49 / 65
捨ててくれてありがとう
しおりを挟む
ミハエルは、全てを手に入れるつもりだった。
己の容姿に釣り合う美しい婚約者、父が国王であるからこその次代の王の座、機転のきく従者も。全て、何もかもを手に入れて、輝かしい未来を自分が輪の中心で成し遂げると決めていた。
その力はあるのだ、と祖母からずっと言い聞かせられていた。
『ミハエルちゃん、あなたはとってもいい子ね』
『あなたは、必ず国王になるのよ』
『おばあちゃまと、お母様にぜーんぶお任せなさい』
『欲しいものは何でも手に入れてあげるわ』
『あなたが孫で、おばあちゃまは鼻が高いわ。あなたは自慢の孫よ、ミハエル』
にこにこと微笑んでくれている先代王妃でもある祖母は、ミハエルの欲しいものを本当に何でも手に入れてくれた。
その筆頭がフローリアだ。
可愛らしく控えめで、相手にされないからとキーキー騒いだりしない、落ち着いた女の子。
年頃のうるさい令嬢と比較しても、自分の隣に並んでくれたらさぞかし良い組み合わせに見えるだろうと思ったミハエルは、権力をフル活用してフローリアを婚約者にした。
それが無理矢理であるとは理解はしていたものの、フローリアが手に入るのならば、それで良かった。
パーティーに来ていたところの、家族で笑いあっていた幼いフローリアに、ミハエルは一目惚れをした。
恐らく姉妹であろう同い年くらいの女の子と、母親と、父親と、仲良く笑いあっていて、とても柔らかい雰囲気を醸し出している、とっても可愛い女の子。
「(あの子が、俺の運命の子だ!)」
祖母である王太后に、慌てて駆け寄って話せば『まぁまぁ、ミハエルちゃんが欲しいなら手に入れてあげましょうね』と微笑み、そうして婚約者にしたのだ。
母である王妃も『あの子ならきっと良い王太子妃になるわ。さすがわたくしのミハエル、見る目がありますね』と褒めてくれた。
皆で大切にしてあげるから、きっとフローリアも幸せだと思っていたのに。
「……ライラック=シェリアスルーツと申します」
淡々と、能面のような顔で自己紹介されたとき、ミハエルはとてつもなく困惑した。
どうしてこの子は、笑っていないのだろうかと。
だってあの時は笑ってくれていて、あたたかな雰囲気で、と頭の中を色々な思いがとてつもない速度で駆け巡っていく。
「よろしく、お願いいたします」
義務で自己紹介しています感がありありと見えるが、きっとこれは緊張しているからだ、と前向きすぎる解釈をしたミハエルは、にこにことフローリアの元へ歩み寄り、そして悪気なくこう告げた。
「お前の顔の良さは、俺の隣に並ぶにふさわしい!前にも話したが、お前は強いひとがいいんだよな!俺は王家の人間だ、つまりお前の家よりも遥かに強い!だから、俺がいいんだ!」
超次元的な解釈なことに加え、孫バカ王太后と、当時は息子バカだった王妃のありとあらゆる手回しによって、フローリアはとてつもなく嫌々ながら、王太子妃候補となってしまったのだった。
フローリアはとても優秀だったことに加え、王太子妃教育を始める前には侯爵家の跡取り教育が始まっていた。
だから、ある程度の礼儀作法の動作は身についていたから、というのもあるが、家柄の特徴も相まって体幹が物凄く良かった。なので、カーテシーの際によろめいたり、ぶれたりもしなかい。
なおかつ、綺麗な歩き方の練習のために本を頭の上に乗せて歩かせても、問題なくスイスイと歩く。普段の鍛錬の賜物なのだが、ミハエルはこれを『自分と結ばれたいがために必死に家で反復練習をしてくれていたから身についた!』と大層な誤解のもとに理解した。
お前どれだけ夢見がちな天才児なんだ、と当時からシェリアスルーツ家とシェリアスルーツ家の親戚一同は頭を抱えていたのだが、相手は王太子。そんなこと口になんか出せやしない。
このままフローリアが王太子妃になってしまったりしたら、またあの当主選抜を行うのか……とげんなりしていたところに、まさかのタイミングでの婚約破棄に、喜ばないわけがない。
──という諸々のお知らせを、今このパーティーの場で暴露してやろうか、とアルウィンは考えているのだが、ミハエルは呆然としていて、恐らく言ってもダメージが通りそうにない。
やるなら一番効果的にやらないと意味がないのだが、しかしアリカは理解しているようで、こんなはずではなかった、という顔をしている。
「殿下、そちらの王太子妃候補からの我が娘への嫌疑ですが……信ぴょう性はいかほどですか?」
「は、え?」
「だから、どの程度信用しても良いものですか、と聞いております」
「それ、は」
アリカが言ってくれたのだから、どこまでも信用しろ!とはミハエルは言えなかった。
自分が選んだ相手の間違いなんて、あるわけない。
だって、自分は間違いなんてするわけないのだから、相手だって間違えるわけがないのだ。
そう思っていたところに、シオンの痛烈な一言が突き刺さる。
「完璧主義のミハエルぼっちゃんに教えてやろう。間違っていても『正しい』と捻じ曲げまくりなお前の母親と、俺の母親……お前にとっての祖母のせいで、間違いであっても正しくなってしまったのだから、何が正解か、わからんだろう?」
「…………ぁ」
母も、祖母も、口を揃えて言う。
『あなたは大丈夫』、『あなたはいい子だから』、『お母様にお任せなさい』、『おばあちゃまが何でも叶えてあげるわ』。
考えなしに今まで行動していたが、それをサポートしてくれていたのはフローリア。
そして、フローリアがいてくれたから、側近も何とかやっていけた。フローリアの思いやりという優しい感情のおかげで、ギリギリではあったが、ミハエルは『優秀な王太子殿下』でいられ続けた、という話なのだ。
「王太后は、孫であるお前を溺愛している。だがな、愛してるなら間違いは正さなきゃいけないことくらいは理解出来るか?」
「俺は……、俺は間違えたりしない!!」
「そうか?まぁ、お前がそう言うならそれでも良いんだろう。だが、俺はお前に礼を言わなければならん」
「は……?」
ミハエルは、シオンからお礼を言われるようなことなんてしていない。
一体何が、と訝しんでいると微笑んだシオンがフローリアを見下ろす。その視線に気づいたフローリアが視線をシオンへと向けた。
まさに想いあっている二人、という光景にミハエルはまたギリギリと歯を食いしばる。
「ありがとう、お前がフローリアを捨ててくれたから、俺のものになった」
シオンはそう言って、フローリアを愛しげに抱き締める。
まるで、ミハエルから隠すように、大切な宝物を隠してしまうように包み込んだ。
「あ、の……シオン、さま……」
「ちょっとだけ抱き締められてなさい、アタシのお姫様」
「あぅ……」
もぞもぞと身動ぎしたフローリアだったが、そのままシオンの言う通りに腕の中で大人しくなる。
「な、っ」
「そして、もう一度言うが、お前が捨てたものを拾え、と俺に命じたのはお前のことを愛してやまないおばあさまだよ」
フローリアが今シオンに向けている、あの笑顔が、欲しかった。
だから、無理やりにでも婚約者にしたのに。
何もかもが、台無しになった。
己の容姿に釣り合う美しい婚約者、父が国王であるからこその次代の王の座、機転のきく従者も。全て、何もかもを手に入れて、輝かしい未来を自分が輪の中心で成し遂げると決めていた。
その力はあるのだ、と祖母からずっと言い聞かせられていた。
『ミハエルちゃん、あなたはとってもいい子ね』
『あなたは、必ず国王になるのよ』
『おばあちゃまと、お母様にぜーんぶお任せなさい』
『欲しいものは何でも手に入れてあげるわ』
『あなたが孫で、おばあちゃまは鼻が高いわ。あなたは自慢の孫よ、ミハエル』
にこにこと微笑んでくれている先代王妃でもある祖母は、ミハエルの欲しいものを本当に何でも手に入れてくれた。
その筆頭がフローリアだ。
可愛らしく控えめで、相手にされないからとキーキー騒いだりしない、落ち着いた女の子。
年頃のうるさい令嬢と比較しても、自分の隣に並んでくれたらさぞかし良い組み合わせに見えるだろうと思ったミハエルは、権力をフル活用してフローリアを婚約者にした。
それが無理矢理であるとは理解はしていたものの、フローリアが手に入るのならば、それで良かった。
パーティーに来ていたところの、家族で笑いあっていた幼いフローリアに、ミハエルは一目惚れをした。
恐らく姉妹であろう同い年くらいの女の子と、母親と、父親と、仲良く笑いあっていて、とても柔らかい雰囲気を醸し出している、とっても可愛い女の子。
「(あの子が、俺の運命の子だ!)」
祖母である王太后に、慌てて駆け寄って話せば『まぁまぁ、ミハエルちゃんが欲しいなら手に入れてあげましょうね』と微笑み、そうして婚約者にしたのだ。
母である王妃も『あの子ならきっと良い王太子妃になるわ。さすがわたくしのミハエル、見る目がありますね』と褒めてくれた。
皆で大切にしてあげるから、きっとフローリアも幸せだと思っていたのに。
「……ライラック=シェリアスルーツと申します」
淡々と、能面のような顔で自己紹介されたとき、ミハエルはとてつもなく困惑した。
どうしてこの子は、笑っていないのだろうかと。
だってあの時は笑ってくれていて、あたたかな雰囲気で、と頭の中を色々な思いがとてつもない速度で駆け巡っていく。
「よろしく、お願いいたします」
義務で自己紹介しています感がありありと見えるが、きっとこれは緊張しているからだ、と前向きすぎる解釈をしたミハエルは、にこにことフローリアの元へ歩み寄り、そして悪気なくこう告げた。
「お前の顔の良さは、俺の隣に並ぶにふさわしい!前にも話したが、お前は強いひとがいいんだよな!俺は王家の人間だ、つまりお前の家よりも遥かに強い!だから、俺がいいんだ!」
超次元的な解釈なことに加え、孫バカ王太后と、当時は息子バカだった王妃のありとあらゆる手回しによって、フローリアはとてつもなく嫌々ながら、王太子妃候補となってしまったのだった。
フローリアはとても優秀だったことに加え、王太子妃教育を始める前には侯爵家の跡取り教育が始まっていた。
だから、ある程度の礼儀作法の動作は身についていたから、というのもあるが、家柄の特徴も相まって体幹が物凄く良かった。なので、カーテシーの際によろめいたり、ぶれたりもしなかい。
なおかつ、綺麗な歩き方の練習のために本を頭の上に乗せて歩かせても、問題なくスイスイと歩く。普段の鍛錬の賜物なのだが、ミハエルはこれを『自分と結ばれたいがために必死に家で反復練習をしてくれていたから身についた!』と大層な誤解のもとに理解した。
お前どれだけ夢見がちな天才児なんだ、と当時からシェリアスルーツ家とシェリアスルーツ家の親戚一同は頭を抱えていたのだが、相手は王太子。そんなこと口になんか出せやしない。
このままフローリアが王太子妃になってしまったりしたら、またあの当主選抜を行うのか……とげんなりしていたところに、まさかのタイミングでの婚約破棄に、喜ばないわけがない。
──という諸々のお知らせを、今このパーティーの場で暴露してやろうか、とアルウィンは考えているのだが、ミハエルは呆然としていて、恐らく言ってもダメージが通りそうにない。
やるなら一番効果的にやらないと意味がないのだが、しかしアリカは理解しているようで、こんなはずではなかった、という顔をしている。
「殿下、そちらの王太子妃候補からの我が娘への嫌疑ですが……信ぴょう性はいかほどですか?」
「は、え?」
「だから、どの程度信用しても良いものですか、と聞いております」
「それ、は」
アリカが言ってくれたのだから、どこまでも信用しろ!とはミハエルは言えなかった。
自分が選んだ相手の間違いなんて、あるわけない。
だって、自分は間違いなんてするわけないのだから、相手だって間違えるわけがないのだ。
そう思っていたところに、シオンの痛烈な一言が突き刺さる。
「完璧主義のミハエルぼっちゃんに教えてやろう。間違っていても『正しい』と捻じ曲げまくりなお前の母親と、俺の母親……お前にとっての祖母のせいで、間違いであっても正しくなってしまったのだから、何が正解か、わからんだろう?」
「…………ぁ」
母も、祖母も、口を揃えて言う。
『あなたは大丈夫』、『あなたはいい子だから』、『お母様にお任せなさい』、『おばあちゃまが何でも叶えてあげるわ』。
考えなしに今まで行動していたが、それをサポートしてくれていたのはフローリア。
そして、フローリアがいてくれたから、側近も何とかやっていけた。フローリアの思いやりという優しい感情のおかげで、ギリギリではあったが、ミハエルは『優秀な王太子殿下』でいられ続けた、という話なのだ。
「王太后は、孫であるお前を溺愛している。だがな、愛してるなら間違いは正さなきゃいけないことくらいは理解出来るか?」
「俺は……、俺は間違えたりしない!!」
「そうか?まぁ、お前がそう言うならそれでも良いんだろう。だが、俺はお前に礼を言わなければならん」
「は……?」
ミハエルは、シオンからお礼を言われるようなことなんてしていない。
一体何が、と訝しんでいると微笑んだシオンがフローリアを見下ろす。その視線に気づいたフローリアが視線をシオンへと向けた。
まさに想いあっている二人、という光景にミハエルはまたギリギリと歯を食いしばる。
「ありがとう、お前がフローリアを捨ててくれたから、俺のものになった」
シオンはそう言って、フローリアを愛しげに抱き締める。
まるで、ミハエルから隠すように、大切な宝物を隠してしまうように包み込んだ。
「あ、の……シオン、さま……」
「ちょっとだけ抱き締められてなさい、アタシのお姫様」
「あぅ……」
もぞもぞと身動ぎしたフローリアだったが、そのままシオンの言う通りに腕の中で大人しくなる。
「な、っ」
「そして、もう一度言うが、お前が捨てたものを拾え、と俺に命じたのはお前のことを愛してやまないおばあさまだよ」
フローリアが今シオンに向けている、あの笑顔が、欲しかった。
だから、無理やりにでも婚約者にしたのに。
何もかもが、台無しになった。
1,530
お気に入りに追加
3,135
あなたにおすすめの小説
断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…
甘寧
恋愛
主人公リーゼは、婚約者であるロドルフ殿下に婚約破棄を告げられた。その傍らには、アリアナと言う子爵令嬢が勝ち誇った様にほくそ笑んでいた。
身に覚えのない罪を着せられ断罪され、頭に来たリーゼはロドルフの叔父にあたる騎士団長のウィルフレッドとその場の勢いだけで婚約してしまう。
だが、それはウィルフレッドもその場の勢いだと分かってのこと。すぐにでも婚約は撤回するつもりでいたのに、ウィルフレッドはそれを許してくれなくて…!?
利用した人物は、ドSで自分勝手で最低な団長様だったと後悔するリーゼだったが、傍から見れば過保護で執着心の強い団長様と言う印象。
周りは生暖かい目で二人を応援しているが、どうにも面白くないと思う者もいて…
妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。
だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。
しかも新たな婚約者は妹のロゼ。
誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。
だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。
それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。
主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。
婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。
この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。
これに追加して書いていきます。
新しい作品では
①主人公の感情が薄い
②視点変更で読みずらい
というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。
見比べて見るのも面白いかも知れません。
ご迷惑をお掛けいたしました
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
全てを諦めた令嬢の幸福
セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。
諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。
※途中シリアスな話もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる