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28,イケメンに助けられました。
しおりを挟むリヴィウスが宴や何やでバタバタしている間も、レイは薬の副作用に苦しんでいた。
(…もう、飲みたくない…)
今でも頭痛がするのに、更なる頭痛をわざわざ自分で引き起こす意味はあるのだろうか。
もういいんじゃないか。…違う、駄目だ。
陛下としての仕事をこなすリヴィウスが、レイは好きなのだ。自分のせいでそれを中断させるわけにはいかない。
これだからオメガは、と、言われたくない。
「うっ」
吐きそう。
そう思ってうずくまった途端、ローレンが駆けてくる。
「王妃様!」
「っ…みず!」
「すぐに持って参ります!」
遠ざかるローレンの後ろ姿を見ながら、レイは口を押さえる。吐くと言っても、何か違う。鉄臭い何かが口いっぱいに溢れた。
「うっ、げほっ、…!」
耐えきれずに吐き出したのは、明らかに真っ赤な鮮血だった。
(そういえば副作用の症例に吐血もあったか…)
流れていく血を見た瞬間に、身体の力がスッと抜けた。最近悪夢が続いたことと、副作用で眠れなかったことが祟ったのだ。
そこで意識を手放したのは、忍び寄ってきた足音がローレンだと思ったからだった。
***
「…ここは…?」
ゆっくりと起き上がると、あんなにも激しかった頭痛は少し和らいでいた。けれども口の中は未だに鉄臭い。
「失礼だが、運ばせてもらった」
「!?」
声のした方へ振り向いて、息が止まりそうになった。そこに居たのはリオールの第三王子であるアートラス、今回の使節団の総責任者だった。
「な、なんで、ここは…」
「それにしても、この国も変わったものだ。オメガの、しかも男を王妃に据えるとは」
「っ!」
鋭い眼差しに批判されているのだと思い身体を震わせたレイに、アートラスは違う、と呟いた。
「すまない。私はオメガを迫害しているわけではない。ただ、あの薬を飲む者が居たのかと驚いているだけだ」
「……何故」
薬を飲んでいることはローレンしか知らないはずだ。ましてや初めて話すこの男は、一体。
「一から話そうか。私はリオールで医者としての研究をしている。目の前で血を吐いて倒れられた、しかも王妃様をそのままにしておくわけにはいかない。無礼ながらも脈を診させて頂いた非礼をお詫びしたい」
「あ、いや…」
そうか、脈診か。というか、ここに運んでもらえて助かったのかもしれない。変に噂を立てられて、リヴィウスのためを思ってしたこたがリヴィウスに迷惑をかける羽目にならなくて、本当に良かった。
「こちらこそ、申し訳なかった」
「…国王陛下は薬のことをご存知で?」
「…いえ。出来れば秘密にして頂けると有難いのですが」
「言い触らす必要がありませんので、ご安心を。それよりも薬を飲まなくても良いと思いますが」
「は?」
「腹の胎児に良くありませんよ」
「……胎児?」
一瞬何を言われているのか分からず、首を傾げたレイだったのだが。
その直後の出来事に、問いかける言葉すら失ってしまった。
まさに、地獄から這い上がってきた極悪人のような顔。
「…何故、お前が、ここに、いる?」
引き攣った顔をする男。
国王陛下、その顔もう少し何とかなりませんかね?
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