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1年生
二日酔いエチカ
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***
「ほらマリス、将来お前の旦那様となるフィオーネ殿下ですよ。ご挨拶なさい」
僕と同じ藍色の髪で、精悍な顔立ちの父が、大きな手で僕の背中をそっと押す。目の前にいるのは、3歳の頃母に読んでもらった絵本に出てきた天使のような顔の男の子。僕より少し大きな背丈で、優しい笑顔で僕を見ている。
「は、初めまして。ま、マリス・アスムベルクと申します」
父に教えてもらった敬礼をする。
「初めまして。私はフィオーネです。よろしくね」
フィオーネは天使の笑みを浮かべて、僕に右手を差し出した。
「はい、フィオーネ様。よろしくお願いします……」
僕はぎこちなく握手を返す。緊張でガチガチな僕を、周りの大人たちは笑って見ていた。
「私たちは結婚する仲なんだから、フィオでいいよ」
「はい、フィオ様」
これは、マリスの10歳のときの記憶だ。
***
はっと目が覚め、時計を見たらまだ起きる時間では無かった。しかし完全に目は冴えている。懐かしい夢を見たからだろうか。
(昨日、久しぶりにフィオーネと話した)
マリスの記憶の中で最後にフィオーネと話したのは、昨年の王宮パーティーのときだ。つまり、昨日は一年ぶりの会話なのだ。
僕は寝返りをうって布団をぎゅっと掴んだ。ふわふわのベッドが心地よく、いつまでも横になっていたくなる。
(エチカ、今日の授業来てくれるかな)
1人王宮で一晩過ごしたエチカのことを考えると、少し胸がきゅっとする。おそらく、マリスはエチカに嫉妬しているのだ。
(友達にこんな醜い感情……僕って最低だ……)
それから僕は5回くらい寝返りをうって、起き上がった。これ以上じっとしていてもモヤモヤするだけだ。
制服に着替え、リビングに出る。リュゼはまだ起きていなかった。僕は部屋から出て、テラスへと向かった。
廊下を歩いていると、遠くの方にふらふらと歩いているエチカが見えた。エチカの姿を見てぎくりとしたが、それよりも体調が悪そうで心配だ。僕はエチカの方へと駆け寄った。
「おはようエチカ。具合はどう?」
「あぁ……おはよマリス……前世ぶりの二日酔いで最高の気分だ……うぷぷぷ」
エチカは片手で自身の額を抑え、壁に寄りかかった。
「大丈夫? 今日は授業休んだ方がいいよ」
「そう、だね……今日は休もうかな」
僕はエチカを部屋まで送り、また自室に戻ることにした。
リュゼはギリギリになっても起きてこず、僕は午前中の授業を一人ぼっちで受けた。他の生徒からの視線がどことなく冷たい気がして、昨日の件がどこかから広まってしまったのだろうと察した。
「マリス、朝はありがとう。おかげで元気になったよ!」
エチカは二日酔いが回復したようで、午後の授業に出ていた。朝よりも顔色が良くなっている。
「エチカ、元気になってよかった。あの、後で二人で話したいんだ……昨日のこと」
「うん。ぼくも話したいと思っていたんだ。じゃあ放課後にね」
「うん、また後でね」
「ほらマリス、将来お前の旦那様となるフィオーネ殿下ですよ。ご挨拶なさい」
僕と同じ藍色の髪で、精悍な顔立ちの父が、大きな手で僕の背中をそっと押す。目の前にいるのは、3歳の頃母に読んでもらった絵本に出てきた天使のような顔の男の子。僕より少し大きな背丈で、優しい笑顔で僕を見ている。
「は、初めまして。ま、マリス・アスムベルクと申します」
父に教えてもらった敬礼をする。
「初めまして。私はフィオーネです。よろしくね」
フィオーネは天使の笑みを浮かべて、僕に右手を差し出した。
「はい、フィオーネ様。よろしくお願いします……」
僕はぎこちなく握手を返す。緊張でガチガチな僕を、周りの大人たちは笑って見ていた。
「私たちは結婚する仲なんだから、フィオでいいよ」
「はい、フィオ様」
これは、マリスの10歳のときの記憶だ。
***
はっと目が覚め、時計を見たらまだ起きる時間では無かった。しかし完全に目は冴えている。懐かしい夢を見たからだろうか。
(昨日、久しぶりにフィオーネと話した)
マリスの記憶の中で最後にフィオーネと話したのは、昨年の王宮パーティーのときだ。つまり、昨日は一年ぶりの会話なのだ。
僕は寝返りをうって布団をぎゅっと掴んだ。ふわふわのベッドが心地よく、いつまでも横になっていたくなる。
(エチカ、今日の授業来てくれるかな)
1人王宮で一晩過ごしたエチカのことを考えると、少し胸がきゅっとする。おそらく、マリスはエチカに嫉妬しているのだ。
(友達にこんな醜い感情……僕って最低だ……)
それから僕は5回くらい寝返りをうって、起き上がった。これ以上じっとしていてもモヤモヤするだけだ。
制服に着替え、リビングに出る。リュゼはまだ起きていなかった。僕は部屋から出て、テラスへと向かった。
廊下を歩いていると、遠くの方にふらふらと歩いているエチカが見えた。エチカの姿を見てぎくりとしたが、それよりも体調が悪そうで心配だ。僕はエチカの方へと駆け寄った。
「おはようエチカ。具合はどう?」
「あぁ……おはよマリス……前世ぶりの二日酔いで最高の気分だ……うぷぷぷ」
エチカは片手で自身の額を抑え、壁に寄りかかった。
「大丈夫? 今日は授業休んだ方がいいよ」
「そう、だね……今日は休もうかな」
僕はエチカを部屋まで送り、また自室に戻ることにした。
リュゼはギリギリになっても起きてこず、僕は午前中の授業を一人ぼっちで受けた。他の生徒からの視線がどことなく冷たい気がして、昨日の件がどこかから広まってしまったのだろうと察した。
「マリス、朝はありがとう。おかげで元気になったよ!」
エチカは二日酔いが回復したようで、午後の授業に出ていた。朝よりも顔色が良くなっている。
「エチカ、元気になってよかった。あの、後で二人で話したいんだ……昨日のこと」
「うん。ぼくも話したいと思っていたんだ。じゃあ放課後にね」
「うん、また後でね」
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