私とあなた、僕ときみ

華山千華

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助けて、話を聞いて

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『助けて、嫌だ。怖いよ……』
『……お願い』

 疲れた。変な夢見たな、子どもがが自分の何倍も大きい青年の手を引いて
『話を聞いて、お願い助けて!』って迫ってくる夢。
 これもまた私の力のせい。どうしてか魂の声が聞こえてしまう。魂の声と言うよりも心の声というべきだろうか。

「江名 乾。起きろ」
 ドンっと大きな音と振動が机越しに伝わる。
 はぁ。そうだ、今は古典の講義だった。
 4月の春から高校を卒業して短大に入学した
「この教室疲れるんだよね」
 ボソッと呟くと顔を上げ教授と目が合うとペコッと頭を下げる。頭を下げる動作に合わせて高校2年の頃から伸ばしている髪が頬をくすぐりながら流れ落ちていく。
(ここ眺めが良いのにもったいないな。)
 窓側に座り、そう考えるのにも理由がある。
 私のいるこの教室は霊の溜まり場だから。
 変わり者だといわれる私には視える。面白くはないけど声も聞こえる。
 今日は暑そうだの、あの子この前転けてただの。どうでもいいことばかり。
 でも、本当に稀に視ることがある。夢の中で。
 私は聞いたことがある。「悪夢を視るのは霊が近くにいるから」
 只でさえ、日常的に霊を視たくないから物理的に視えないように髪を伸ばしてるのに夢で視るなんてついてない。
 ついでに言えば夢に出てくるのは助けを求めてくるのばかりで、そんな夢の訪問者に私は答えてしまう。
 夢は大抵2回見る。1回目は「お願い?」って遠回しに、2回目は「助けて!」って全力で。そして今、全力で「助けて!」の夢を見た。
(近くにいるんだろうな)そんな風に思いながら回りをグルっと見回す。
 いつもいる面々の中に俯くボロボロな服を着る小さな子どもと学生服を着る青年が立っていた。
 私は、青年の顔を視て鳥肌が立った。
 青年は目を瞑ったまま微笑み子どもが話しかけても笑顔を向けるだけで目も開かず話しかけることも答えることもなかった。
(ダメだ。いけないものを視てしまった)
 それでも、夢で視たのは確実にあの二人だ。困ったな。
 そう考えている間に講義は着々と進んでいく。
 90分もある講義が気づけば残り10分になっていた。
 考えないようにどれだけ努力しても頭に子どもの声が響いてくる。
(……頭が痛い。)
 次第に声は私のなかに広がり浸透していく。広がるにつれてどんどん頭痛は酷くなり冷や汗が止まらなくなる。

 頭痛に耐えるなか聞きなれたチャイムが教室中に響く。
 あぁ、疲れた。そう思いながらいつもの痛み止を飲む。
 飲んだって変わらないけど気休めにはなる。
「……はぁ、どうするかな」
 そう呟くと同時に
『お姉ちゃん……』
 この声どっかで聞いたような……
 そう思ってスッと目を開くと身体中に悪寒が広がった。

 私の目の前に立つような人はいない。普通なら。
 でも、例外はいる。
 今、目の前にいるのがそうだ。
 講義中感じた鳥肌の存在が私の前でニコニコと微笑んでいる。

 私の視えるものは2つ。
 霊か感情(こころ)だ。
 目の前にいるのは霊と感情の両方だった。

『お姉ちゃん、明(あなり)が変なの。ずっとこのままなの、僕とお話ししてくれないの』
 青年の手を握っていた子どもが机を手でつかみながら訴えてくる。
 そんなことを言われても困る。私の知らないことだから
「…………」
 私はなにも言えない、怖いし。
『……うぅ。』
 無言が続き目を合わせられない私の前で涙ぐみ始める子どもは口元をおさえ泣くのを我慢しているのだろう。
「……話だけね、」
 負けてしまった。子どもの涙には勝てない。
 本当はいけないのに……
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