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29,お説教をされました。
しおりを挟む引き攣った顔をしていたリヴィウスだったが、次第にその顔は冷たくなっていった。
「アートラス殿。何故、私の妃と?」
「誤解なさらないで頂きたい。まぁ、その身体に触れたことは事実だが」
「な、に?」
「ち、ちがっ、陛下っ、そうじゃなくて!」
「何が違うというのだ?」
コテンと首を傾げる天然イケメンのアートラス。やめてくれ、今は火に油しか注いでいない。
「いや、陛下、本当に、陛下が思っているようなこととは違いまして、」
「…来い」
ヒッ、と喉の奥まで出かかった声が、宙に消えていく。声がもう、人間とは思えないほど低かったのですが。俺はこれからどうなるのでしょうか?
***
「ひょわっ!」
情けない声を出したのも許して欲しい。部屋に連れられるなり、思いっきりベッドの上に投げられたんだから。
「あ、あの、陛下、」
「黙れ」
「っ!」
キスで口を塞がれーーるだけで済む訳もなく、舌が遠慮なく入り込んでくる。
「ふ、ぅっ!」
「…口を開けろ」
「陛下、ちが、っ」
話を聞く気はないらしく、口を離されたと思いきや、リヴィウスの頭がレイの肩に乗った。
「へ、陛下?」
「……血の味がする」
「っ……あの、それは…」
「…心臓が止まるかと思った」
「えっ?」
肩から頭を離したリヴィウスが、まっすぐにレイを見た。その瞳には不安だとか嫉妬だとかが入り混じっている。
「お前が使節団の男に見惚れていたのを、見たから、…あんなところに二人きりで、しかもお前はソファーの上に、寝転がっていて」
「あ…」
「服も、肌蹴ているし、…分かっている、お前がこの城で、俺を裏切ったりはしないと。それに、その足で逃げようとしないことも、ちゃんと分かっている」
それでも不安なんだ。消え入るような声に、レイは何も返せなかった。リヴィウスのためにしたことが結局、リヴィウスを不安にさせて、心配をかけていた。
「…けれどやっぱり考えても、お前とアートラス殿が話す理由など、見当たらない」
「あ、アートラス様は助けてくれて」
「助けて?」
「そう、あの、時間がかかるけど、長いけど、聞いてくれる…?」
上目遣いで目を潤ませるレイに、リヴィウスはぐっと息を飲んだ。襲いかかりたい衝動を我慢して、頷く。
それにホッとしたような表情を浮かべたレイがぽつりぽつりと話し出した。
そして十分後。
「事情は良く分かった。後でアートラス殿にも謝罪と礼を述べておく。では、選べ」
「え?」
「三時間説教か、二時間俺に好きにされるか。どちらか選べ」
「はい!!?」
なんですか、その究極の選択は!!
「あ、あの」
「なんだ?まさか両方…」
どうしよう。すっかり忘れていたけれど、アートラス様に言われたこと。
このお腹に新しい命がいるかもと、まだ伝えられていない。
とにかく万一のことも考えて、好きにされる事だけは避けなければならない。
胸の中で盛大にため息をついて、レイは呟いた。
「三時間説教でお願いします…」
「そうか、分かった」
そして二時間三十分後。
「あと三十分か」
「そうですね」
ようやく、あと三十分。
そう思って嬉しくなったレイをまるで地獄に突き落とすかのような発言。
「では今から、二時間俺に好きにされる方を開始させてもらう」
「……はい!?」
「選べとは言ったが、それを聞き入れるとは言っていない」
しれっと答えるリヴィウスの頭を思いっきり殴ってしまう。どうしよう、国王陛下の頭を殴っちゃったよ。
「…なんだ」
「無理です。しばらく陛下の好きにはさせません」
「…なんだと?」
「……多分、赤ちゃん、出来たので」
レイの言葉にリヴィウスは呆けた顔をしてから考えるような素振りを見せ、かと思いきや首を傾げた。
「意味が分からない」
「そのままです。さっき、アートラス様が…」
「……そういうことは早く言え!馬鹿者!!!」
「ひゃっ、」
「寝ろ!馬鹿者が!!」
無理やり寝転がされ、布団をかけられる。ローレンの声がして、リヴィウスが医者を呼べと叫んだ。
そしてその後すぐ、医者は来た。
「おめでとうございます、王妃様。御懐妊です」
うん。とにかく、アートラス様にお礼を言いに行かないとね。…まさか本当に出来ているとは思いもしなかったけれど。
目の前で喜んでる夫がいることだし、まぁ、いいか。
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