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しおりを挟む学校から帰って塾の支度をし、その足で宇崎の家へと向かう。
塾から帰宅したら夕食を食べて、風呂に入って、宿題や復習をして、それからベッドの中で晴人と抱き合った。
そんな風にして気が付けば一年が経った頃。
その日は両親が一泊二日の旅行に出かけて、僕は学校が休みだから塾に行って自習すると嘘を付いて宇崎の家で遊んだ。
怪しまれないよう夕方に帰宅して、まず最初に目に入ったのは女物の靴。母のではないし、義父が斡旋して寄越した家政婦のものにしてはあまりに派手だ。それにあの家政婦は昼には夕飯を冷蔵庫に入れてあるからと帰宅したはずだった。
何と無く嫌な汗を流して、けれどいつも通りに靴を脱いで手を洗い、階段を登って晴人と共同の自室へと向かう。
扉に手をかけようとして微かに開いているのが分かった。
「あっ、はるとくんっ、すきっ、もっと…!」
女の甘い声が聞こえて、久しぶりに血の気が引く感覚を感じた。ここ最近は滅多に感じていなかったものだ。
昨夜も僕を抱いたそのベッドで、兄は女を抱いていた。
暑さのせいかそれともこんな光景を見たせいか、ポタリと汗を床に流した僕は更に背中が凍り付いた。
あの熱を孕んだ目で、晴人は扉の向こうにいる自分を見た。
そして、その綺麗な顔で笑って、見せ付けるように腰を動かして声を響かせた。
「俺も好きだよ」
優しくその女に注がれた言葉に僕は息が詰まって、そうしてこの胸の中にあるどす黒いものの正体を思い知った。
これは嫉妬だ。あの人の下で喘ぐその女は初めて僕を叩いたあの女で、あの人から好きだと言ってもらえた、あの女は。
(僕をどうさせたいの?)
毎日のように抱かれて、それが当たり前の身体にしておいて、なのに貴方はその上まだ僕をどうにかさせたいの?
僕がどうしたら満足なの。この心の向くままに、そこに乗り込んでその女をベッドから引きずり出せば良い?
貴方は、どうして僕を苦しめるの?どうして僕は、いつも貴方の思い通りに。
(あぁそうか、こうすれば良いんだ)
泣きたい時に笑うのなんて、人間の本能のようなものだろう。
精一杯の笑みを浮かべて彼に目を細めれば、ぽかんとした顔でこちらを見つめている。間抜けな顔も綺麗なのだから、本当に凄いなと思うよ。
「晴人くん?どうしたの?」
「え、あ、いや」
吃っている彼から背を向けて階段を降りる。その足取りはいつも通りで、別に焦ることも無く、急ぐわけでも無く、何もなかったかのようにゆっくりと階段を降りて外へ出る。
(宇崎の家──駄目だな、心配かける)
駄目だ、行くところなんてない。気持ち悪い。帰りたくない、あの女に会ったりしたら、僕は。
駆け込んだ駅のトイレでえずきながら自分の性器を見て更に吐き気がする。あんな場面を見て、それでこんな風に反応して。
「ほんっとに、さいあく」
初めて自分の意思で出した白濁の液体を流しながら、汗と共に落ちたのは涙の粒だった。
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