9 / 120
1年生
リュゼの一面
しおりを挟む
夕食を終え、エチカと別れて自室に戻ると、リュゼがソファでくつろいでいた。
「あ、マリスおかえり」
「ただいま。リュゼ、アンドレア先生が授業に出ろって言ってたよ。リュゼが出てくれないと僕が怒られるんだけど」
「ええー。アンドレア苦手なんだよねぇ。神学もつまんないから嫌いだし」
「じゃあせめて次の授業だけでも出てくれない? アンドレア先生に無理にでも連れてこいって言われちゃった」
お願いだ、と言うと、リュゼは心底だるそうにこちらを見た。ソファから体を起こし、僕の方をじっと見つめる。
「な、何?」
「んー……じゃあ、マリスがキスしてくれたら出てあげてもいいよ」
「はぁ!?」
リュゼは妖しげな笑みを浮かべ、僕の目をじっと見つめた。色素の薄い綺麗な瞳に、思わずどきりとしてしまう。僕はごまかすように顔を逸らした。
「リュゼ……前にも言ったけど、僕には許婚がいるから……」
「でもその許婚は、マリスのことなんか眼中に無いかもしれないよ?」
「えっ?」
その言葉に、僕の喉がひゅっと鳴り、身体がカタカタと震え出した。身体は震えていたが、僕の頭は冷静だ。おそらく、身体の方はもともとのマリスの感情に引っ張られているのだろう。
(マリスってば、そんなにフィオーネに嫌われるのが怖いのか?)
「ごめんマリス。冗談だからそんな顔しないでよ。ほら元気出して」
「……」
リュゼは立ち上がって僕の方に来ると、優しい手つきで僕の頭を撫でる。僕はなぜか、その手を振り払うことが出来なかった。
次の週、リュゼはちゃんとアンドレア先生の授業に来てくれた。しかし、授業開始一分で机に突っ伏して寝ている。
「リュゼ、起きて」
「うーん……」
すでに深い眠りに就いているようで、体をゆすっても起きる気配がない。アンドレア先生の声色が強張り、教室内の空気が凍る。
アンドレア先生はしばらく授業を続けていた。しかし、30分が経過したところで突然リュゼの身体につかみかかった。
「起きろ、リュゼ・プリースト!! 司教様の息子がそんな体たらくで、一体どういうつもりだ?」
「もーうるさいな……授業がつまらないのが悪いんじゃん」
先生の怒鳴り声に、凍った空気に亀裂が入る。リュゼの間の抜けた声は明らかに場違いだった。
「大体さぁ、神話とかマジ意味わかんねーから。なんだよ『愛する人との初めての繋がりでエクスタシーを感じたマリエラは、感激のあまり時間と空間を超越し、神となった』って! あははっ! ウケる! バッカじゃねえの!」
「リュゼ、貴様!!」
アンドレア先生の怒りは最高潮で、このまま勢いでリュゼを殴ってしまうのではないかとハラハラした。殴ってしまったら体罰だ。この世界にパワハラ等の概念があるのかはわからないが。
結局、アンドレア先生はリュゼを殴ることはなかった。リュゼを掴む力が弱くなっていき、「リュゼ、後ろに立っていなさい」とだけ言って教壇へ戻った。
リュゼは先生の指示に従い、教室の後ろの壁に凭れ掛かって立っている。まさかこの世界にも「廊下に立ってなさい」の類が存在するとは思わなかった。
(リュゼにあんな子供っぽい一面があったとは)
ゲームのイメージだと、口調は軽いが飄々としていてどこか大人っぽさも見えるキャラだった。リュゼは最初、父親に「神子であるエチカと結婚すれば働かなくていい」と言われていたからエチカに猛アタックをしていた。エチカのことをちゃんと好きになるのは、ルートに入ってからだ。
(ということは、リュゼは今エチカとの結婚を狙っているのかな? でも、だとしたらどうして僕にキスをしたりするんだろう)
「あ、マリスおかえり」
「ただいま。リュゼ、アンドレア先生が授業に出ろって言ってたよ。リュゼが出てくれないと僕が怒られるんだけど」
「ええー。アンドレア苦手なんだよねぇ。神学もつまんないから嫌いだし」
「じゃあせめて次の授業だけでも出てくれない? アンドレア先生に無理にでも連れてこいって言われちゃった」
お願いだ、と言うと、リュゼは心底だるそうにこちらを見た。ソファから体を起こし、僕の方をじっと見つめる。
「な、何?」
「んー……じゃあ、マリスがキスしてくれたら出てあげてもいいよ」
「はぁ!?」
リュゼは妖しげな笑みを浮かべ、僕の目をじっと見つめた。色素の薄い綺麗な瞳に、思わずどきりとしてしまう。僕はごまかすように顔を逸らした。
「リュゼ……前にも言ったけど、僕には許婚がいるから……」
「でもその許婚は、マリスのことなんか眼中に無いかもしれないよ?」
「えっ?」
その言葉に、僕の喉がひゅっと鳴り、身体がカタカタと震え出した。身体は震えていたが、僕の頭は冷静だ。おそらく、身体の方はもともとのマリスの感情に引っ張られているのだろう。
(マリスってば、そんなにフィオーネに嫌われるのが怖いのか?)
「ごめんマリス。冗談だからそんな顔しないでよ。ほら元気出して」
「……」
リュゼは立ち上がって僕の方に来ると、優しい手つきで僕の頭を撫でる。僕はなぜか、その手を振り払うことが出来なかった。
次の週、リュゼはちゃんとアンドレア先生の授業に来てくれた。しかし、授業開始一分で机に突っ伏して寝ている。
「リュゼ、起きて」
「うーん……」
すでに深い眠りに就いているようで、体をゆすっても起きる気配がない。アンドレア先生の声色が強張り、教室内の空気が凍る。
アンドレア先生はしばらく授業を続けていた。しかし、30分が経過したところで突然リュゼの身体につかみかかった。
「起きろ、リュゼ・プリースト!! 司教様の息子がそんな体たらくで、一体どういうつもりだ?」
「もーうるさいな……授業がつまらないのが悪いんじゃん」
先生の怒鳴り声に、凍った空気に亀裂が入る。リュゼの間の抜けた声は明らかに場違いだった。
「大体さぁ、神話とかマジ意味わかんねーから。なんだよ『愛する人との初めての繋がりでエクスタシーを感じたマリエラは、感激のあまり時間と空間を超越し、神となった』って! あははっ! ウケる! バッカじゃねえの!」
「リュゼ、貴様!!」
アンドレア先生の怒りは最高潮で、このまま勢いでリュゼを殴ってしまうのではないかとハラハラした。殴ってしまったら体罰だ。この世界にパワハラ等の概念があるのかはわからないが。
結局、アンドレア先生はリュゼを殴ることはなかった。リュゼを掴む力が弱くなっていき、「リュゼ、後ろに立っていなさい」とだけ言って教壇へ戻った。
リュゼは先生の指示に従い、教室の後ろの壁に凭れ掛かって立っている。まさかこの世界にも「廊下に立ってなさい」の類が存在するとは思わなかった。
(リュゼにあんな子供っぽい一面があったとは)
ゲームのイメージだと、口調は軽いが飄々としていてどこか大人っぽさも見えるキャラだった。リュゼは最初、父親に「神子であるエチカと結婚すれば働かなくていい」と言われていたからエチカに猛アタックをしていた。エチカのことをちゃんと好きになるのは、ルートに入ってからだ。
(ということは、リュゼは今エチカとの結婚を狙っているのかな? でも、だとしたらどうして僕にキスをしたりするんだろう)
26
お気に入りに追加
412
あなたにおすすめの小説
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。
みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。
男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。
メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。
奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。
pixivでは既に最終回まで投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる