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3,男の嫉妬は醜いゾ。

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 リヴィウスがレイとろくに話さず二週間。

(そろそろこちらから折れようか?)

 ここ最近、リヴィウスの機嫌が悪いと側妃の機嫌も悪くなる。その原因が自分だということは分かっている。

 他で幸せを探すと決めたけれど、愛されている自信はある。俺もリヴィウスを愛している。
 けれど愛しているからといって、幸せなわけではないのだ。俺は誰かを愛すよりも、自分が幸せになりたいのだから。
 何も心配なく、心穏やかに。


「レイ様、どこへ…」

 廊下を突っ切るレイに、ローレンが慌ててついてくる。

「陛下に、」

 お会いする。そう言おうとしたところで、向こうから歩いてくる男に目を開く。

「…あ…」

 向こうもどうやら、こちらに気がついたようだ。

「……レイ殿」

 やはりどこかリヴィウスに似ている。

「エルヴィス様。お久しぶりです」

 会釈した程度の仲だが、名前を覚えていてくれたようだ。

「王城に戻っていらしたことは聞いていましたが、ご挨拶に参れませんでした。申し訳ありません」
「こちらこそ、本来ならばこちらからご挨拶に伺うべきでしたのに、申し訳ございません」
「いえ、そんな…」
「…もしよろしければ、少しお話をしませんか?ここで話すのも何ですから。一度レイ殿とは話をしてみたかったのです」
「え、と……」

 今から陛下に会いに行く予定だったんだけれど。

 まぁ、別にいいか。

「…こんな私でよければ」

***


「そういえば、エルヴィス様は旅に出られておいでだったのですよね。よければお話をお聞かせください」
「あぁ、やはりご存知ですか。皆が私を自由奔放な変人だと噂しますからね」

 苦笑するエルヴィスはどうやら、思っていたよりもマトモだったようだ。

「そんなこと………そういえば、どうして旅に出ておられたのですか?」
「あぁ…陛下に追い出されまして」
「え?」
「あ、いえ。…陛下に勧められまして」
「陛下が?」
「はい。少しは……その、…外のセカイに…トカ…」

 なんだろう、なんていうか。

(うそ?…つくの下手すぎ)

 少しだけ笑ってしまう。

「そうなんですか。では、その外の世界のお話を是非お聞かせください」
「…私のつまらぬ話でよければ、いくらでも」



 エルヴィスの話はとても面白かった。
 まるで信じられない話なのに、自分がそこにいるかのような感覚に陥るのだ。

「一度、おれ……私も山を登ってみたいと思っていたのです、」
「…言葉をお崩し下さい。あなたとは、とても良い仲になれると思うのです」
「ですがエルヴィス様、」
「俺も言葉を崩してもよろしいか?」
「…もちろん」

 やはり話していて楽しい。

「機会があれば、俺も旅に出てみたいです。もしよろしければその時は案内してもらえますか?」
「俺でよければいくらでも。…陛下に頼めば、少しの遠出なら許して頂けるのでは?」

 そうですね、と考える。
 まずは陛下の機嫌をどうにかしないと、と考えたときだ。


「…何故レイがエルヴィスの部屋にいるのだ」


 部屋に響き渡る、例えるならば黒い声。

「…陛、下…」
「答えろ。どうしてレイがお前の部屋にいるのだ」

 しまった、忘れてた。この人、とてつもなく嫉妬深い人だった。

「あの、陛下、」
「レイは黙っていろ。エルヴィス、どういうことだ。レイは私の側妃の一人だ。それを部屋に連れ込むとは、不忠にも程があるぞ!!」
「…申し訳ございません。私が浅はかすぎました」

 言い訳もせずに謝るエルヴィス。

(ていうか、そんなに怒らなくても…)

「…陛下は何故こちらへ」
「お前に話があった。いつになったら、また旅に出るのだ?」
「そ、れは…」
「天気も良い。旅に出るには絶好の空模様だろう」

 まるでエルヴィスを追い出したいかのような言い方じゃないか。さすがに失礼だろう。

「陛下、エルヴィス様と従弟とは云えど、その言い方はありませんでしょう」
「…なんだと?」
「私がエルヴィス様に旅の話をお聞かせ願ったのです」
「お前が部屋を出てからとうに五時間は過ぎている!その間ずっと話をしていたというのか!」
「そうです。何をお考えになっているかは分かりませんが、それだけです」
「っ…私にはろくに顔も出さぬくせに、エルヴィスとは部屋に上がり込むような仲だというか!」
「…政務でお忙しいでしょう。エルヴィス様に話をねだったのは私です」
「なんだと!?私に顔を見せる時間はないのに、エルヴィスと話す時間はあるだと!?」

 あー、うー、もう。

 男の嫉妬って本当醜い。

「そうですね。エルヴィス様の話は本当に面白かったので」
「っ…ならばずっとここにいればいいだろう!」

 そんなことを言うなら、こちらもむきになってしまう。

「そうですね、それもよろしいでしょうかね。エルヴィス様、今夜はこちらへ泊まっても?」
「へ…?え、と、私、は…」
「バカが!お前は私の側妃だろうが!さっさとこの部屋を出るぞ、噂になりでもしたらお前もエルヴィスも許さぬからな!」

 なんだよ。泊まれって言ったり、早く部屋を出ろと言ったり。

「…おい、早く行くぞ!」
「はいはい……。…エルヴィス様、申し訳ございません。また改めて…」
「レイ!!」
「いいのです、申し訳ありませんでした」

 頭を下げるエルヴィスに、少し胸が痛んだ。
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