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しおりを挟むぼたぼたと垂れ落ちる白い液体を何の躊躇も無く口に含んだ晴人はそれは綺麗な顔で笑った。
「俺に突っ込まれてこんな風になって、もう女の子なんか抱けないな?」
あぁそっか、本当だ。自分で興味を持つよりも先に当たり前となったこの行為は自分の中では晴人としか適用されない。こういうことを女の子とするのが普通だと言われるまで忘れていた。
(でもこの人はいつか女の子と結婚して、当たり前みたいに良いところに就職して、良い旦那さんになって、良い父親になって)
そこに決して自分は居ないけれど、この人は別に僕なんて居ても居なくても良いから。
「最近学校終わってから塾に行くまで家にいるんだろう?あのガキと縁が切れて、良かったな?」
悪びれもなくそんなことを言う彼を責める気にはならない。あの電話の後、数学の教科書は教室の机の中に入っていた。廊下ですれ違ってます気まずそうに避けて通るのを呼び止めなかったのは、これが異常なことだと理解出来てむしろ良かったからだ。
これは異常で、それを寛容している自分は更に異常だ。
「真琴、この奥まで掻き回されるのが良いんだろ?」
グッと奥まで挿入されて声が漏れそうなのを何とか飲み込む。今夜は下に両親がまだ起きている。大きな声を出して訝しんで来られたら全て終わりだ。
カチカチと震えてぶつかる歯にそろそろ限界だと感じた。
「キス、してっ…」
口を塞いで、全部、忘れさせて。声も何もかも消して、今だけはこの快楽に身を流して。
「っ…は、かわい…」
優しく撫でる手が好きだ。忘れかけていた母親と、何度かしか会っていないのに父と呼べという義父に不信感しかなかった。
そんな僕の、たった一つの、大切な人。僕のそばからその言葉通りずっと離れずそばにいてくれた人。
兄のこれは執着ではない。僕のためのものだ。
僕がいつまでも離れられないから、こうするしかなかった、可哀想なお兄ちゃん。
「…大好きだよ、お兄ちゃん」
恋心を何度も絞め殺して、息が詰まるのにも慣れてしまった。
いつまでも依存している自分に嫌気すら差したのに。
「だから、ずっと彼女と別れないでね」
だから僕は、上手にこのこころを壊すことにしたんだ。
「…は…?」
僕の上で腰を振っていた彼がピクリと止まる。その顔は何を言っているか分からないというものだった。
「僕、お兄ちゃんのこと大好きだよ。部活でエースで、勉強も出来て、格好良くて、可愛い彼女もいる」
どこからどう見ても完璧な高校生だ。それが、僕の自慢のお兄ちゃん。僕だけのものにしたかった、お兄ちゃん。
「このベッドで誰と寝ても良いよ、元々お兄ちゃんの部屋だし。だから」
「だからお前が他の奴に尻尾振るの許せって言ってんのか」
グッと首を掴まれたことに恐怖はなかった。きっとこの人が僕を本気で殺そうとすることなんて無いと分かり切ったからだ。
「僕はお兄ちゃんが言った通り、家族を壊したくないよ。でも貴方の言いなりになるのは、もう疲れた」
あの日以来一度も考えなかったのが不思議なくらいだ。だって僕は、貴方が好きだった。だから離れたいなんて思いもしなかったけれど。
「海央学園には行かない」
「そんなことを許すと思うか」
「僕は貴方の所有物じゃないし、僕は、もう」
貴方のそばにいることが苦しい。女と寝ればいい、それは自然で当たり前のことだ。
こんな僕のためなんかに輝かしい人生を捨てるのだけは。
「今、もう僕にお兄ちゃんは、要らないよ」
苦しくて堪らないのはきっとどれだけ口にしたって僕だけだ。
ほらね、その証拠に、この人は何も言わずに部屋を出て行ったじゃないか。
「…たすけてよ」
誰か、痛くないこころの壊し方を、教えて。
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