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1年生

食堂の飯がうまい

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「マリスお疲れ。一緒に夕食行こうよ」
「うん!」

 今日の授業が全て終わり、エチカが話しかけてくれた。今日はグランもサボりなので、夕食はエチカと二人だ。

 食堂の席に着き、料理を注文する。エチカは鮭のムニエルを注文していた。僕はステーキを注文する。
 この世界の食べ物は前世のものと一緒で、和食も存在する。食堂の料理は王宮派遣の一流シェフが作っており、とても美味しい。

 料理が届き、目の前でステーキがじゅうじゅうと音を立てている。そっとナイフを入れただけで切れるほどその肉は柔らかく、口に入れればじんわりとうまみが広がる。

「こんな料理が毎日食べられるだなんて、幸せだよね」
「ほんと、前世じゃ考えられないよ」

 エチカも鮭を口に入れて幸せそうな笑みを浮かべた。

「今日のマリスめっちゃ面白かった! でもアンドレア先生に目を付けられたら後々めんどくさいし、程々にね」
「え、エチカ起きてたの?」
「途中から笑い声で起きたよ。今度ぼくの居眠り術を教えてあげる」
「それは助かります……ってかさ、アンドレア先生に目を付けられたら面倒なの?」

 授業はまだ始まったばかりでアンドレア先生と交流する機会は少ないはずなのに、エチカはまるで昔から知っているかのような口ぶりだった。

「アンドレア先生は神学の研究者でもあるからよく教会に来てたんだ。昔は孤児院のみんなと一緒に遊んでもらってたからさ。あの人一度怒るとマジめんどいのよ」
「へえー、そうだったんだ!」

 リュゼがアンドレア先生の授業を休むのも、アンドレア先生のそういった一面を知っているからなのだろうか。

「マリスってさ、前世の記憶はどれくらい残っているの?」

 エチカはデザートに頼んだパフェを口に入れながらそう言った。
 ファミレスで800円くらいしそうな、ボリューミーな苺パフェだ。

「大体は覚えているよ。普通の人生だったなぁ。死ぬ前はたしか、仕事を辞めてニートしてて、それで、イベントに参加をしていたような……」

 前世の記憶はほとんど思い出せている。しかし、僕が死んだであろう日の出来事だけがどうしても思い出せなかった。無理矢理思い出そうとすると激しい頭痛に襲われてしまう。

「エチカは前世の記憶全て覚えてる?」
「うん、あらかた覚えているよ! ゲームのストーリーも完璧に覚えてるし。もうすぐ王族のパーティーがあるよね」
「あ、そういえばこの季節だっけ」

 王族のパーティーはゲームでは初めてのイベントで、毎年5月の初めに行われる。王立学園であるバーバリア学園の生徒も参加しなければならない。

 このイベントでは社交ダンスがあり、一番初めに踊る人を選ぶ。一番初めに選んだ人の好感度を上げることができるのだ。ちなみに、友情エンドを目指す人のためにダンスをしないという選択肢もある。

 しかし、このイベントには1つ問題がある。ダンスの後、パーティーの終盤に外で涼んでいたエチカが襲われそうになるのだ。
 フィオーネが助けに来てくれることで未遂に終わるのだが、この事件を皮切りにマリスは悪役としての道を歩むことになる。

 というのも、この事件は、パーティーで仲良くしているエチカとフィオーネを見たマリスがエチカに嫉妬して起こすのだ。前世の記憶のある僕がエチカに対して嫉妬することはないだろうが、もしかしたら『強制力』によってエチカが襲われそうになるかもしれない。

(エチカは作者様だから、大丈夫だと思うけど……)

「マリス? もしかして、イベントのこと気にしてる?」
「あぁ、うん……ちょっと不安だな。わかってると思うけど、気を付けてね」
「もっちろん。知らない男に襲われるなんてゴメンだよ~。と言ってもここはBLゲームの世界なんだけどね」

 エチカはけろりと言った。余裕があるっぽいし、あまり心配しなくても大丈夫かもしれない。
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