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君の知らない理由
しおりを挟む煌がハッキリと「離婚してくれ」と言った。そんなことを言われたのは初めてで、まさか言われるだなんて予想もつかなくて。驚いて声も出ない間に煌は誤解してしまった。
けれどそれを解くのは多分、先になるだろう。スマホをポケットから取り出すと、一件のメッセージ。
〔日付け変わるまでに帰ってきてくれないなら死ぬから〕
それは紛れもなく妻からのものである。
煌にハッキリと答えが出せなかったのは、そこに理由があった。
愛里が自殺未遂を始めたのは、母に俺が浮気をしていると告げた時からだった。
その後母に言われたのは一言。
「上手くいってないのは分かってたけどね。大切な人が出来たんなら、ちゃんと終わらせないといけないでしょ」
なんとも楽観的な答えだと思った。そして愛里はもちろん、その答えは不本意そのものでしかなかった。
そんなある日、アイツが目の前で手首を切った。フルーツナイフで、血が流れるのを見て。俺は思わず駆け寄って手当てをしてしまった。これがいけなかったのだと思う。
それからはこうして毎晩のように自殺予告を送ってきては本気だと喚き散らし、朝まで起きて、俺が仕事に行くまでずっと俺のことを見ている。俺が夜中に煌のところに行かないように見張っているのだろう。
正直、鬱陶しい。こんなことを言っては悪いけれど、本当にどうでもいいのだ。煌に関わること以外に興味はない。ましてや煌を傷付けたと知ったからには許すことなど到底出来ない。
メッセージ画面を開き、帰る旨を伝える。その後に煌にメッセージを送る。もしかしたら読まないかもしれないけど。
〔全部終わらせてくるから待ってて〕
俺の中にあるのは多分、煌への独占欲だけだ。それ以外の何も要らなくて、欲しいとも思わなくて。
それを邪魔する奴がいるなら、俺は容赦をしたりはしない。
だってどうでもいいんだから、傷付こうが泣こうが喚こうが、もうどうだっていいのだ。
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