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1年生

僕、死ぬの?

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「今日で全ての科目が終わったな。数日間よく頑張ったよ」
「フィオーネ様こそ、付き合ってくださりありがとうございました」

 帰りの支度をして、生徒指導室の戸締りを確認する。教室から出て、フィオーネが扉の鍵を閉める。職員室に寄って鍵を返してから食堂に向かう。ここ最近の日課だ。

 フィオーネと食事を取る毎日も今日で終わりだろう。

「マリス、次のテストは7月の終わりにある。そのテストでまた赤点を取ってしまうと夏期補講に行かなければならず、実家に帰省ができなくなる。アスムベルク伯爵にバレたくないなら勉強を頑張りなさい」

 夕食中、不意にフィオーネがそんな話を口にした。どうして父が出てくるのだ、と思ったが、すぐに思い出す。僕の父は基本的には親バカだが、勉強に関してはとても厳しいのだ。

「はい、頑張ります。フィオーネ様、今日まで本当にありがとうございました。フィオーネ様のおかげで最近の授業も楽しくなってきたんです」
「そうか。それは教えた甲斐があったな」

 フィオーネはふわりと微笑んだ。その優しい笑顔が、いつだか夢に出てきた幼少期のフィオーネを彷彿させた。




 7月に入り、本格的な夏に入る。ディクショニア王国には四季が存在するが、現代日本のような温暖化が無いため夏の暑さはそれほど酷くない。

 それでも暑いものは暑いようで、夜中トイレに起きるとリュゼの部屋から呻き声が聞こえてきた。何事かと思いリュゼの部屋を覗いてみれば、ベッドで寝苦しそうに布団を蹴るリュゼの姿が目に入る。

「リュゼ……?」

僕は恐る恐る部屋に入る。リュゼが苦しそうにしているので、布団をそっとかけ直し、汗ばむ額に手を当ててみた。
 僕の手がひんやりとしていたのか、リュゼの眉間に寄っていた皺が少しだけ和らぐ。濡れタオルを当ててあげようと思い立ち上がろうとしたが、リュゼの手が額に当てていた僕の手を掴んで離さなかった。

「リュゼ、起こしちゃった?」

 僕の呼びかけに応じずすうすうと寝息を立てるリュゼ。寝ているのにも関わらず、僕を掴む手の力が強くて、無理に抜けようとすると起こしてしまいそうだ。

(どうしよう、僕も寝なきゃなのに)

 いっそここで寝てしまおうかと思っていたら、リュゼが「マリス……」と呟いた。

「リュゼ? 起きたの?」
「……マリ……しな、ないで……」
「え?」

 聞き返したが返事は無い。寝言のようだ。リュゼの顔は強張っていて、眉間にはまた皺が寄っている。その眦にはじわりと涙が浮かんでいた。

(僕の夢を見てるの? え、何? 僕、死ぬの?)

 そっとリュゼの寝顔を覗く。いつものお調子者さは一切感じられず、色白の綺麗な寝顔はむしろ荘厳さも醸し出している。さすがは司教様の息子だ。
 結局リュゼが僕の手を離す気配が無かったので、僕は床に座り、ベッドに頭を乗せて寝ることにした。


 翌日、目が覚めると一人でベッドに横になっていた。部屋の雰囲気に違和感を覚え、僕は昨日リュゼの部屋で寝てしまったのだと思い出す。早く起きたリュゼがベッドで寝かせてくれたのだろうか。

 部屋からでると、制服姿のリュゼが雑に髪をくくっているところだった。リュゼはいつも、鏡も見ずに手櫛でハーフアップを作っている。

「おはようマリス。昨夜は夜這いに気づかなくてごめんね」
「はぁ!?」

 リュゼは相変わらずチャラけていた。前世の僕だったら絶対に関わらないタイプの人種だ。

(あっきれた!)

「ねえ、ところでさ……」

 僕も支度を済まそうと自室に戻ろうとしたら、リュゼが少し戸惑ったように口を開いた。

「昨日俺、なんか寝言言ってた?」
「あ、えっと、僕の名前を言ってたよ」
「それだけ?」
「うん」

 僕はなんとなく、『しなないで』と言っていたことは伝えなかった。

「そっかぁ。あ、安心して。エッチな夢は見てないから!」
「誰もそんな心配してない!」

 へらへらと笑うリュゼを横目に僕は自室へと戻った。

 制服に着替え、授業の支度を済ませて部屋を出るとリュゼが待っていてくれたので、一緒に朝食を食べに食堂へと向かった。
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