元カレに脅されてます

榎本 ぬこ

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続・元カレに脅されています

楽しいけど

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「…はい、出来た」
「…どーも…」
 浴衣の着付けも出来ないなんて、恥ずかしすぎる。
 そう呟くと、悠が愛おしそうに頭を撫でた。
「お前に出来ないことがいっぱいある方が、俺は嬉しい」
「え?」
「だって、お前に出来ないことがあったら、俺が教えてあげられる。…たまには少しくらい、彼氏面させてくれ」
「っ…もう…」
 なんなんですか、本当。これ以上俺の心臓を壊して、どうする気だ。
「…かわいい」
 ゆっくりと瞼にキスを落とされ、鼓動が早くなる。
「カッコイイ、の方が嬉しい」
「ふくれっ面するなよ。…仕方ないだろ、かわいいんだから」
「真顔でそういうこと、言わないでください。本気にしますよ」
「俺はいつでも、本気だけど?」
 やめて、と小突いて、部屋の鍵を手に取る。
「夕食までまだ時間ありますし、露天風呂行きませんか?」
「そうだな、することそんなにないし」
 ふっと笑った悠の顔に、また鼓動が早くなる。
「…先…悠さん、和服似合いますよね、昔からずっと」
「ん…そうか?」
「うん、すっごい似合ってる。なんていうか…立ち振る舞いも、綺麗だし」
「そんなことねーって」
「高校の時の文化祭でも、浴衣着てたでしょ?俺、あの時、」
「恭弥、マジで…もう、やめて」
「え?」
 見上げると、顔を真っ赤にして手で押さえる悠が、バツ悪そうにこちらを見下ろしている。
「あのな。お前、褒めすぎ。マジで恥ずかしいから」
「でも、カッコいいですよ」
「っ…だから、そういうことをっ…!」
 言うな、と悠が言いかけてやめる。
「悠さん?」
 廊下を通る人々の視線が、恭弥に集まっているのが分かったからだ。
「どうかしました?」
「…いや…」
(なんていうか、…コイツ、なんかすっげーエロい空気、出てるんだよな…)
 見ているだけでドキドキしそうなほど…一言で言うなら、綺麗で。
「いたっ…!」
「…あ、ごめん」
 無意識のうちに、恭弥の胸元を締めるため、手を伸ばしていた。
「あ…ごめんなさい、見苦しかったですよね」
「…そうじゃない」
 縁も関係もない、ただの通行人に妬いてただけ、なんて。
(言えるわけ、ねーよな…)
「…あの、やっぱり」
「ん?」
「内風呂、入りませんか。あ、えっと…露天風呂、混んでるかも…」
「うん、俺もそう思ってた」
 これ以上、恭弥を誰かの目の触れるところに置きたくない。
「…注目されてる」
「え?」
「通行人の人、すっごい先ぱ、…悠さんのこと見てる。さっきからずっと、かっこいいって言ってる」
 先輩と呼んだら怒るのを分かっているからか、無理やり言い換える姿も、全部が愛おしくて。
「…気のせいだろ」
 だから、視線を集めているのはお前だ、なんて。
 絶対に、言わない。
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