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16,大切なことは

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 というわけで、リヴィウスが持ってくるご飯をリヴィウスが食べさせてくれるということになった。優しいね。

「…部屋を明日に移動する」
「そうですか」
「そうだ、だが……まだ逃げ出す可能性があるからな。手枷は付けさせてもらう」

 足枷が手枷になったのは、少し前のことだ。今や使えなくなった足を切り捨ててでも逃げようとするかもしれない、ということを案じてだそうが…。残念ながら俺は痛いのも苦しいのも嫌いだし、この広い王城を這いつくばって逃げられるなんて考えちゃいない。

「…落ちちゃった」

 自分の足を見ながら呟く。人って歩かないと、歩けないと、こうなるのか。痩せ干そって肉も落ちて、こんな風に。

「レイ」
「…はい?」

 リヴィウスが渡してきたのは、レイの好物であるゴラルという果物だ。けれどこれは隣国からの差し入れでとても貴重な物だ。どうしてここにあるのだろう?

「これ…」
「それなら栄養も摂れるだろう。いつまでもスープなどでは体調も戻らない。明日からは食事に肉か魚介類を入れる」
「そんなに食べきれません」
「俺が何としても食べさせてやる、覚悟しておけ」
「…貴方、執務はどうしたんです」
「お前の方が優先だ」
「そう言ってサボりたいだけでしょう」

 これが昔の部屋での会話ならば、ただ仲睦まじい夫婦に見えただろうに。手枷をつけられ歩くことも出来ない俺。そんな風に見えるはずもなく。

「…新しい部屋とは?」
「俺の執務室の奥にある部屋だ。安心しろ、俺しか入れない」
「ーーそうですか」

 甘いというには歪んだ愛情だ。

「…これだけは覚えておいて下さい」

 部屋から出ようとするリヴィウスを呼び止める。これだけは伝えておかないといけないことだからだ。大切なことは口に出さないと伝わらない。ーーまぁ、口にできないことが多いけれど。

「私は、王妃になりたくて来たのでも、番が欲しくて付いて来たのでもありません。貴方の隣にいたかったから、ついて来たんです」

 この意味はわかってくれるだろう。オメガが正妃など、命を狙われることは承知の上になるだろう。

「私も、…今は亡き宰相も、貴方の子供を守る手段を得ようとしただけです。それだけは覚えておいて下さい」

 騙されたと、逃げ出すのだと勘違いしたままにされるのは嫌だ。確かに逃げ出したかった。窮屈なこの城から。それでも、貴方と、貴方の子供がいたから。

「…そんなこと、知らぬ」

 ふてくされたような横顔。これは拗ねているなと考える。宰相はもう死んでしまったけれど、それも仕方ない。
 俺のためを考えてくれていたのに、という申し訳なさはあるが。

「…それから」
「まだあるのか!」
「愛してますよ、陛下」

 ふてくされていた横顔はこちらを向いており、驚愕な表情をしている。そこまでしなくてもいいのに。

「も、もう一度言え」
「嫌ですよ恥ずかしい」
「レイ!」
「…あーもー、愛してますよ!」

 目にも留まらぬ速さで目の前に来て、苦しいほど抱きしめる。
 それが温かくて心地いい。この人になら、結局何をされても許してしまうのだ。
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