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1年生

王宮パーティー1

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 あっという間に一週間が過ぎ、王宮パーティーの日が訪れた。今日は授業がお休みで、時間までに各自王宮へと向かうことになっている。

 王宮までは徒歩で10分程度。この国はもともと治安が良く、王宮騎士の人たちが学園から王宮までを見張ってくれているので安全だ。

 パーティーの服装は、黒の燕尾服に白の蝶ネクタイ、襟の部分には学園オリジナルの刺繡がしてあるユニフォームを配られていて、このユニフォームが王宮通行証の代わりとなる。

 自室で燕尾服に着替え、身だしなみを整える。リビングに出るとリュゼがすでに支度を終えてソファに座っていた。

 リュゼの髪型は綺麗に後ろで纏められていて、優雅に紅茶を口に運んでいる姿は司教様の息子としての貫禄が出ている。普段つけているピアスも今日は全て外されていた。
 部屋から出てきた僕に気づいたリュゼはこちらに目を向けると、表情を崩して微笑んだ。

「あはは、可愛い~」
「……僕の背が小さいからって馬鹿にしてる?」
「そんなんじゃないよ。さ、支度ができたならそろそろ行こうか」

 リュゼは立ち上がると僕の頭にぽんと手を乗せ、ドアの方へ歩いていった。僕もリュゼに続いて部屋を出る。
 途中、廊下でエチカたちとばったり会ったので、4人で王宮へと向かった。

 王宮につくと、リュゼはすぐに貴族たちに囲まれてしまい、そのままはぐれてしまった。グランもふらりと人に紛れてどこかへ行ってしまったので、僕とエチカの2人でホールまで向かった。

 パーティーまでにまだ時間はあるが、ダンスホールには既にたくさんの人が集まっていた。学園の生徒たちは指定の服装を着ているので目立つ。女子生徒のドレスは白を基調としており金色の刺繍が入っている。

 ダンスホールは白い壁に金色の装飾がついた派手な部屋で、その床には赤い絨毯が敷かれている。壁際には白のテーブルクロスをかけられた丸テーブルがいくつも設置されていて、その上には豪華な料理が置かれている。
 ホールの2階は吹き抜けとなっており、奥にある階段を上り2階へと上がれば、ダンスホールを見下ろすことができる。

 この景色は記憶にあった。僕は毎年この王宮のダンスパーティーに参加して、フィオーネとダンスをしていたのだ。

 ゲームでは、1回目のパーティーイベントでエチカは強制的にフィオーネと踊る。エチカは元平民でダンスパーティーは初めてだから、フィオーネがエスコートするのである。

(そういえば、エチカとフィオーネはもう会ってるってことだよね。いつの間にかストーリーが進んでいるようだけど、なんだか実感がわかない……)

 エチカは、ゲームではパーティーイベントまでに隣国王子以外の攻略キャラと出会っている。それに、マリスが本格的にエチカと接触するのはパーティーの後だ。このパーティーを皮切りに、マリスはエチカに嫉妬をする。そのため、僕はこれから『強制力』に気を付けなければならない。

「マリス、そろそろ始まるよ」

 エチカの言葉の後、すぐに王族たちがホールに現れた。最初に現れたのは国王陛下、その後は正妃、側妃と続き、第一王子、第三王子、第四王子と続く。第二王子は毎回欠席で、その姿は僕も見たことがない。

 王族たちが全員定位置につくと、国王が挨拶の言葉を述べパーティーが始まる。
 優雅な音楽が流れ始め、各々食事や酒、ダンスなどを楽しんでいる。

 フィオーネの周りには貴族の娘たちが群がっているが、フィオーネは気にせずこちらへ向かってくる。

 目当ては隣にいるエチカだ。僕は居た堪れなくなってエチカから少し離れた。フィオーネはそんな僕に一瞥もくれず、エチカにダンスのお誘いをする。
 娘たちが黄色い声を上げ、ホール内にはフィオーネとエチカが注目される。フィオーネの相手が僕ではないので、周囲は困惑してざわついていた。

 エチカとのダンスが始まると、会場の視線はその美しいダンスに釘付けだった。ゲームのエチカはダンスが下手だったが、ここにいるエチカはすこぶるダンスが上手い。前世ではダンスをやっていたのだろうか。

 二人のダンスを眺めていると、僕の胸がしくしくと痛んだ。おそらくこれはマリスの感情だ。マリスは未だにフィオーネのことが好きなのだ。

「マリス?」

 不意に、驚いた声で話しかけられた。声の方を向くと、リュゼがシャンパンを片手に丸い目でこちらを見ている。

「リュゼ」
「君にそんな顔をさせるだなんて、罪な許嫁だよな」

 リュゼはおどけたように言った。一体僕がどんな顔していたのかわからないが、励まそうとしてくれているのだろう。
 僕は笑顔を作ってリュゼのシャンパンに目を向けた。

「リュゼ、学園の生徒はお酒禁止だったはずだよ」
「大丈夫、俺酒強いから」
「そういう問題じゃないだろ……そもそもどうやって手に入れたの?」

リュゼは苦笑いをしてシャンパンを一口飲んだ。

「あー……コネとかいろいろ?」
「いろいろって」
「それよりマリス。私と踊ってくれませんか?」

 リュゼはシャンパンを机に置いて、僕の前に跪いた。

「え……?」
「ほら、早く返事してよ」
「あ、は、はい」

 僕はとっさに右手を差し出す。リュゼは僕の手の甲にキスするふりをすると、僕の手を引っ張ってホールの真ん中まで来た。

 曲が切り替わり、ダンスを始める。前世の僕はダンスなどしたこともなかったが、マリスの体が作法をすべて覚えているようで、難なく踊れている。

「あ……」

 たまたまエチカとダンスをしていたフィオーネと目があった。しかし、リュゼの背中でフィオーネはすぐに隠れてしまう。

「俺と踊っているのに他の男を見るなよ」
「ご、ごめん」

 いつもと髪型の違うリュゼは優雅で大人っぽく、先週アンドレア先生の授業で居眠りをしていた人物と同じなのかと疑いたくなった。


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