転生した悪役令息は破滅エンドをなかなか回避できない

ハバーシャム

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1年生

リュゼの一面

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 夕食を終え、エチカと別れて自室に戻ると、リュゼがソファでくつろいでいた。

「あ、マリスおかえり」
「ただいま。リュゼ、アンドレア先生が授業に出ろって言ってたよ。リュゼが出てくれないと僕が怒られるんだけど」
「ええー。アンドレア苦手なんだよねぇ。神学もつまんないから嫌いだし」
「じゃあせめて次の授業だけでも出てくれない? アンドレア先生に無理にでも連れてこいって言われちゃった」

 お願いだ、と言うと、リュゼは心底だるそうにこちらを見た。ソファから体を起こし、僕の方をじっと見つめる。

「な、何?」
「んー……じゃあ、マリスがキスしてくれたら出てあげてもいいよ」
「はぁ!?」

 リュゼは妖しげな笑みを浮かべ、僕の目をじっと見つめた。色素の薄い綺麗な瞳に、思わずどきりとしてしまう。僕はごまかすように顔を逸らした。

「リュゼ……前にも言ったけど、僕には許婚がいるから……」
「でもその許婚は、マリスのことなんか眼中に無いかもしれないよ?」
「えっ?」

 その言葉に、僕の喉がひゅっと鳴り、身体がカタカタと震え出した。身体は震えていたが、僕の頭は冷静だ。おそらく、身体の方はもともとのマリスの感情に引っ張られているのだろう。

(マリスってば、そんなにフィオーネに嫌われるのが怖いのか?)

「ごめんマリス。冗談だからそんな顔しないでよ。ほら元気出して」
「……」

 リュゼは立ち上がって僕の方に来ると、優しい手つきで僕の頭を撫でる。僕はなぜか、その手を振り払うことが出来なかった。




 次の週、リュゼはちゃんとアンドレア先生の授業に来てくれた。しかし、授業開始一分で机に突っ伏して寝ている。

「リュゼ、起きて」
「うーん……」

 すでに深い眠りに就いているようで、体をゆすっても起きる気配がない。アンドレア先生の声色が強張り、教室内の空気が凍る。

 アンドレア先生はしばらく授業を続けていた。しかし、30分が経過したところで突然リュゼの身体につかみかかった。

「起きろ、リュゼ・プリースト!! 司教様の息子がそんな体たらくで、一体どういうつもりだ?」
「もーうるさいな……授業がつまらないのが悪いんじゃん」

 先生の怒鳴り声に、凍った空気に亀裂が入る。リュゼの間の抜けた声は明らかに場違いだった。

「大体さぁ、神話とかマジ意味わかんねーから。なんだよ『愛する人との初めての繋がりでエクスタシーを感じたマリエラは、感激のあまり時間と空間を超越し、神となった』って! あははっ! ウケる! バッカじゃねえの!」
「リュゼ、貴様!!」

 アンドレア先生の怒りは最高潮で、このまま勢いでリュゼを殴ってしまうのではないかとハラハラした。殴ってしまったら体罰だ。この世界にパワハラ等の概念があるのかはわからないが。

 結局、アンドレア先生はリュゼを殴ることはなかった。リュゼを掴む力が弱くなっていき、「リュゼ、後ろに立っていなさい」とだけ言って教壇へ戻った。

 リュゼは先生の指示に従い、教室の後ろの壁に凭れ掛かって立っている。まさかこの世界にも「廊下に立ってなさい」の類が存在するとは思わなかった。

(リュゼにあんな子供っぽい一面があったとは)

 ゲームのイメージだと、口調は軽いが飄々としていてどこか大人っぽさも見えるキャラだった。リュゼは最初、父親に「神子であるエチカと結婚すれば働かなくていい」と言われていたからエチカに猛アタックをしていた。エチカのことをちゃんと好きになるのは、ルートに入ってからだ。

(ということは、リュゼは今エチカとの結婚を狙っているのかな? でも、だとしたらどうして僕にキスをしたりするんだろう)
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