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1年生
マリス・アスムベルク
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入学式が終わり、僕は自分の姿を見るためにトイレへ立ち寄った。手洗い場の鏡に映る自分の姿を見て、僕はまた驚愕した。
鏡に映っていたのは、見慣れた冴えない日本人ではなかった。そこにいたのは、藍色の艶やかな髪を首の辺りまで伸ばし、大きなコバルトブルーの瞳を見開いている可愛い少年だった。
新品のブレザーが少しブカブカで、そこがまた愛らしい。
「って、マリス・アスムベルクじゃん……!」
なんと僕は、このゲームの悪役令息に転生してしまったようだ。鏡の前の僕はポカンとピンク色の小さな唇を開いている。
マリス・アスムベルク。伯爵家の次男として生まれ、フィオーネ王太子の許嫁でもあるマリスは、主人公エチカに嫉妬をして嫌がらせをするという当て馬キャラだ。背が小さく、エチカと同じくらい小柄である。
ぺた、ぺた、と自分の頬を触る。なんとも触り心地の良いすべすべもちもちの肌は、興奮から少し紅潮していて暖かかった。
「か、か、可愛い~~!!」
僕は鏡を見て控えめに叫んだ。
(なんて愛らしい顔なんだ!)
ゲームではクソガキみたいなキャラだったが、今現在鏡に映っているマリスは、「ザ・大事に育てられたお坊ちゃま」って感じで、クソガキの兆候は見られない。どちらかというと虫も殺せないような雰囲気をしていた。
時間を忘れて自分の顔に見惚れていた僕は、後ろから近付いてくる人物にしばらく気がつかなかった。
「オイ」
背後から突然話しかけられ、「ひゃぁ!」と情けない声を出してしまう。
「ブククッ……! 間抜けな声!」
僕は背後の人物を見ようと鏡を見た。そこに映っていたのは、入学式で僕の隣に居た謎のイケメンだった。振り返ると、彼は腹を抱えて笑っていた。笑いすぎだろ。
ゲームの記憶を辿ってみたが、こんなキャラは見たことが無い。モブにしてはイケメンすぎる気がするけれど……。
「お前さ、今、自分の顔に見惚れてたよな?」
イケメンはいじわるに笑い、僕の両頬を掴んだ。そのままむにむにと僕の頬を弄んでいる。
「ひょっと、やめへよ」
「おお、これはなかなか……」
彼も僕の頬の触り心地を気に入ったようで、しばらく遊んでいた。
(この人……初対面なのに距離が近い!)
僕はいい加減離れてほしくてイケメンの胸を押した。しかし、体格の良い彼は微塵も動かない。どうしようかと本格的に困っていたところに人がやってきた。
「あの……イチャついてるところ悪いんだけどさあ~、俺うんこ漏れそうだから、用がないならさっさとどっか行ってくんない?」
「あ、ごめんなさ、い……!?」
声のする方を見ると、そこには見覚えのあるキャラがいて、僕は目を見開きポカンとした。声の主は攻略対象の1人であるリュゼ・プリーストである。肩甲骨まで伸びた銀髪を雑に括り、ハーフアップにしている。瞳の色は色素の薄い乳白色で、ゲームで見るものの何倍も透き通っていた。
(す、すごっ。リアルで見ると眩しい……)
「あ、俺の排便音を聞きたいってなら別にいいんだけどね~」
「す、すみません。すぐに出ていきます」
僕たちはそそくさとトイレから出た。そのまま廊下を歩いているうちに冷静になってきた。「うんこ」なんて下品な言葉、前世ぶりに聞いた……。
僕は赤髪のイケメンと並んで歩き、大講堂まで向かった。式の後は休憩時間を挟んで大講堂でガイダンスをやることになっているのだ。
「なぁ、お前ってマリス・アスムベルクだろ?」
「え、うん……なんで知ってるの?」
そう言うと、男はにやりと笑った。
「アスムベルク家は貴族の間では結構有名だからな」
「ええー、そうなんだ……あなたはなんて名前なの?」
「俺はグラシアス。グランでいいよ。これからよろしくな」
「うん。グラン、よろしく!」
鏡に映っていたのは、見慣れた冴えない日本人ではなかった。そこにいたのは、藍色の艶やかな髪を首の辺りまで伸ばし、大きなコバルトブルーの瞳を見開いている可愛い少年だった。
新品のブレザーが少しブカブカで、そこがまた愛らしい。
「って、マリス・アスムベルクじゃん……!」
なんと僕は、このゲームの悪役令息に転生してしまったようだ。鏡の前の僕はポカンとピンク色の小さな唇を開いている。
マリス・アスムベルク。伯爵家の次男として生まれ、フィオーネ王太子の許嫁でもあるマリスは、主人公エチカに嫉妬をして嫌がらせをするという当て馬キャラだ。背が小さく、エチカと同じくらい小柄である。
ぺた、ぺた、と自分の頬を触る。なんとも触り心地の良いすべすべもちもちの肌は、興奮から少し紅潮していて暖かかった。
「か、か、可愛い~~!!」
僕は鏡を見て控えめに叫んだ。
(なんて愛らしい顔なんだ!)
ゲームではクソガキみたいなキャラだったが、今現在鏡に映っているマリスは、「ザ・大事に育てられたお坊ちゃま」って感じで、クソガキの兆候は見られない。どちらかというと虫も殺せないような雰囲気をしていた。
時間を忘れて自分の顔に見惚れていた僕は、後ろから近付いてくる人物にしばらく気がつかなかった。
「オイ」
背後から突然話しかけられ、「ひゃぁ!」と情けない声を出してしまう。
「ブククッ……! 間抜けな声!」
僕は背後の人物を見ようと鏡を見た。そこに映っていたのは、入学式で僕の隣に居た謎のイケメンだった。振り返ると、彼は腹を抱えて笑っていた。笑いすぎだろ。
ゲームの記憶を辿ってみたが、こんなキャラは見たことが無い。モブにしてはイケメンすぎる気がするけれど……。
「お前さ、今、自分の顔に見惚れてたよな?」
イケメンはいじわるに笑い、僕の両頬を掴んだ。そのままむにむにと僕の頬を弄んでいる。
「ひょっと、やめへよ」
「おお、これはなかなか……」
彼も僕の頬の触り心地を気に入ったようで、しばらく遊んでいた。
(この人……初対面なのに距離が近い!)
僕はいい加減離れてほしくてイケメンの胸を押した。しかし、体格の良い彼は微塵も動かない。どうしようかと本格的に困っていたところに人がやってきた。
「あの……イチャついてるところ悪いんだけどさあ~、俺うんこ漏れそうだから、用がないならさっさとどっか行ってくんない?」
「あ、ごめんなさ、い……!?」
声のする方を見ると、そこには見覚えのあるキャラがいて、僕は目を見開きポカンとした。声の主は攻略対象の1人であるリュゼ・プリーストである。肩甲骨まで伸びた銀髪を雑に括り、ハーフアップにしている。瞳の色は色素の薄い乳白色で、ゲームで見るものの何倍も透き通っていた。
(す、すごっ。リアルで見ると眩しい……)
「あ、俺の排便音を聞きたいってなら別にいいんだけどね~」
「す、すみません。すぐに出ていきます」
僕たちはそそくさとトイレから出た。そのまま廊下を歩いているうちに冷静になってきた。「うんこ」なんて下品な言葉、前世ぶりに聞いた……。
僕は赤髪のイケメンと並んで歩き、大講堂まで向かった。式の後は休憩時間を挟んで大講堂でガイダンスをやることになっているのだ。
「なぁ、お前ってマリス・アスムベルクだろ?」
「え、うん……なんで知ってるの?」
そう言うと、男はにやりと笑った。
「アスムベルク家は貴族の間では結構有名だからな」
「ええー、そうなんだ……あなたはなんて名前なの?」
「俺はグラシアス。グランでいいよ。これからよろしくな」
「うん。グラン、よろしく!」
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