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45,親子の再会まであと数時間。

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「陛下?これは一体何でしょうか?」

 にっこりと笑いながら尋ねるレイだが、余裕なんてものがあるはずない。何しろ、もう今日は疲れているのだ。

「何とは?」
「取り敢えず俺の上から退いてくれると助かりますけど」
「嫌だ」
「駄々っ子ですか」

 はぁ、とため息をついてしまう。ぎゅうぎゅうと抱き締められるのは嫌いじゃないけれど、しばらく子作りは要らない。と考えているのは多分レイだけだろうが。

「怒って……は、いませんね。何を拗ねているんですか?」
「……何故、もっと早くに話さなかった。お前のことでやきもきしていた時間を返せ」
「『兄弟なのか』とは聞かれませんでしたから。聞かれていないことは答えません」
「普通そんなこと思い付く訳がないだろう。…大体アグシェルト公爵家だと?あぁもう、訳が分からん。俺はお前から何も聞いていないぞ」
「そりゃ、俺だって忘れたつもりで生活していましたから。あの時に兄様が自分を憶えていてくれたことが嬉しすぎて、少々目に余る行動を取ってしまったことは反省していますが」

 あくまで少々だ。これでも節度を持っていたのに兄様との仲まで疑われて、一応傷付いているのだ。

「…そうか、お前の兄か……。…では俺の義兄だということだな」
「まぁ、そうなりますかね」
「……詫びの品としてローレンを差し出そう」
「うわぁ、すっごく喜ぶと思いますよ~」
「そうだな。アイツも案外満更でないだろう」
「…え、気付いてたの?」

 ローレンの気持ち。あんなに上手くポーカーフェイスしていたのに。

「アレとは長い付き合いだからな。まぁアレが嫌がろうと義兄の頼みなら何でも聞こう」
「…家族まで懐柔しようとするとか怖いんですけど」
「愛が深いだろう。…それよりもまだアグシェルト公爵は来ないのか」
「あの人物凄く自由人でしたからねー。今頃自分が何をしたか考えてオロオロしてるんじゃないですか?ーーあぁ、そうだ、陛下」
「なんだ?」

 いいこと思いついたと言わんばかりの表情で、レイは本来の腹黒さを発揮する。

「折角の親子の再会ですから、もっと趣旨を懲らせましょう?陛下言ってましたよね、おねだりしていいって。…俺のお願い、聞いてくれますよね?」

 あざとく首を傾げて笑みを浮かべたレイに、リヴィウスも笑い返す。

「あぁ、何だって聞いてやろう。愛しの妃の頼みなら、何でもな」

 まさしくアグシェルト公爵の終わりの鐘が鳴った時だったが、本人はもちろん知る由もなく、自分は何かしただろうかとやきもきしながら馬車に乗り、辺境の別邸から王都へと急いで向かっていた。
 嫌な予感はしていたが、それが親子の再会まであと数時間であることだなんて分かるわけもなく、ただ襲ってくる未知の恐怖に身体を震わせていた。
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