないよね」
「リュゼ?」
「なんだか、最近マリスが死んじゃう夢を見るんだ……なんでかわかんないけど、妙にリアルでさ……あはは、俺、夏バテでもしてんのかな」
「……」
リュゼの言葉に、僕はこの前リュゼが寝言で僕の名前を口にしていたことを思い出した。だからあんなに魘されていたのか。
知り合いが死ぬ夢なんて後味が悪いものだ。
(死んじゃう夢って、もしかして破滅エンド? その夢、もしかして神様のご神託的なヤツだったりして……リュゼは司教の息子だからありえるぞ……いや待て。だとしたら僕はまだ破滅フラグを回避できていないってことか?)
僕は体の震えを堪えてなんとか「大丈夫、休み明けには絶対帰ってくるから」と告げ、リュゼと別れた。
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