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32,大切にはされている

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 流石に二度目の妊娠ともなると、不安なんていうものは一切ない。

「それにしてもこのお茶は美味しいですねー」
「そうだろう。我が国の特産物だからな」
「フルーツの香りが凄くしますよね。何の果物ですか?」
「あぁ、それはな…」

 ほのぼのと会話をするアートラスとレイを横目に、リヴィウスは決して上品とは云えない舌打ちを何度も立てていた。

「レイ、そろそろ疲れただろう。部屋で横になれ」
「大丈夫だってば」

 二度目だからと不安が無くなったのはレイだけだったようで、リヴィウスはアルバートの時よりも心配性になっている。

「そうそう、この茶は妊婦にいいのです」
「確かに、飲みやすいですからつわりの時にいいかも」
「妊娠中はつわりのせいで栄養不足になることもありますので」
「妊娠中じゃなくても飲みたくなりますね。これ、使節団の商人の方で売っている方はいらっしゃいますか?」
「商人には手の届かない品物ですから。王妃様が気に入られたのでしたら、この国と友好の印として後程運ばせましょう」

 パッと表情が明るくなったレイを見て、リヴィウスが苦笑する。

「そんなに気に入ったのなら、こちらの特産品と交換しよう。確か銀光石を求めておられたが」
「え、良いのですか!?何十年求めても銀光石だけは譲って戴けなかったというのに…!」
「レイが欲しいものなら何だって与えてやりたいのだ。それでいいな?」
「もちろんでございます、陛下!誠にありがとうございます!」

 銀光石は我が国でしか採れない鉱石であり、少量でも暗いところでは眩しいほど光ることでランプというものの流通がなくなった。ランプは火を付けなければならなく、その分火災などの被害が増えてしまう。
 この城の装飾にも勿体ないほどの銀光石は使われているが、それを他国に譲ることは決してなかった。

「それにしても王妃様は本当に大切にされておられる」
「え?あ、そう…ですね」

 その愛が少し重いんだけどなぁ、とは言わない方がいいだろう。

「アートラス王子にはレイを介抱して頂いた上に、懐妊にも気付いてくれた。本当に感謝している」
「いや、こちらこそ。この御恩は決して忘れませぬ」

 銀光石を取り引きしたとなれば、リオールの国王も上機嫌だろう。

(リオールに行ってみたいなぁ…)

 昔、アグシェルト公爵家の絵画でリオールの王都を見たことがある。
 ミルの塔という大陸で一番高いと言われる塔がある。頂上からの景色はそれはそれは素晴らしいそうだ。

「…レイ?どうした?」
「あ……アートラス様、後で商人を部屋に呼びたいのですが……リヴィウス、いいよね?」
「俺も一緒ならな」
「もちろん構わない。信用の出来る者だけ送らせよう」
「ありがとうございます。では、私はこの辺で…。お二人はお話があるでしょうから」
「レイ、一人で帰れるか?」
「うん。アートラス様、失礼します」
「ではまた後で」

 一人というか、ローレンがいるし大丈夫だろう。それにしても、と思う。

(歩行具で歩くの疲れたなぁ…)

 大切にされることは嬉しいけれど、もう少しくらい軽い愛でいい。
 多分それは叶わないだろうなと、レイは一人で苦笑した。
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