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再出発
戻らない
しおりを挟む困ったように笑った零に、思いの外、俺は冷静でいた。それは零が帰ってくることがあったら、きっとそうなることは分かっていたからだ。
「…俺は、お前と離れたくない」
「恭平」
「いっそのこと、ずっと待ってた方が良かった。…離婚する気はないし、サインもしない」
「戻らないと何も終わらなかったから」
「戻らなくて良かった!!」
ただ、離れたくない。けれど零の心はずっとあの男の物で。それなら、せめて。せめて淡い期待を抱いて、慎也と生きている方が良かった。
「…あの男のところに行くのか?」
「行かないよ」
嘘つけ。嘘なんか、つくな。
「行くくせに!っ…なんでだよ…!」
お前を裏切った男だろ?俺の方が側にいただろ?ずっと嫌われないように、離れていかないように、大切にしていただろ?
なのに、なんで?
「…なんで、お前は俺のことを見てくれないんだよ…」
こんなにも、好きなのに。ずっと愛してるのに。
「…裏切られても」
「!」
「恭平がずっとそばにいてくれたのに、それでも頭の隅にずっと、修也がいた」
幸せになると決めた。恭平と、慎也と、二人で。
「…忘れられないくらい、好きだった。心の底から愛してた。俺はきっと、いつまで経っても、死んでも、修也が好きなんだ」
バカでも愛おしい。そばにいてあげたい。
彼のことが、本当に好きだから。
例え、離れていても。
「…修也と再婚なんてしないよ。そんな都合のいいことしない。もう、会わない。修也のことは忘れる」
「なら…!」
「だから、恭平とも戻れない」
俺が壊した幸せは、もう元には戻らない。
ふと、考えるときがある。俺が修也のことを想っていたように、あの女も修也のことが本気で好きだったのだ。どうしようもないくらい、好きで好きで仕方がなかったのだ。
そして恭平も、同じように俺を好きだった。
どうしてみんな、幸せになれなかったんだろう?
どうして、あのとき壊れてしまったんだろう。
どうして、こんなにも恭平を傷付けてしまったんだろう。
恭平の涙を見るのは、プロポーズの時以来。
けれどあの時とは確かに、涙の意味が違った。
自分が傷つけたくせに、俺はなんて都合いいんだろう。
泣かないで、なんて。
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