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47,幸せの最中

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 さて。現状況を説明しようと思う。

 その前にひとつだけ。

 俺には一つ、欠点がある。直せと言われてもそんなに簡単には直せないものだ。
 それは『大雑把すぎる』ということである。例えば今日の出来事を話すとしても、端的に話すものだから、相手は話が理解できないのだ。最近は意識して直す努力をしているけれど。
 ではこんな厄介な欠点は誰に似たのか。考える間も無く分かってしまう。この欠点は確実に母譲りなのだ。
 母はとにかく大雑把だった。

 故に起きたすれ違いを、誰も知らなかったのだ。


「私はレイシェル様に、レイを任せられるのは私だけだと言われて…」
「私こそ、レイシェルに聞いた作戦では、レイシェルがなんとかしてレイを逃がすからと…」

 そう。レイシェルの話した作戦が大雑把すぎて、シーザとロイスの中で大きな誤解が生じていたのである。ロイスはレイが生きていることをシーザに知られまいと、シーザもレイが生きていることをシーザや正妻に知られまいと奮闘していたのだ。
 全てはレイシェルの説明不足である。

「ていうか目的が同じなら探してくれたら言ってくれたらいいでしょう」
「お前こそ私に言えば良かったのだ。そもそも私よりも先にレイと再会しているとは…」
「父上は昔から…」
「お前の方こそ…」

 と、いうわけで。

「まぁどっちにしろ、母様が死んだのは父様のせいだと思うことにします」
「……それについては反論しない。が、私はレイシェルも、レイも、愛している」
「…そうですか」

 シーザ曰く、レイシェルには幼馴染の男がいた。当時レイシェルと恋仲にあったシーザだが、お互い両親に反対されて泣く泣く別れたのだという。だがレイシェルが結婚すると知って、やはり諦められなかったシーザが結婚式からレイシェルを連れて逃げたのだという。
 そこまですると先代も諦めたのだが、諦めなかったのが先代夫人だったらしい。レイシェルをあの手この手で虐めたものの効果が無く、正妻を蔑ろにしないという理由で妾になることを許したとかなんとか。

「…隠居してようやく、レイを探すことに集中出来ると思ったんだが」
「どこが隠居ですか。さっさと私に当主の座を譲ればいいものを」
「あぁ、そうする」
「……えっ、いいんですか」

 拍子抜けた顔をするロイスに、シーザは穏やかに笑った。

「レイを探すのに人脈と権力が必要だっただけだ。見つかったのだからもう何も要らないさ」
「そうですか。まぁくれると言うなら貰います。…あ、そうだ、父上」

 思い出したようにロイスが言葉を紡ぐ。

「私、結婚することに決めましたので」
「そうか。………はっ?」
「だから、結婚」
「え?お前が?ずっと女を取っ替え引っ替えして、興味無さそうにしていたお前が?ーー今度は何を企んでいる?」

 父様、中々酷いですね。リヴィウスは少し笑いを抑えようか。

「心から愛する人を見つけたんです」
「……え、本気で怖いんだけど」
「失礼な。…彼は本当に美しい」
「え、男なの?」
「その姿はまるで薔薇のように美しく、儚い」
「ねぇ父さんの質問聞いてる?」
「立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花ーーまさにあの人のためにある言葉だ」
「おーい、ロイス?」
「叶うことなら誰にも見られない場所で老いて行くまで私のことだけを見ていて欲しい…」
「お前サラッと危ない発言するね?」

 父のツッコミが的確すぎて、リヴィウスの腹筋が現在進行形で崩壊中だ。

「兄様、ローレンの意思も大切ですよ」
「あぁ。なんと、私の気持ちを受け入れていいと言ってくれたんだ。晴れて恋人同士になったよ」
「そうなんですか」
「これもレイのおかげだな。ありがとう」
「ねぇちょっと、私のこと置いて行かないでくれ。…そのローレンさんとやらは、どの方なんだ?」

 リヴィウスに目配せをすると、頷かれる。それを合図に侍女が外へローレンを呼びに行く。
 しばらくして入って来たローレンの腰をさり気なく抱える兄様、流石だと思います。紳士的すぎてローレンに叩かれてますけど。

「陛下、お呼びですか」
「お前を呼んでるのは俺じゃなくて、アグシェルト公爵だ」
「………はっ!?」

 明らかに硬直するローレンとシーザ。そりゃそうだ。見るからにアルファなローレンの腰に間違いなくロイスは手を添えている。

「……ええと」
「父上。この人が私の愛する恋人ーーいえ、事実上婚約者のローレンさんです。この人と結婚します」
「アンタ何言ってんの!!?え!?公爵様の前で何言ってるんです!!?」
「ローレンさん、照れなくても…」
「照れてんじゃねぇよ!吃驚してんだよ!!見てみろよ!公爵様、吃驚しすぎて固まってるじゃないですか!!」
「そんな気遣いを見せる貴方も素敵だ」
「アホか!!!」
「……ロイスよ」
「…あぁ、まさかご自分のことを棚に上げて結婚に反対すると言うのならーー全ての人脈と我が人生を賭けて貴方をぶっ潰しますけど?あぁ、貴方が隠居した後は公爵家からの送金は一切無いので貴方の大好きなギャンブルも出来なくなりますが」
「はっはっは、もちろん認めるに決まっているだろう!それで式はいつにするんだ?」

 父様、ギャンブルの下りで目の色が変わりましたね。ていうかまだ依存症治ってなかったんですか。

「そうですね、明日にでも」
「ちょっ!俺まだ結婚するとか…」
「何故?私の気持ちを受け入れてくれると言ったでしょう?」

 人目も憚らず、ローレンの頰にキスを落とす様はまるで物語の中の王子のようだ。

「そ、それとこれとは…」
「私は早く貴方を自分の物にしたい……いけないことですか…?」

 はい、アウト。その顔はもうアウト。

「いけなくは、ないけど」
「ない?分かりましたオッケーってことですね。父上、式は後でいいです。先に入籍だけ済ませます」
「だからまだ結婚とか…」
「ローレン」

 ギャイギャイとうるさい兄様を放って彼の名前を呼ぶ。助けを求めるような眼差し、期待の眼差し。
 うんーーごめんね。期待には添えないや。

「もう捕まってるから。観念したら?」

 俺が出来るのは、未練を吹っ切ることのみです。
 ローレンが情けない顔をするけれどーーその裏に隠されている幸せそうな顔に、もちろんリヴィウスも気付いているのだろう。

 この人と出会えてよかった。
 そんなことを思うようになった俺は、多分、幸せというものの最中にいるのだと自覚して、レイはまた笑った。
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