転生した悪役令息は破滅エンドをなかなか回避できない

ハバーシャム

文字の大きさ
上 下
3 / 120
1年生

主人公エチカ

しおりを挟む
 先生のガイダンスを右から左に流し、僕は自分の状況を整理していた。

 まず、この世界は『薔薇~イケメン貴族とハーレム学園~』という同人ゲームの本編だ。このゲームは人気BL同人ゲームで、僕はこのゲームの大ファンである。

 ゲームのあらすじはこうだ。孤児として教会で育てられた主人公エチカは、10歳の誕生日になると聖なる力が覚醒する。その日からエチカは神子として聖なる力を使い人々を癒やしていく。

 慈善活動に勤しむエチカの話が国王の耳に入り、この王立バーバリア学園という、本来なら貴族の中でも選りすぐりの子供しか入学出来ない学園に特待生として入学する。
 バーバリア学園に入るのは16歳から18歳までの3年間である。

 そして、この学園の中で5人の攻略対象とのラブ・ロマンスが始まる。攻略対象はそれぞれ、第一王子のフィオーネ、隣国の王子カミール・アリ、公爵令息のセオリアス・カンテミール、騎士の息子エルヴィ・クォート、神官の息子リュゼ・プリーストの5人である。

 ちなにに僕が一番好きなのはセオリアスルートだ。セオリアスは、最初は意地悪だけど、主人公を好きになってからの溺愛具合が最高なのだ。

(素直になれないところが可愛いんだよな~)

 フィオーネは現在2年生で、その他はみんな1年生だ。フィオーネは1年早く卒業してしまうが、毎年あるパーティーなどのイベントで好感度を上げる機会はたくさんある。

 エンドは7つで、5人それぞれのルートに加えてハーレムエンド、友情エンドが存在する。ちなみに、どのエンドになってもマリスは破滅エンドを迎えることになる。

 マリスの破滅エンドはエチカのエンドによって変わる。ハーレムエンドでは、終盤に賊に襲われるイベントで主人公の身代わりとなって帰って来なくなり、友情エンドでは、貴族の称号を剥奪されて強制労働させられる。そして、5人それぞれのルートでは、第一王子に婚約破棄され国外追放されるエンドとなる。

 エチカに嫌がらせさえしなければ破滅エンドは免れるはずだ。念のため、この3年間エチカとはなるべく接触しないようにしようと心に決めた。

(本当は仲良くしてみたいんだけど)

 僕がため息を吐くと、隣から「あの……」と声を掛けられた。隣を見ると、そこにはふわふわの茶髪に茶色い目をした小柄な少年がいた。少年は、不思議そうにくりくりした丸い目をこちらに向けている。

「もうガイダンスは終わったよ……?」

 少年の声にハッと周りを見渡すと、そこには僕と彼しかいなかった。

「あ、本当だ。ぼーっとしてた……教えてくれてありがとう」
「気にしないで。ぼく、エチカ・プリースト。これから3年間よろしくね」
「えっ!? ……と、僕はマリス・アスムベルク。よろしく」

 動揺を隠せず声が上ずってしまった。エチカの顔はゲームでは出てこないから、名前を聞くまで彼がエチカだとわからなかったのだ。

 エチカは僕の様子をじっと見ていた気がするが、すぐにふわっとした表情に戻った。

「それじゃ、一緒に行こう」
「あの、エチカ……実は僕、先生の話何も聞いていなかったんだ。今からどこに行くのか教えてくれる?」
「あはは、マリスったら! けっこう抜けてるんだね」

 エチカはくすくすといじらしく笑った。

(可愛いな、おい)

 それから、ガイダンスの内容を簡潔に教えてくれた。
 この学園生活の目的は、将来国を支える貴族の息子として協調性を学ぶことだ。僕たちは3年間、貴族の階級関係なしに学園生活を送る。といっても、上下関係を蔑ろにしてはいけないので、先輩や先生には敬語を使わなければならない。

 簡潔に言えば、日本の学校と一緒だ。日本人の作ったゲームなので、学校のシステムは日本と似ているのだろう。

 今日はもう授業は無く、割り当てられた寮に帰る。授業は明日から始まる。1年生のうちは皆で同じ科目を学び、2年生からは好きな科目を選べる。ここは日本の大学に似ている。

「寮は2人で一部屋なんだよ。これから3年間を共にするパートナーなんだ」
「パ、パートナー……」

 BLゲームの世界なので、どうしても違う意味に聞こえてしまう。誰と同室なのかドキドキする。寮の部屋は事前に聞かされていたようで、僕の頭に部屋番号が浮かぶ。

「じゃあ、ぼくはここだから。また明日ね」
「うん、また明日」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

孤独な王弟は初めての愛を救済の聖者に注がれる

葉月めいこ
BL
ラーズヘルム王国の王弟リューウェイクは親兄弟から放任され、自らの力で第三騎士団の副団長まで上り詰めた。 王家や城の中枢から軽んじられながらも、騎士や国の民と信頼を築きながら日々を過ごしている。 国王は在位11年目を迎える前に、自身の治世が加護者である女神に護られていると安心を得るため、古くから伝承のある聖女を求め、異世界からの召喚を決行した。 異世界人の召喚をずっと反対していたリューウェイクは遠征に出たあと伝令が届き、慌てて帰還するが時すでに遅く召喚が終わっていた。 召喚陣の上に現れたのは男女――兄妹2人だった。 皆、女性を聖女と崇め男性を蔑ろに扱うが、リューウェイクは女神が二人を選んだことに意味があると、聖者である雪兎を手厚く歓迎する。 威風堂々とした雪兎は為政者の風格があるものの、根っこの部分は好奇心旺盛で世話焼きでもあり、不遇なリューウェイクを気にかけいたわってくれる。 なぜ今回の召喚されし者が二人だったのか、その理由を知ったリューウェイクは苦悩の選択に迫られる。 召喚されたスパダリ×生真面目な不憫男前 全38話 こちらは個人サイトにも掲載されています。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

生まれ変わったら知ってるモブだった

マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。 貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。 毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。 この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。 その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。 その瞬間に思い出したんだ。 僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。

嫌われ変異番の俺が幸せになるまで

深凪雪花
BL
 候爵令息フィルリート・ザエノスは、王太子から婚約破棄されたことをきっかけに前世(お花屋で働いていた椿山香介)としての記憶を思い出す。そしてそれが原因なのか、義兄ユージスの『運命の番』に変異してしまった。  即結婚することになるが、記憶を取り戻す前のフィルリートはユージスのことを散々見下していたため、ユージスからの好感度はマイナススタート。冷たくされるが、子どもが欲しいだけのフィルリートは気にせず自由気ままに過ごす。  しかし人格の代わったフィルリートをユージスは次第に溺愛するようになり……? ※★は性描写ありです。

悪役のはずだった二人の十年間

海野璃音
BL
 第三王子の誕生会に呼ばれた主人公。そこで自分が悪役モブであることに気づく。そして、目の前に居る第三王子がラスボス系な悪役である事も。  破滅はいやだと謙虚に生きる主人公とそんな主人公に執着する第三王子の十年間。  ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~

トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。 しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。 貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。 虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。 そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる? エブリスタにも掲載しています。

処理中です...